Brexitや、極右のポピュリズム政党の躍進などが象徴するように、EUが、政治的にも経済的にも、問題を抱えていることは事実だが、果たして、真相は那辺にあるのか、
「欧州解体 The Trouble with Europe: Why the EU Isn't Working - How It Can Be Reformed - What Could Take Its Place」を読んでみた。
原題のごとく欧州ではなくEU解体なのだが、一歩、引き下がって、かなり客観的にEUを観察できる英国人経済学者の著作なので、結構面白かった。
60年前、ヨーロッパのリーダーたちは、悲惨な戦争の再発を避け、紛争よりも協調の象徴として、壮大な夢を描き、ECCを設立し、その後、EUとなって、必然的に、更なる躍進、連邦スーパー国家を目指して、単一通貨、ユーロを創造して最高潮に達した。
しかし、今や、EUは、十字路に直面した。所期の目的を達するためには、既存の関係や通貨同盟を考えれば、当然の論理として、政治的統合、所謂、ヨーロッパ合衆国へと向かわざるを得ない、言い換えれば、更なるヨーロッパの統合を推進すべきなのだが、しかし、現実には、EUは、有効に機能しなくなっており、先行きもその可能性がない。
したがって、EUは、根本的な改革を迫られている。
しからば、どうすればよいのか、と言うのが、ロジャー・ブートルの問題意識であり、この本のよって立つ提言である。
まず、ユーロについては、最初から失敗作であって、ユーロ廃止こそが欧州を救済する一助となる、と手厳しい。
EUが、国内政治や外交的妥協、国家の威信への配慮、子供じみた欧州統一の夢に突き動かされ、経済の現実を殆ど考慮しないままの最悪の意思決定したなれの果てだと、糾弾しながら、ユーロからの脱退の手法や、更に、EU離脱の総コストや利益までも詳細に論じている。
ユーロが生きながらえるとしたら、それは、間違いなく、その通貨同盟を救うために、何らかの財政・政治同盟が作られる場合だ。この同盟は、未来永劫、課税し、調和を図り、規制をするだろう。根本的な改革がない限り、そのような同盟は、EU経済の成長に極めて有害な決定をするものと思われる。ユーロの創出とその悲惨な経済効果は、将来に対する身の毛もよだつような警告なのだ。と言う。
ユーロを救うためには、財政・政治の統合は必須なのであろうから、EU合衆国なりEU連邦のような国家形態になるのであろうが、独裁専制国家ならいざ知らず、最も民主主義的な先進国であり、それも、歴史文化文明などバックグラウンドが大きく異なり格差の激しい国の集合であろうから、非常に困難を伴い難しいであろうと思われる。
蛇足だが、以前にイギリスのBrexit報道で、NHKが報じていたことだが、行政的な不手際で特に問題となるのは、あまりにも多くの規制をそのコストやシステム全体への波及効果を顧みずに、それも、その規制の多くは、国によって違うことや酷く些細なものを、押し付ける点で、ブラッセルで法案を書いた者たちは、現実世界が全く分かっていないと言う反発である。
関税同盟なので、域内の貿易は無税であるから、域内の貿易を創出する一方、域外の貿易を回避させる。
ところが、域内の貿易量は増加しているものの、域外、非加盟国との貿易の伸びの方が上回っていて、域内間の輸出シェアが減っている、すなわち、域内の貿易創出から得られる利益が、世界全体の伸びから得られる膨大な利益に比べると小さい。
このことは重要な指摘で、成長が止まった先進国の貿易は、ひとたび、大躍進の新興市場がグローバル経済に組み込まれると、現実の経済的利益が世界規模で自然発生し、欧州の官僚たちが夢想した関税同盟の利益が、それに飲み込まれてしまうと言うことであって、域内の無税貿易効果が満足されれば、域外の貿易拡大に打って出た方が良作だと言うことである。
この本で、むしろ、イギリスにとっては、EUから脱出して、Brexitの方が、良いと著者は言っているが、実際にも、イギリスは、モノの輸出よりも、関税とは関係のないサービス輸出の比重が高いので、EUとの貿易交渉で多少不利であっても気にすることはないと言うことであろうし、むしろ、EUの方が損をすると言うことであろうか。
