三越のライオン像のモデルのあるトラファルガー広場は、ロンドンの観光拠点であるとともに、何かことがあるとロンドン子が群れ集う場所で、ロンドン爆破事故のあった前日は、オリンピックのロンドン招致決定で沸きに沸いた所である。
広場に聳えるネルソン提督像の下から、北側ナショナル・ギャラリィに向かって立ち、右手を見ると、ポートレート・ギャラリィと大きな南アフリカ・ハウスとの間、ジョージ4世王騎馬像の後に高い尖塔のある教会が見える。
この教会が、中々ユニークな教会 セント・マーチン・イン・ザ・フィールズ(St Martin-in-the-Fields)である。
この教会は、1772年に、ギブスによって設計され当時スラムの真ん中に建てられたバロック風の建物で、そんなに古くない。1930年代以降は、困っている人々の為のシェルターとして、或いは、俳優達のメモリアル・サービスの場所としても有名となっている。
この教会のコリント風の柱に囲まれた正面3角形の派風には、教区内にあるバッキンガム・パレスの衛兵の紋章が彫り込まれている。
私は、丁度昼時間になったので昼食を取る為に、露天商の立つ右手の入り口から地下にもぐって、クリプトに入った。地下が、簡易なレストラン「カフェ・クリプト」になっているのである。
普通良く見る小部屋に分かれた教会のクリプトと違って、薄暗くて開放感はないが可なり広々としている。
丁度、ドイツのラート・ハウス市庁舎の地下と同じ感じで、ここは少し狭いが、あのワインやビア・レストランと良く似た雰囲気である。
正に大衆レストランで、酒類も置かれていて品揃いも豊かである。セルフサービス形式であるが、カウンターや料理をサーブする乙女達は実に優しく、それに、色々な人が利用していて結構喧騒だが、片付けなど敏速で、清潔に保たれている。
地下には、他に、可なり広い小奇麗なみやげ物ショップがあり、地上に並んでいる露天の怪しげな品物よりは、質の高いロンドン土産が売られている。
その奥に、絵画などの展示がされていて、古い銅版を丹念に磨いているグループもいる。
階段を上がると、教会ホールの入り口に出た。
かまぼこ型の丸天井で、装飾など極めてシンプル、しかし、明るい開放感のある教会堂である。
堂内で、老嬢が、ビラをくわりながら、今から、ヴァイオリン・リサイタルが始まると言う。
ロイヤル海外リーグ・シリーズの1日で、ロイヤル・アカデミィの優等卒業生によるリサイタルで、ベートーヴェンのヴァイオリンソナタNo4、とブラームスのヴァイオリンソナタNo3で、ヴァイオリンはチェコのジェーン・ゴードン、ピアノはロシアのジャン・ローティオが演奏する。
私も仲間に入って前の席に座った。正面の説教壇の前に、ピアノと楽譜台がセットされている。
観客の相当数は、観光客だと思われるが、静かに、音楽家の登場を待っている。
コチコチの音楽フアンで埋まったコンサートホールの演奏とは違った、音楽とはあまり縁のないリラックスした人々の前でのサロン風のコンサート、実に、良い雰囲気で、暖かい拍手が爽やかである。
演奏は、勿論、本格的なクラシック演奏で、故国を遠く離れて頑張っている音楽家達の真剣さが胸を打つ。
素晴らしい小一時間であった。
入場料は、教会だから、示唆ドネイション3.5ポンド、出口で、係員が料金箱を持って待っている。
ところで、ここは、あの一世を風靡したサー・ネビル・マリナー率いるアカデミィ・オブ・セント・マーチン・イン・ザ・フィールズ室内楽団の本拠地、そして、古くは、ヘンデルやモーツアルトが、この教会でオルガンを弾いている。
有名なセント・マーチン・イン・ザ・フィールズ・クワィアによる日曜ミサでのコーラス等など著名なコーラス団や室内合奏団の演奏が定期的に行われていてさながらコンサート・ホール、公衆に開かれたクラシック音楽の殿堂でもある。
ほのかなキャンドルの灯りで聞くヘンデルはいかばかりであろうか。
地下食堂が夜には、ジャズコンサート・ホールに変わり、華麗なジャズの夕べとなり観客を熱狂させることもある。
元々教会は、壮大なオルガンやクアイアを通して大衆に素晴らしい音楽を提供してきた。
セント・ポール大聖堂のベートーヴェンの第九、パリのサン・ジェルマン・デュ・プレ聖堂の荘重なオルガン、ウイーン王宮教会でのウイーン少年合唱団のコーラス、等など、旅をしていると素晴らしい教会でのコンサートを経験することがある。
娘も、大学のオーケストラに所属していて、あのカンタベリー大聖堂でのコンサートで、何度か演奏したと言う。
この小さな教会、音楽家を援助し支えている、そして、大衆に音楽の喜びを伝え発信しているのである。
(追記)7月始めの10間ほどのミラノ・ロンドン旅、正味はたった8日間、しかし、色々なことがあった。
