国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は9日第6次評価報告書を発表し、人間が地球の気候を温暖化させてきたことに「疑う余地がない」とする報告を公表した。
マット・マグラスBBC環境問題担当編集委員が、”温暖化は人間が原因=IPCC報告 「人類への赤信号」と国連事務総長 Climate change: IPCC report is 'code red for humanity'”というタイトルで、詳細に報告しているので、この資料を引用しながら、温暖化加速によって追い詰められて行く地球の危機について考えてみたい。
IPCCは、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏及び生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れている」と強い調子で、従来より踏み込んで断定した。さらに、「気候システム全般にわたる最近の変化の規模と、気候システムの側面の現在の状態は、何世紀も何千年もの間、前例のなかったものである」と指摘した。
国際社会がこれまで設定してきた気温上昇抑制の目標が2040年までに、早ければ2030年代半ばまでに、突破されてしまうと指摘。海面水位が今世紀末までに2メートル上昇する可能性も「排除できない」とした。「向こう数十年の間に二酸化炭素及びその他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に、地球温暖化は摂氏1.5度及び2度を超える」とも警告した。
IPCC報告の要旨:現状について
地球の2011~2020年の地表温度は、1850~1900年に比べて摂氏1.09度、高かった
過去5年間の気温は1850年以降、最も高かった
近年の海面水位の上昇率は1901~1971年に比べて3倍近く増えた
1990年代以降に世界各地で起きた氷河の後退および北極海の海氷減少は、90%の確率で人間の影響が原因
熱波など暑さの異常気象が1950年代から頻度と激しさを増しているのは「ほぼ確実」。一方で寒波など寒さの異常気象は頻度も厳しさも減っている
IPCC報告:将来への影響について
温室効果ガス排出量がどう変化するかによる複数のシナリオを検討した結果、どのシナリオでも、地球の気温は2040年までに、1850~1900年水準から1.5度上昇する
全てのシナリオで北極海は2050年までに少なくとも1回は、ほとんどまったく海氷がない状態になる
1850~1900年水準からの気温上昇を1.5度に抑えたとしても、「過去の記録上、前例のない」猛威をふるう異常気象現象が頻度を増して発生する
2100年までに、これまで100年に1回起きる程度だった極端な海面水位の変化が、検潮器が設置されている位置の半数以上で、少なくとも1年に1度は起きるようになる
多くの地域で森林火災が増える
これについて、英レディング大学のエド・ホーキンス教授は、「これは厳然とした事実の表明だ。これ以上はないというくらい確かなことだ。人間がこの惑星を温暖化させている。これは明確で、議論の余地がない」と述べた。と言う。
1970年以降の地表温度の上昇は、過去2000年間における50年期間で最も急速なペースだった。こうした温暖化は「すでに地球上のあらゆる地域で、様々な気象や気候の極端な現象に影響している」。
今年7月以降、北米西部やギリシャなどは極端な熱波に襲われている。あるいはドイツや中国は深刻な水害に見舞われた。過去10年の相次ぐ異常気象が「人間の影響によるものだという結びつきは、強化された」と報告書は指摘している。
海面水位の上昇については、さまざまなシナリオによるシミュレーションが行われた。それによると、今世紀末までに2メートル上昇する可能性も、2150年までに5メートル上昇する可能性も排除できないとされた。
実現の可能性は少ないながら、万が一そのような事態になれば、2100年までにほとんどの沿岸部は浸水し、数百万人の生活が脅かされることになる。
水の都ベネチアなど跡形もなくなり、東京もニューヨークも上海もロンドンも、水没してしまうのである。
パリ協定で各国は、産業革命以前の気温からの気温上昇分を、今世紀中は摂氏2度より「かなり低く」抑え、1.5度未満に抑えるための取り組みを推進すると合意した。
現在の地球の温度はすでに産業革命以前のレベルから1.1度、上昇している。そして近年、異常気象現象が頻発している。それが今後、何年もかけて1.5度上昇まで到達するとなると、「ますます激しい熱波が、ますます頻繁に起きる」。「地球全体で、集中豪雨がさらに増えるだろうし、一部の地域ではなんらかの干魃も増えるだろう」
それでは、何ができるのか。
多くの科学者は、2030年までに地球全体の温室効果ガス排出量を半減できれば、気温上昇を食い止め、あるいは反転させることができるかもしれないと、以前より期待を高めている。
温室効果化ガス実質ゼロ(ネットゼロ)を実現するには、まずクリーンエネルギー技術の利用で可能な限り温室効果ガスを減らした後、残る排出を炭素隔離貯留技術によって回収する、もしくは植林によって吸収するなどの取り組みが必要となる。
「かつては、たとえネットゼロを実現しても、気温上昇は続くと考えられていた。しかし今では、自然界が人間に優しくしてくれると期待している。もしネットゼロを実現できれば、それ以上の気温上昇はおそらくないだろうと。温室効果ガスのネットゼロが実現できれば、いずれは気温上昇を反転させて、地球を少し冷やせるようになるはずだ」。これが運命だと諦めてはいけないと警告する。
「温暖化のレベルを下げれば、事態が一気に悪化する転換点に達してしまう可能性がかなり減らせる。破滅すると決まったわけではない。気候変動における転換点とは、温暖化が続くことで地球の気候システムが急変する時点を意味する。
各国政府の首脳陣にとって、今回のIPCC報告は長年何度も繰り返されてきた警鐘のひとつに過ぎないかもしれない。しかし、11月のCOP26は目前だ。それだけに、今までより大きく政治家たちの耳に響くかもれない。
温暖化が地球環境を窮地に追い込むと言う前に、最近、日本各地は勿論、世界的な規模で、頻繁に、「過去の記録上、前例のない」猛威をふるう異常気象現象が頻度を増して発生して、人々の生活を脅かしているが、このような災害が、今後益々、抵抗し得ないような規模と頻度で、続発すると考えるべきであろう。
地球環境問題の解決には、グローバルベースの政治解決が必須で、人類を引っ張って行く高邁な理想を掲げ意気に燃えた高潔なリーダーの登場を待つ以外になかろうが、その道がないのが悲しい。
今回は、BBCの記事紹介が主体となってしまったが、私見を差し挟む余地など全くない深刻な問題である。