イギリスは、英連邦と言う巨大なヒンターランド(?)を有しており、米国とは最も有効的な国であり、BRICSなど、新興国とのFTAを結ぶなど、外交関係をフルに活用すれば、EUとの貿易交渉に、それ程拘ることはないのかも知れないのである。
英国の政策立案者が、EU離脱に拘るのは、「主賓テーブル症候群」「サイズ偏重主義」「近接フェティシズム」ゆえだが、近年の新興国市場の発展や、世界経済のグローバル化、そして、ICT革命による時代の潮流の大きな流れを考えれば、そんなのに拘るのは愚の骨頂で、果敢に新天地を目指せと言うのだが、
私も、七つの海を支配して陽の没する時がなかったと言う元大英帝国の、最もグローバル展開に長けたイギリスであるから、それが、正解だと思っている。
さて、この本の表紙に、「ドイツ一極支配の恐怖」と書かれているのだが、この本では、トッドなどフランス人識者程、ドイツを批判はしていない。
ドイツは、戦前に極端なインフレを経験しており、財政の健全化が如何に重要かを身をもって経験しているので、日米英のように、景気浮揚や総需要対策にケインズ経済学的な財政政策を取らない。
このために、メンバー国に対して、どんな種類の難局であろうと、全員が痛みを伴う構造改革を断行して支出を削減しなければならないと言う考え方を押し付けて、緊縮財政に徹してきており、
また、QEについても、日米英は、国債を自国通貨で自国政府が発行したものであったが、EUの場合には、最終的には、不実なラテン国の放漫財政のツケがドイツ連銀に回ってくるのは必定であって、踏み込めなかった。
これらの点を考慮すれば、EUの盟主が、イギリスであれば、ギリシャ対策も含めて、変わっていたであろうと思われる。
これ以上、紙幅を割くつもりはないが、著者が、ドイツ自身の経済もEU形成によって決して恵まれておらず、むしろ、成長が鈍化しており、マイナスの方が大きいと指摘しているのを、意外であると同時に、非常に興味を感じたことを付記しておきたい。
昨年秋に、最新版として、Making a Success of Brexit and Reforming the EU: The Brexit edition of The Trouble with Europeが発行されていているようだが、Brexitについて、新しい見解を展開しているのであろう。
「欧州解体 The Trouble with Europe: Why the EU Isn't Working - How It Can Be Reformed - What Could Take Its Place」を読んでみた。
原題のごとく欧州ではなくEU解体なのだが、一歩、引き下がって、かなり客観的にEUを観察できる英国人経済学者の著作なので、結構面白かった。
60年前、ヨーロッパのリーダーたちは、悲惨な戦争の再発を避け、紛争よりも協調の象徴として、壮大な夢を描き、ECCを設立し、その後、EUとなって、必然的に、更なる躍進、連邦スーパー国家を目指して、単一通貨、ユーロを創造して最高潮に達した。
しかし、今や、EUは、十字路に直面した。所期の目的を達するためには、既存の関係や通貨同盟を考えれば、当然の論理として、政治的統合、所謂、ヨーロッパ合衆国へと向かわざるを得ない、言い換えれば、更なるヨーロッパの統合を推進すべきなのだが、しかし、現実には、EUは、有効に機能しなくなっており、先行きもその可能性がない。
したがって、EUは、根本的な改革を迫られている。
しからば、どうすればよいのか、と言うのが、ロジャー・ブートルの問題意識であり、この本のよって立つ提言である。
まず、ユーロについては、最初から失敗作であって、ユーロ廃止こそが欧州を救済する一助となる、と手厳しい。
EUが、国内政治や外交的妥協、国家の威信への配慮、子供じみた欧州統一の夢に突き動かされ、経済の現実を殆ど考慮しないままの最悪の意思決定したなれの果てだと、糾弾しながら、ユーロからの脱退の手法や、更に、EU離脱の総コストや利益までも詳細に論じている。
ユーロが生きながらえるとしたら、それは、間違いなく、その通貨同盟を救うために、何らかの財政・政治同盟が作られる場合だ。この同盟は、未来永劫、課税し、調和を図り、規制をするだろう。根本的な改革がない限り、そのような同盟は、EU経済の成長に極めて有害な決定をするものと思われる。ユーロの創出とその悲惨な経済効果は、将来に対する身の毛もよだつような警告なのだ。と言う。
