久しぶりのMETライブビューイングだが、ワーグナーの「ローエングリン」なので、迷わず初日に映画館に出かけた。
大阪万博の時に、来日公演のドイツオペラの「ローエングリン」を観て感激したのが最初で、ロンドンのロイヤル・オペラ、バイエルン国立歌劇場など何度か観ている。
バイエルン王国ルートヴィヒ2世がワーグナーの楽劇に心酔して、ローエングリンをイメージして建設したというノイシュヴァンシュタイン城に行った時に、舞台を再現したような部屋の数々を観て、その凄さに驚いたことがある。
キャストは次の通り
指揮:ヤニック・ネゼ=セガン
演出:フランソワ・ジラール
出演:ローエングリン(テノール)白鳥の騎士:ピョートル・ベチャワ
エルザ・フォン・ブラバント(ソプラノ)ブラバント公国の公女:タマラ・ウィルソン、
オルトルート(メゾソプラノ)フリードリヒの妻、魔法使い:クリスティーン・ガーキー、
フリードリヒ・フォン・テルラムント伯爵(バリトン):エフゲニー・ニキティン、
ハインリヒ・デア・フォーグラー(バス)東フランク王:ギュンター・グロイスベック
休憩を含めて5時間の長時間公演なので、心理描写の葛藤が凄いのだが、あらすじは、ほぼ次の通り。
ブラバント公国へ、東方遠征の兵を募りにやってきたドイツ国王ハインリヒ1世に、テルラムント伯爵が、世継ぎのゴットフリートを姉のエルザが殺したと訴える。夢に現れた騎士が無実を証明してこの窮地から救ってくれると 語るエルザの前に、奇跡的に、騎士が現れて、テルラムントと戦って勝利し邪悪を暴く。騎士とエルザと結婚することになる。ただし、自分が誰か絶対に問わないと言う条件をエルザに課す。だが、復讐に燃えるオルトルートが夫を煽って、騎士の素性が怪しいと執拗にエルザを責めつけ動揺させる。結婚式の夜、疑心暗鬼に耐えきれなくなったエリザが、騎士に、とうとう名前と素性を詰問する。
ハインリヒ王と群衆の前で、「自分は、モンサルヴァート城で聖杯を守護する王パルジファルの息子ローエングリンだ」と名乗り、素性を明かした以上は止まれない掟なので去らざるを得ないと告げる。ローエングリンの祈りで、オルトルートの魔法に掛かっていた白鳥が人間に姿を変えて、ブラバントの正嗣ゴットフリートが蘇り、勝ち誇っていたオルトルートが叫び声を上げて倒れる。ローエングリンは去って行き、エルザは、ゴットフリートの腕の中で息絶える。
ところで、松竹のHPから借用したのだが、冒頭の口絵写真は騎士の登場、
下記は、騎士とエルザの結婚、ゴットフリートの蘇り
ベチャワは、MLで、「ルイズ・ミラー」や「アドリアーナ・ルクヴルール」や「リゴレット」で観ているお馴染みなのだが、ワーグナーはどうかなと思って聴いていたのだが、ドラマティックな長丁場の舞台も非常に情熱的に歌っていて素晴しい。これまでの演出では、聖杯の騎士らしく優雅で素晴しい騎士スタイルであったが、普通のカジュアルなビジネスマン風の衣装が面白い。
エルザのタマラ・ウィルソンは、2007年にヴェルディの「仮面舞踏会」のエミリアで、パトリシア・ラセットの代役としてヒューストン・グランド・オペラでデビューし、METは2014年に「アイーダ」だと言うからまだ若くて、今回は大抜擢なのであろう。一寸声が気になったが、ガーキーと互角に渡り合うスケールの大きな歌手である。
何と言ってもこの舞台で出色は、オルトルートのクリスティーン・ガーキーで、これまで、MLで、
「ワルキューレ」のブリュンヒルデ、「トーランドット」のタイトルロールで圧巻の舞台を魅せてくれたのだが、このワーグナーの大舞台で、徹底的な悪女を性格俳優顔負けの達者な演技を披露して、圧倒的なボリュームの美声で歌い通すのであるから驚異的でさえある。
この舞台で注目すべきは、演出である。
舞台中央の高みに大きな穴を開けて、天空と地上を分けていることで、天空部分はバックシーンや映像を変化させて舞台効果をあげていることである。
冒頭から、月の映像でイメージを高め、月の満ち欠けで時間経過を示すなど趣向を凝らし、二段舞台の演出ながら、天空は、騎士の登場やエルザとオルトルートの対話、重要な舞台展開など限られたシーンにしか使われず、映像展開で舞台の進行を側面からサポートしている。
興味深いのは、130人もの大合唱団が舞台の展開のみならずバックシーンの変化を深いコートの色彩を変化させて演出していることである。騎士とエルザのバックは白で、オルトルートなどは赤と言った調子で、主役が移動するにつれてバックの色が変っていくなどイメージ効果抜群である。マグネットを使用しているとかで、コートの前開きを起用に扱って瞬時に色を変化させて行くので、地上部分の舞台は、バック全体に広がった合唱団の舞台展開が主体で舞台セットらしきものが存在しないのが面白い。
しかし、やはり、素晴しいのは、途轍もなく素晴しいワーグナー節を縦横に歌わせて演じたヤニック・ネゼ=セガンの指揮。
METの音楽監督も板についてきたのであろう、幕の展開毎に衣装を変えるダンディぶり、とにかく、聴衆の熱狂的なオーベーションが凄い、
ロンドンに居た時に、ハイティンクが、殆どのワーグナーの楽劇をロイヤル・オペラで指揮して愉しませて貰ったが、ヤニック・ネゼ=セガンのワーグナーも続くのであろうと思う。