現在、一寸した書店の経営関連コーナーで平積みされている本が、ゲイリー・ハメルの「経営の未来 THE FUTURE OF MANAGEMENT」で、現在の正当派経営学理論に真っ向から挑戦を挑み、現在の経営管理を創造的破壊して、時代に即応した新しい経営管理モデルを構築せよと激しく檄を飛ばしている。
フリードマンの「フラット化する世界」やR・フロリダの「クリエイティブ・クラスの世紀」やD・ピンクの「ハイ・コンセプト」などに親しんでいる人には、全く当たり前で、すんなり入る経営戦略論なのだが、日本人にはあまり馴染めそうにない理論が展開されているので、その意味では非常に迫力があって面白い。
経営管理の革新的な青年期は100年前に終わっていて、近代経営管理の重要なルーツや技法は、19世紀の南北戦争頃に生まれた人々によって発明された。
それに、現実的にも、近代的な正当派経営学は、20世紀初期のテイラーの「科学的管理法」やマックス・ウェーバーの官僚型組織を基盤とする効率中心の経営管理パラダイムから、殆ど進化していない。
ところが、IT革命の画期的な進展等によって大きく企業を取り巻く経済社会環境が激変しており、経営管理の仕組みは、背負うことが出来ないほど重荷を背負わされて苦痛に喘いでいる。
変化のペースの速さ、つかの間で消える優位、既存の技術を駆逐する画期的技術、従来の秩序を破壊する競争相手、細分化された市場、絶大な力を持つ顧客、反逆する株主、・・・これら21世紀の挑戦が、世界中の組織の構造上の限界を揺さぶっており、時代について行けない経営管理モデルの限界をあらわにしている。
殆ど進化が停止した燃焼式エンジンのように時代遅れとなったこの経営管理を、今や、革新すべき時であるとして、マネジメントをイノベイトせよと説いているのである。
世界の「最も賞賛されている企業」でさえ、必要なだけの適応力がなく、内部の創造力をフルに活用しておらず、期待されるほど楽しい職場ではないのが現実で、今日のベスト・プラクティスは十分ではなく、企業の業績の究極を制約する経営管理モデルをイノベーションすることによって、長期的な競争優位を構築することが大切である。
目指すべき企業像は、自発的に自らを作りかえられる組織、変革のドラマに痛々しいリストラの衝撃を伴わない組織、イノベーションの電流があらゆる活動に流れ、反逆者が常に保守主義者に勝利する企業、社員の情熱と創造力に本当に値し、社員から夫々の最高の力を自然に引き出せる企業、等々で、これは夢ではなく必須の課題だと言うのである。
ハメルが、経営管理イノベーターとして3社を例証しており、その3社は、
有機食品や自然食品を専門とする高級食品会社で社員の活力と参加意識が最も高い「ホールフーズ」、
テフロンで起業し、アウトドアウエアに革命を起こした通気性のある防水ラミネート生地・ゴアテックスで名を成した会社で、社員にたゆみない常識破りのイノベーションを追求させている地球上で最も風変わりで革新的な企業と言われている「W.L.ゴア」、
社員に無秩序に近い無制限のイノベーション努力を求め何よりも適応力を重視する経営管理システムを構築している「グーグル」である。
これらの超優良会社は、言うならば、何の中央コントロール司令塔もないのに立派に機能して働き続けている人体と同じで、(そうでしょう、貴方のからだの何が諸器官の働きを指示しているのか、各々からだの部分部分が自由に自律的に機能して貴方の生命を維持しているのではありませんか)、社員達が、まともな命令指示形態もなく、フラットな組織で自由気ままに働いてイノベーションを追求していながらも、企業が有機的に機能して最高の経営実績を上げている。
ここには、現在最高のビジネス・スクールで教えている最高の経営学でも説明できない、素晴らしいベスト・プラクティスが展開されているのである。
ハメルは、随所で、アウトサイダーの強みを強調しているが、固定観念や世界を支配し続けているドグマティックな正当派理論が如何に有害で抵抗勢力となって社会の発展を阻害する要因となっているかと言うことを、胃潰瘍の原因を例にあげて説明している。
オーストラリアの二人の専門外の医師、バリー・マーシャルとロビン・ウォーレンが、胃潰瘍の原因は下等なバクテリアであると新しい学説を打ち出した時、医学界は、胃潰瘍の原因は香辛料の強い食べ物やストレスやアルコールだと信じて、高慢にも「頭がおかしい」などと言って悉く猛反発し、専門誌も論文の発表を拒否し続けた。
結局認められるまでに20年掛かって、2005年にノーベル賞を貰ったと言う。
マーシャルは、古い技術の思い入れのある人は、技術を変えることには関心がない。新しい技術を生み出すには、何時も周辺部にいる人間、現状によって何も得をしない人間だ。と言っている。
ところで、ハメルの理論を展開すると、経営のボトルネックはトップであって、真っ先に駆逐されるのは、経営者であり管理者なので、既得利権を必死に守ろうとする経営者が、経営管理パラダイムの革新に賛成する筈がない、しかし、革新しないと企業は潮流について行けなくなって滅びると、マネジメントのジレンマを説いている。
一人のトップが、或いは、少人数の役員達の決定が、全社員の総意・叡智には絶対に勝てないとも言うのである。
ボトムアップ主義経営が最高と説くハメルだが、民主主義も、ギリシャの直接民主主主義の方が良かったというのであろうか。
この本だが、他にIBMやベストバイなどの経営革新イノベーションの実例を説きながら、新しい経営管理の方向性を示し、経営の未来を如何に思い描き、築いて行くべきなのかと言った重要な提言を、非常に興味深く展開しているので読んでいて面白い。
