1992年にロンドンで書いた「欧米クラシック漫歩」を久しぶりに再開する。
ロンドンに居たとき、ハー・マジェスティーズ・シアターに4回通って、「オペラ座の怪人」を鑑賞している。
ロンドンの場合、当時、この「オペラ座の怪人」以外にも、「ミス・サイゴン」「レ・ミゼラブル」「キャッツ」などと言った比較的人気の高いミュージカルが、ウエストエンドからコベントガーデンの劇場にかけてロングランで上演されていたが、チケットの取得が困難で、数ヶ月前から予約をしなければダメであった。
尤も、数倍のプレミアム料金を払えば、取得は出来るが、行きずりの旅行者などでない限り馬鹿らしいと思う。通になると、開演数分前に劇場の窓口に行って、ダフ屋を叩いて、額面価格で取得するのだと聞いたことがある。
さて、この時は3回目の鑑賞のときであったのだが、直前になって、チケットがなくなっているのに気づいて大慌てした。
そのチケットは、前年の4月、すなわち、10ヶ月も前に手配をしていたので、それまで、随分、あっちこっちの劇場やコンサート会場に通っていた所為もあって、大切だと思いながら置き場所を忘れてしまったのである。
本来なら諦めてしまうのだが、英国の場合には、クレジット・カードでチケットを買っているので、その公演がキャンセルされたりキャストが変更されたときなど連絡が来るのを思い出した。前年の4月に、10月10日と翌年の2月21日にそれぞれ3枚ずつ、ボックス・オフィスで、クレジットカードで予約したので、必ず、本人を特定できる記録が劇場のコンピュータに残っている筈だと思ったのである。ダメ元で、チケットの再発行が可能かどうかを、秘書を通じてボックス・オフィスに照会したら、色よい返事が返ってきた。
ベソをかいていた「オペラ座の怪人」ファンの小学生の次女をつれて、半信半疑で、ボックス・オフィスに行き、クレジット・カードの記録を示し、私の名前で3枚予約されているはずだからチケットを再発行して欲しいと頼んだ。
窓口の婦人が、手元のコンピュータを叩き始めた。何回か打ち間違えたのか訂正を繰り返した。データを見つけたようで、メモの座席番号E13~15と照会番号を記入して、これを持って開演10分前に来いと言った。
英国で、こんなに上手くスムーズに事が運ぶことのないことは、嫌と言うほど経験しているので、貴方の名前を教えて欲しいと言ったら、窓口にいるから心配するなと言った。
近くの三越で食事をして、少し約束の時間を過ぎて窓口に行った。尤も、もう、先の彼女はいなかったが、窓口で私の名前を聞くと、当日渡しのチケットの中から封筒を取りだして3枚のチケットを渡してくれた。にっこりとした11才の娘は、チケットを持ってエントランスを入った。
客席は、前から4列目の中央であった。目の前、舞台中央にデンと横たわっている大きなシャンデリアは、後で引き上げられて丁度頭上に固定された。すると、第1幕の最後の場面で、このシャンデリアが頭の真上から急降下して舞台に落下するはずである。娘が心配そうに上を見上げていた。
このミュージカルは、パリ・オペラ座を舞台にしており、この劇場へはオペラやバレエ鑑賞に何度か行っていたので、劇場のオペラの舞台と思しき場面と実際のストーリーの場面とが交錯して二重写しとなって、私にはスペクタクルとしても面白い。
原作ガストン・ルルーの小説を読んでいないので、オリジナルのストーリーは分からないが、実際には悲しい物語だが、若い二人のラブ・ストーリーが、その暗さを幾分か救っていてくれている。
とにかく、ロイド・ウェーバーの音楽が限りなく美しい。
映画では、バート・ランカスターが、悲しい運命の性を、オペラ座の怪人の父として上手く演じている。映画「山猫」を思い出したが、運命というか宿命というか、避けられない人の定めを、ランカスターは憂いを滲ませた何とも言えない表情で悲哀の限りを演じていて胸を打つ。
主人公の怪人は、自分の運命を直情的に生き真っ直ぐに奈落に突き進むが、それに止めを刺すのは父親で、運命の悲惨を一身に背負って生きているのが哀れである。
ところが、このミュージカルでは、父親は登場せず、怪人自身が、自分の運命に止めを刺す。