時間が経つと、芭蕉の様にまた旅心に誘われて出かけるであろうと思うが、人生そのものが旅。
30回になったので、これで今回の旅記録を終わりたい。
広場に聳えるネルソン提督像の下から、北側ナショナル・ギャラリィに向かって立ち、右手を見ると、ポートレート・ギャラリィと大きな南アフリカ・ハウスとの間、ジョージ4世王騎馬像の後に高い尖塔のある教会が見える。
この教会が、中々ユニークな教会 セント・マーチン・イン・ザ・フィールズ(St Martin-in-the-Fields)である。
この教会は、1772年に、ギブスによって設計され当時スラムの真ん中に建てられたバロック風の建物で、そんなに古くない。1930年代以降は、困っている人々の為のシェルターとして、或いは、俳優達のメモリアル・サービスの場所としても有名となっている。
この教会のコリント風の柱に囲まれた正面3角形の派風には、教区内にあるバッキンガム・パレスの衛兵の紋章が彫り込まれている。
私は、丁度昼時間になったので昼食を取る為に、露天商の立つ右手の入り口から地下にもぐって、クリプトに入った。地下が、簡易なレストラン「カフェ・クリプト」になっているのである。
普通良く見る小部屋に分かれた教会のクリプトと違って、薄暗くて開放感はないが可なり広々としている。
丁度、ドイツのラート・ハウス市庁舎の地下と同じ感じで、ここは少し狭いが、あのワインやビア・レストランと良く似た雰囲気である。
正に大衆レストランで、酒類も置かれていて品揃いも豊かである。セルフサービス形式であるが、カウンターや料理をサーブする乙女達は実に優しく、それに、色々な人が利用していて結構喧騒だが、片付けなど敏速で、清潔に保たれている。
地下には、他に、可なり広い小奇麗なみやげ物ショップがあり、地上に並んでいる露天の怪しげな品物よりは、質の高いロンドン土産が売られている。
その奥に、絵画などの展示がされていて、古い銅版を丹念に磨いているグループもいる。
階段を上がると、教会ホールの入り口に出た。
かまぼこ型の丸天井で、装飾など極めてシンプル、しかし、明るい開放感のある教会堂である。
堂内で、老嬢が、ビラをくわりながら、今から、ヴァイオリン・リサイタルが始まると言う。
ロイヤル海外リーグ・シリーズの1日で、ロイヤル・アカデミィの優等卒業生によるリサイタルで、ベートーヴェンのヴァイオリンソナタNo4、とブラームスのヴァイオリンソナタNo3で、ヴァイオリンはチェコのジェーン・ゴードン、ピアノはロシアのジャン・ローティオが演奏する。
私も仲間に入って前の席に座った。正面の説教壇の前に、ピアノと楽譜台がセットされている。
観客の相当数は、観光客だと思われるが、静かに、音楽家の登場を待っている。
コチコチの音楽フアンで埋まったコンサートホールの演奏とは違った、音楽とはあまり縁のないリラックスした人々の前でのサロン風のコンサート、実に、良い雰囲気で、暖かい拍手が爽やかである。
演奏は、勿論、本格的なクラシック演奏で、故国を遠く離れて頑張っている音楽家達の真剣さが胸を打つ。
素晴らしい小一時間であった。
入場料は、教会だから、示唆ドネイション3.5ポンド、出口で、係員が料金箱を持って待っている。
ところで、ここは、あの一世を風靡したサー・ネビル・マリナー率いるアカデミィ・オブ・セント・マーチン・イン・ザ・フィールズ室内楽団の本拠地、そして、古くは、ヘンデルやモーツアルトが、この教会でオルガンを弾いている。
有名なセント・マーチン・イン・ザ・フィールズ・クワィアによる日曜ミサでのコーラス等など著名なコーラス団や室内合奏団の演奏が定期的に行われていてさながらコンサート・ホール、公衆に開かれたクラシック音楽の殿堂でもある。
ほのかなキャンドルの灯りで聞くヘンデルはいかばかりであろうか。
地下食堂が夜には、ジャズコンサート・ホールに変わり、華麗なジャズの夕べとなり観客を熱狂させることもある。
元々教会は、壮大なオルガンやクアイアを通して大衆に素晴らしい音楽を提供してきた。
セント・ポール大聖堂のベートーヴェンの第九、パリのサン・ジェルマン・デュ・プレ聖堂の荘重なオルガン、ウイーン王宮教会でのウイーン少年合唱団のコーラス、等など、旅をしていると素晴らしい教会でのコンサートを経験することがある。
娘も、大学のオーケストラに所属していて、あのカンタベリー大聖堂でのコンサートで、何度か演奏したと言う。
この小さな教会、音楽家を援助し支えている、そして、大衆に音楽の喜びを伝え発信しているのである。
(追記)7月始めの10間ほどのミラノ・ロンドン旅、正味はたった8日間、しかし、色々なことがあった。
時間が経つと、芭蕉の様にまた旅心に誘われて出かけるであろうと思うが、人生そのものが旅。
30回になったので、これで今回の旅記録を終わりたい。