(追記)口絵写真の椿は、花富貴。
フリードマンの「フラット化する世界」やR・フロリダの「クリエイティブ・クラスの世紀」やD・ピンクの「ハイ・コンセプト」などに親しんでいる人には、全く当たり前で、すんなり入る経営戦略論なのだが、日本人にはあまり馴染めそうにない理論が展開されているので、その意味では非常に迫力があって面白い。
経営管理の革新的な青年期は100年前に終わっていて、近代経営管理の重要なルーツや技法は、19世紀の南北戦争頃に生まれた人々によって発明された。
それに、現実的にも、近代的な正当派経営学は、20世紀初期のテイラーの「科学的管理法」やマックス・ウェーバーの官僚型組織を基盤とする効率中心の経営管理パラダイムから、殆ど進化していない。
ところが、IT革命の画期的な進展等によって大きく企業を取り巻く経済社会環境が激変しており、経営管理の仕組みは、背負うことが出来ないほど重荷を背負わされて苦痛に喘いでいる。
変化のペースの速さ、つかの間で消える優位、既存の技術を駆逐する画期的技術、従来の秩序を破壊する競争相手、細分化された市場、絶大な力を持つ顧客、反逆する株主、・・・これら21世紀の挑戦が、世界中の組織の構造上の限界を揺さぶっており、時代について行けない経営管理モデルの限界をあらわにしている。
殆ど進化が停止した燃焼式エンジンのように時代遅れとなったこの経営管理を、今や、革新すべき時であるとして、マネジメントをイノベイトせよと説いているのである。
世界の「最も賞賛されている企業」でさえ、必要なだけの適応力がなく、内部の創造力をフルに活用しておらず、期待されるほど楽しい職場ではないのが現実で、今日のベスト・プラクティスは十分ではなく、企業の業績の究極を制約する経営管理モデルをイノベーションすることによって、長期的な競争優位を構築することが大切である。
目指すべき企業像は、自発的に自らを作りかえられる組織、変革のドラマに痛々しいリストラの衝撃を伴わない組織、イノベーションの電流があらゆる活動に流れ、反逆者が常に保守主義者に勝利する企業、社員の情熱と創造力に本当に値し、社員から夫々の最高の力を自然に引き出せる企業、等々で、これは夢ではなく必須の課題だと言うのである。
ハメルが、経営管理イノベーターとして3社を例証しており、その3社は、
有機食品や自然食品を専門とする高級食品会社で社員の活力と参加意識が最も高い「ホールフーズ」、
テフロンで起業し、アウトドアウエアに革命を起こした通気性のある防水ラミネート生地・ゴアテックスで名を成した会社で、社員にたゆみない常識破りのイノベーションを追求させている地球上で最も風変わりで革新的な企業と言われている「W.L.ゴア」、
社員に無秩序に近い無制限のイノベーション努力を求め何よりも適応力を重視する経営管理システムを構築している「グーグル」である。
これらの超優良会社は、言うならば、何の中央コントロール司令塔もないのに立派に機能して働き続けている人体と同じで、(そうでしょう、貴方のからだの何が諸器官の働きを指示しているのか、各々からだの部分部分が自由に自律的に機能して貴方の生命を維持しているのではありませんか)、社員達が、まともな命令指示形態もなく、フラットな組織で自由気ままに働いてイノベーションを追求していながらも、企業が有機的に機能して最高の経営実績を上げている。
ここには、現在最高のビジネス・スクールで教えている最高の経営学でも説明できない、素晴らしいベスト・プラクティスが展開されているのである。
ハメルは、随所で、アウトサイダーの強みを強調しているが、固定観念や世界を支配し続けているドグマティックな正当派理論が如何に有害で抵抗勢力となって社会の発展を阻害する要因となっているかと言うことを、胃潰瘍の原因を例にあげて説明している。
オーストラリアの二人の専門外の医師、バリー・マーシャルとロビン・ウォーレンが、胃潰瘍の原因は下等なバクテリアであると新しい学説を打ち出した時、医学界は、胃潰瘍の原因は香辛料の強い食べ物やストレスやアルコールだと信じて、高慢にも「頭がおかしい」などと言って悉く猛反発し、専門誌も論文の発表を拒否し続けた。
結局認められるまでに20年掛かって、2005年にノーベル賞を貰ったと言う。
マーシャルは、古い技術の思い入れのある人は、技術を変えることには関心がない。新しい技術を生み出すには、何時も周辺部にいる人間、現状によって何も得をしない人間だ。と言っている。
ところで、ハメルの理論を展開すると、経営のボトルネックはトップであって、真っ先に駆逐されるのは、経営者であり管理者なので、既得利権を必死に守ろうとする経営者が、経営管理パラダイムの革新に賛成する筈がない、しかし、革新しないと企業は潮流について行けなくなって滅びると、マネジメントのジレンマを説いている。
一人のトップが、或いは、少人数の役員達の決定が、全社員の総意・叡智には絶対に勝てないとも言うのである。
ボトムアップ主義経営が最高と説くハメルだが、民主主義も、ギリシャの直接民主主主義の方が良かったというのであろうか。
この本だが、他にIBMやベストバイなどの経営革新イノベーションの実例を説きながら、新しい経営管理の方向性を示し、経営の未来を如何に思い描き、築いて行くべきなのかと言った重要な提言を、非常に興味深く展開しているので読んでいて面白い。
(追記)口絵写真の椿は、花富貴。