ニューヨーク・タイムズ紙電子版、12月29日号に、”Fiscal Fever Breaks By PAUL KRUGMAN”が掲載された。
9月29日に書いたブックレビュー”ポール・クルーグマン著「そして日本経済が世界の希望になる」”に近い、ケインズ政策の推進に終始した見解なのであるが、2日に亘って、ニューズウィークの見た2013年のアメリカについて、感想を述べたので、アメリカ経済について、私なりの理解の範囲で、クルーグマン教授のコラムを引用しておきたい。
オバマ大統領が再選された時にもフィーバーが起こったが、同様に、凄い財政フィーバーも吹き荒れていたが、幸いなことに、この財政フィーバーがブレイクしたと言うのである。
その財政フィーバーとは、全政界やメディアの権威筋が、例え、連邦政府が、異常に安い金利で調達できていたにも拘わらず、財政赤字は、我々にとって最も重大かつ緊急の経済問題だと主張し続けていたことである。
大量失業や拡大する経済格差の問題を議論せずに、ワシントンの殆どは、例外なしに、(雇用危機を益々悪化させるにも拘わらず)財政支出の削減と、(格差の拡大を益々悪化させるにも拘わらず)ソーシャル・セイフティ・ネットを叩き切ることばかりに集中していたのである。
これは、正に、終息したと言われている激しく吹き荒れていたティーパーティー旋風に煽られて、強引に、オバマ大統領の経済政策に、悉く楯突いた共和党の強烈なフィーバーでもあったであろうが、クルーグマンにとっては、全米そのものがブラインドであって、愚の骨頂であったと言うことであろうか。
激しく燃えて一気に終息してしまったティ―パーティー運動を見ていて、昔の激烈な赤狩り反共のマッカーシ―旋風を思い出したのだが、これが、成熟した民主主義国の姿かと思うと複雑な思いに駆られる。
このフィーバーがブレイクした理由として、クルーグマンは、共和党の変質など4つの理由をあげているが、私に興味深かったのは、このフィーバーを促進した要因として、先の日本版の書籍でも述べているように、
「国家は破綻する」で展開されていたカーメン・M・ラインハート&ケネス・S・ロゴフの理論、政府債務がGDPの90%を超えると成長に深刻なマイナス効果をなす(government debt has severe negative effects on growth when it exceeds 90 percent of G.D.P.)を、こっぴどく糾弾していることである。
この説は、当初から多くの経済学者が懐疑論を呈していたが、すぐに、経済成長のスローダウンは、高度な債務の原因にはなったが、その反対ではないと言うことが、イタリアや日本で明らかになった。しかし、政治の世界では、正に、この90%理論が、福音だったのだ。と言うのである。
マサチュセッツ大の大学院生トーマス・ハーンドンが、このデータの誤りを正して90%崖っぷち論は消えてしまい、今や、財政叱責問題は、統計数字の問題として決着が着いた。
昔から言われているように、人々は、ラインハート―ロゴフを、酔っ払いが、街灯柱を灯りではなく支えとして使ったように、照明としてではなく、サポートとしたのである。彼らは、突然、そのサポートを失って、経済政策必要性から唱えていた自分たちの思想的アジェンダのよりどころを失ってしまった。のだとまで、酷評している。
前にも記したが、このラインハートとロゴフの「国家は破綻する」は、欧米のみならず日本でも人気を博して、確か、日本の著名経済学者たちが最も注目に値する良書としてトップランクしたのは、ほんの数年前で、影響力が大きかった。
私自身は、先日記したように、「いくら、債務を積み上げても、アメリカ政府がデフォールト(債務不履行)には陥らない」とするティーパーティー並のクルーグマン説には、大いに疑問を感じているので、90%クリフ論はともかくも、ラインハート―ロゴフ説には、それなりの評価を感じている。
さて、最後に、クルーグマンは、財政叱責論は、影を顰めたが、長期失業者に対するベネフィットをカットするなど深刻な状態にあり、財政危機よりも、もっと緊急な経済格差の解消など根本的な問題に立ち向かわなければならないと指摘している。
冒頭でのべたように、大量失業と格差拡大は、今や、アメリカ経済の最大のアキレス腱で、ジニ係数は、大恐慌以来最悪だと言う。
アメリカ経済に、やや、燭光が見え始めたが、完全雇用には近づきつつあるにしても、まだ、財政支出カットは時期尚早であると言っており、クルーグマンのケインズ政策論は、その手綱を緩める気配はない。
しかし、経済は生き物で、クルーグマンが何と言おうとも、時期が来れば好転して行く。
リベラルのクルーグマンとしては、今後のターゲットは、完全雇用の実現と経済格差拡大の阻止であろうから、セイフティネットの拡充など厚生経済学的な方向へ、論陣を張って行くような気がしている。