ユーロを救うためには、財政・政治の統合は必須なのであろうから、EU合衆国なりEU連邦のような国家形態になるのであろうが、独裁専制国家ならいざ知らず、最も民主主義的な先進国であり、それも、歴史文化文明などバックグラウンドが大きく異なり格差の激しい国の集合であろうから、非常に困難を伴い難しいであろうと思われる。
蛇足だが、以前にイギリスのBrexit報道で、NHKが報じていたことだが、行政的な不手際で特に問題となるのは、あまりにも多くの規制をそのコストやシステム全体への波及効果を顧みずに、それも、その規制の多くは、国によって違うことや酷く些細なものを、押し付ける点で、ブラッセルで法案を書いた者たちは、現実世界が全く分かっていないと言う反発である。
関税同盟なので、域内の貿易は無税であるから、域内の貿易を創出する一方、域外の貿易を回避させる。
ところが、域内の貿易量は増加しているものの、域外、非加盟国との貿易の伸びの方が上回っていて、域内間の輸出シェアが減っている、すなわち、域内の貿易創出から得られる利益が、世界全体の伸びから得られる膨大な利益に比べると小さい。
このことは重要な指摘で、成長が止まった先進国の貿易は、ひとたび、大躍進の新興市場がグローバル経済に組み込まれると、現実の経済的利益が世界規模で自然発生し、欧州の官僚たちが夢想した関税同盟の利益が、それに飲み込まれてしまうと言うことであって、域内の無税貿易効果が満足されれば、域外の貿易拡大に打って出た方が良作だと言うことである。
この本で、むしろ、イギリスにとっては、EUから脱出して、Brexitの方が、良いと著者は言っているが、実際にも、イギリスは、モノの輸出よりも、関税とは関係のないサービス輸出の比重が高いので、EUとの貿易交渉で多少不利であっても気にすることはないと言うことであろうし、むしろ、EUの方が損をすると言うことであろうか。
イギリスは、英連邦と言う巨大なヒンターランド(?)を有しており、米国とは最も有効的な国であり、BRICSなど、新興国とのFTAを結ぶなど、外交関係をフルに活用すれば、EUとの貿易交渉に、それ程拘ることはないのかも知れないのである。
英国の政策立案者が、EU離脱に拘るのは、「主賓テーブル症候群」「サイズ偏重主義」「近接フェティシズム」ゆえだが、近年の新興国市場の発展や、世界経済のグローバル化、そして、ICT革命による時代の潮流の大きな流れを考えれば、そんなのに拘るのは愚の骨頂で、果敢に新天地を目指せと言うのだが、
私も、七つの海を支配して陽の没する時がなかったと言う元大英帝国の、最もグローバル展開に長けたイギリスであるから、それが、正解だと思っている。
さて、この本の表紙に、「ドイツ一極支配の恐怖」と書かれているのだが、この本では、トッドなどフランス人識者程、ドイツを批判はしていない。
ドイツは、戦前に極端なインフレを経験しており、財政の健全化が如何に重要かを身をもって経験しているので、日米英のように、景気浮揚や総需要対策にケインズ経済学的な財政政策を取らない。
このために、メンバー国に対して、どんな種類の難局であろうと、全員が痛みを伴う構造改革を断行して支出を削減しなければならないと言う考え方を押し付けて、緊縮財政に徹してきており、
また、QEについても、日米英は、国債を自国通貨で自国政府が発行したものであったが、EUの場合には、最終的には、不実なラテン国の放漫財政のツケがドイツ連銀に回ってくるのは必定であって、踏み込めなかった。
これらの点を考慮すれば、EUの盟主が、イギリスであれば、ギリシャ対策も含めて、変わっていたであろうと思われる。
これ以上、紙幅を割くつもりはないが、著者が、ドイツ自身の経済もEU形成によって決して恵まれておらず、むしろ、成長が鈍化しており、マイナスの方が大きいと指摘しているのを、意外であると同時に、非常に興味を感じたことを付記しておきたい。
昨年秋に、最新版として、Making a Success of Brexit and Reforming the EU: The Brexit edition of The Trouble with Europeが発行されていているようだが、Brexitについて、新しい見解を展開しているのであろう。