時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

移住の未来

2006年06月14日 | 移民政策を追って

  日本のドミニカ移民についての判決が出た6月6日、国連から初めて移住に関する事務総長報告書が公表された。これによると2005年現在、生まれた国以外で(1年以上)暮らす人々は世界で1億9100万人に及ぶ。世界人口の約2%に相当する。

巨額な外貨送金とその使途
  移住者から本国へ送られる外貨送金は世界合計で、昨年1年間で2320億ドルに達し、1020億ドルだった95年に比べると倍以上となっている。ちなみに、外貨送金の受け入れが多い国はメキシコ、フィリピン、インドなどである。確かに、送金額は大きくなったが、それが生産的目的のために効率的に使用されているかについては議論が対立している。送金額の大きさと経済発展は反比例しているとの分析もある。人の流出が大きくなり、他方で流入する送金も増加しているが、「出稼ぎ風土」が定着し、国内に安定した産業や雇用の基盤が形成されにくくなる。移民依存型の経済は、外貨送金や熟練が効率的に活用されず、漏出する可能性も高い。

  受け入れた移民、言い換えると移住者の人口が多いのは、アメリカ合衆国である。移民で国家形成したので移住者が多いのは当然である。しかし、このブログでも継続的に取り上げてきたように、最近では移民、とりわけヒスパニック系不法滞在者と先住者の間での摩擦が激化し、社会的不安定の要因となる状況も生まれてはいる。

移民と社会的摩擦・紛争
    アナン国連事務総長は「移住することは、うまくいった場合、送り出した国にとっても、受入れ国にとっても移住した本人にとっても恩恵となる」として、移住人口の増加を前向きに評価した。しかし、最近はうまくゆかない状況も顕在化している。移住者=貧困層などの問題グループではないが、ある部分が重なっていることも事実である。それがいかなる背景とプロセスから生まれているかは、検討が十分ではない。

  報告書によると、不法適法を問わず、移住者が最も多く住んでいるのはアメリカで、約3840万人、以下2位ロシア(1210万人)、3位ドイツ(1010万人)と続く。 4位ウクライナ(680万人)、5位フランス(650万人)、6位サウジアラビア(640万人)、7位カナダ(610万人)、8位インド(570万人)9位イギリス(540万人)、10位スペイン(480万人)である。

見通しのない日本
  ちなみに、日本は20位(200万人)となる。移民の受け入れ国ではないし、現在でも移民を受け入れる枠組みも準備していないので、別に驚くことはない。外国人比率が低いから開放せよという議論も短絡している。外国人比率は今の枠組みのままでも時間が経過すれば、ヨーロッパ並みに近づいてゆく。世界に類のないような人口減少時代を迎えながらも、移民受け入れのあり方について、国民的議論がなにも行われていないことが問題とされるべきなのだ。

  日本の現状は相変わらすの成り行きまかせ、長期的構想は提示されない。国民的議論の場に出すことをむしろ回避しているとしか思えない。入管法の改正などは度々行われているが、政策立案の視野が狭小である。少子高齢化の対応にしてもあまりに遅すぎたために、実効が期待できる段階を過ぎてしまった。移民問題の検討も適切な時期は過ぎてしまったとの感が否めない。日本に残された時間はもう少ない。

Reference
「移住者受け入れ 日本20位」『朝日新聞』夕刊2006年6月7日

国連事務総長報告のベースとなったのは、昨年公表されたGCIM報告である。
Global Commission on International Migration (GCIM). Migration in an interconnected world: New directions for action.2005.

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