(追記)クルーグマン教授の写真は、ニューヨーク・タイムズより借用。
9月29日に書いたブックレビュー”ポール・クルーグマン著「そして日本経済が世界の希望になる」”に近い、ケインズ政策の推進に終始した見解なのであるが、2日に亘って、ニューズウィークの見た2013年のアメリカについて、感想を述べたので、アメリカ経済について、私なりの理解の範囲で、クルーグマン教授のコラムを引用しておきたい。
オバマ大統領が再選された時にもフィーバーが起こったが、同様に、凄い財政フィーバーも吹き荒れていたが、幸いなことに、この財政フィーバーがブレイクしたと言うのである。
その財政フィーバーとは、全政界やメディアの権威筋が、例え、連邦政府が、異常に安い金利で調達できていたにも拘わらず、財政赤字は、我々にとって最も重大かつ緊急の経済問題だと主張し続けていたことである。
大量失業や拡大する経済格差の問題を議論せずに、ワシントンの殆どは、例外なしに、(雇用危機を益々悪化させるにも拘わらず)財政支出の削減と、(格差の拡大を益々悪化させるにも拘わらず)ソーシャル・セイフティ・ネットを叩き切ることばかりに集中していたのである。
これは、正に、終息したと言われている激しく吹き荒れていたティーパーティー旋風に煽られて、強引に、オバマ大統領の経済政策に、悉く楯突いた共和党の強烈なフィーバーでもあったであろうが、クルーグマンにとっては、全米そのものがブラインドであって、愚の骨頂であったと言うことであろうか。
激しく燃えて一気に終息してしまったティ―パーティー運動を見ていて、昔の激烈な赤狩り反共のマッカーシ―旋風を思い出したのだが、これが、成熟した民主主義国の姿かと思うと複雑な思いに駆られる。
このフィーバーがブレイクした理由として、クルーグマンは、共和党の変質など4つの理由をあげているが、私に興味深かったのは、このフィーバーを促進した要因として、先の日本版の書籍でも述べているように、
「国家は破綻する」で展開されていたカーメン・M・ラインハート&ケネス・S・ロゴフの理論、政府債務がGDPの90%を超えると成長に深刻なマイナス効果をなす(government debt has severe negative effects on growth when it exceeds 90 percent of G.D.P.)を、こっぴどく糾弾していることである。
この説は、当初から多くの経済学者が懐疑論を呈していたが、すぐに、経済成長のスローダウンは、高度な債務の原因にはなったが、その反対ではないと言うことが、イタリアや日本で明らかになった。しかし、政治の世界では、正に、この90%理論が、福音だったのだ。と言うのである。
マサチュセッツ大の大学院生トーマス・ハーンドンが、このデータの誤りを正して90%崖っぷち論は消えてしまい、今や、財政叱責問題は、統計数字の問題として決着が着いた。
昔から言われているように、人々は、ラインハート―ロゴフを、酔っ払いが、街灯柱を灯りではなく支えとして使ったように、照明としてではなく、サポートとしたのである。彼らは、突然、そのサポートを失って、経済政策必要性から唱えていた自分たちの思想的アジェンダのよりどころを失ってしまった。のだとまで、酷評している。
前にも記したが、このラインハートとロゴフの「国家は破綻する」は、欧米のみならず日本でも人気を博して、確か、日本の著名経済学者たちが最も注目に値する良書としてトップランクしたのは、ほんの数年前で、影響力が大きかった。
私自身は、先日記したように、「いくら、債務を積み上げても、アメリカ政府がデフォールト(債務不履行)には陥らない」とするティーパーティー並のクルーグマン説には、大いに疑問を感じているので、90%クリフ論はともかくも、ラインハート―ロゴフ説には、それなりの評価を感じている。
さて、最後に、クルーグマンは、財政叱責論は、影を顰めたが、長期失業者に対するベネフィットをカットするなど深刻な状態にあり、財政危機よりも、もっと緊急な経済格差の解消など根本的な問題に立ち向かわなければならないと指摘している。
冒頭でのべたように、大量失業と格差拡大は、今や、アメリカ経済の最大のアキレス腱で、ジニ係数は、大恐慌以来最悪だと言う。
アメリカ経済に、やや、燭光が見え始めたが、完全雇用には近づきつつあるにしても、まだ、財政支出カットは時期尚早であると言っており、クルーグマンのケインズ政策論は、その手綱を緩める気配はない。
しかし、経済は生き物で、クルーグマンが何と言おうとも、時期が来れば好転して行く。
リベラルのクルーグマンとしては、今後のターゲットは、完全雇用の実現と経済格差拡大の阻止であろうから、セイフティネットの拡充など厚生経済学的な方向へ、論陣を張って行くような気がしている。
(追記)クルーグマン教授の写真は、ニューヨーク・タイムズより借用。