ロンドンに居たとき、ハー・マジェスティーズ・シアターに4回通って、「オペラ座の怪人」を鑑賞している。
ロンドンの場合、当時、この「オペラ座の怪人」以外にも、「ミス・サイゴン」「レ・ミゼラブル」「キャッツ」などと言った比較的人気の高いミュージカルが、ウエストエンドからコベントガーデンの劇場にかけてロングランで上演されていたが、チケットの取得が困難で、数ヶ月前から予約をしなければダメであった。
尤も、数倍のプレミアム料金を払えば、取得は出来るが、行きずりの旅行者などでない限り馬鹿らしいと思う。通になると、開演数分前に劇場の窓口に行って、ダフ屋を叩いて、額面価格で取得するのだと聞いたことがある。
さて、この時は3回目の鑑賞のときであったのだが、直前になって、チケットがなくなっているのに気づいて大慌てした。
そのチケットは、前年の4月、すなわち、10ヶ月も前に手配をしていたので、それまで、随分、あっちこっちの劇場やコンサート会場に通っていた所為もあって、大切だと思いながら置き場所を忘れてしまったのである。
本来なら諦めてしまうのだが、英国の場合には、クレジット・カードでチケットを買っているので、その公演がキャンセルされたりキャストが変更されたときなど連絡が来るのを思い出した。前年の4月に、10月10日と翌年の2月21日にそれぞれ3枚ずつ、ボックス・オフィスで、クレジットカードで予約したので、必ず、本人を特定できる記録が劇場のコンピュータに残っている筈だと思ったのである。ダメ元で、チケットの再発行が可能かどうかを、秘書を通じてボックス・オフィスに照会したら、色よい返事が返ってきた。
ベソをかいていた「オペラ座の怪人」ファンの小学生の次女をつれて、半信半疑で、ボックス・オフィスに行き、クレジット・カードの記録を示し、私の名前で3枚予約されているはずだからチケットを再発行して欲しいと頼んだ。
窓口の婦人が、手元のコンピュータを叩き始めた。何回か打ち間違えたのか訂正を繰り返した。データを見つけたようで、メモの座席番号E13~15と照会番号を記入して、これを持って開演10分前に来いと言った。
英国で、こんなに上手くスムーズに事が運ぶことのないことは、嫌と言うほど経験しているので、貴方の名前を教えて欲しいと言ったら、窓口にいるから心配するなと言った。
近くの三越で食事をして、少し約束の時間を過ぎて窓口に行った。尤も、もう、先の彼女はいなかったが、窓口で私の名前を聞くと、当日渡しのチケットの中から封筒を取りだして3枚のチケットを渡してくれた。にっこりとした11才の娘は、チケットを持ってエントランスを入った。
客席は、前から4列目の中央であった。目の前、舞台中央にデンと横たわっている大きなシャンデリアは、後で引き上げられて丁度頭上に固定された。すると、第1幕の最後の場面で、このシャンデリアが頭の真上から急降下して舞台に落下するはずである。娘が心配そうに上を見上げていた。
このミュージカルは、パリ・オペラ座を舞台にしており、この劇場へはオペラやバレエ鑑賞に何度か行っていたので、劇場のオペラの舞台と思しき場面と実際のストーリーの場面とが交錯して二重写しとなって、私にはスペクタクルとしても面白い。
原作ガストン・ルルーの小説を読んでいないので、オリジナルのストーリーは分からないが、実際には悲しい物語だが、若い二人のラブ・ストーリーが、その暗さを幾分か救っていてくれている。
とにかく、ロイド・ウェーバーの音楽が限りなく美しい。
映画では、バート・ランカスターが、悲しい運命の性を、オペラ座の怪人の父として上手く演じている。映画「山猫」を思い出したが、運命というか宿命というか、避けられない人の定めを、ランカスターは憂いを滲ませた何とも言えない表情で悲哀の限りを演じていて胸を打つ。
主人公の怪人は、自分の運命を直情的に生き真っ直ぐに奈落に突き進むが、それに止めを刺すのは父親で、運命の悲惨を一身に背負って生きているのが哀れである。
ところが、このミュージカルでは、父親は登場せず、怪人自身が、自分の運命に止めを刺す。