この「変なブログ」を始めるに当たって、そのデザインに多少迷ったことがあった。ブログに移行する前に、若い学生諸君の手助けでホームページを開設していた。その時は記事だけ書いて、後は日常の運営管理もまかせっきりであった。
毎年、管理者が代わり、模様替えが行われた。年々若くなる世代のデザイン・センスの良さに感心したことも多い。その後、自由度が多く操作も容易なブログなるものを知り、見よう見まねで始めてみたが、デザインについてはお仕着せテンプレートのまま今日にいたっている。
多少のこだわり
ブログに移行するに際して、少しこだわったのは背景の色であった。実はシンプルなオフ・ホワイトか透明系を使いたかったのだが、試してみてどうも収まり具合がわるいと思うことがあった。文字中心なら問題はなにもないのだが、記憶の再現、備忘録も兼ねて画像イメージも残したかった。
たとえば、ラ・トゥールのイメージを伝えるのにオフ・ホワイト系の背景では、画像が浮いてしまってどうも落ち着かない。 もちろん、ブログのイメージなど、本物の作品を思い浮かべるためのヒントにすぎないのだが。
この画家の作品展などに行かれた方は、お気づきかもしれないが、全体に照明が暗く、隔離された部屋の方がはるかにふさわしく、作品も生きてくる。オランジュリー展も東京展もそうであったが、かなり照明度を落としての展示だった。作品の細部を見ようと思ったら、ぐっと近づいて見なければ分からない程度の明るさである。もともと、そうした時代環境の中で描かれた作品である。
「赤」の画家
17世紀は、現代社会のようにまばゆいばかりの人工光が輝いていた時代ではない。画家のアトリエも日没後は、ラ・トゥールのように蝋燭の光にかかわるような画題をとりあげるのでもなければ、とても仕事はできなかったろう。
こんなことを考えながら、背景としては重いなあと感じながらも選んだのが今の色である。元来、青色系は比較的好きではある。他方、以前のブログでもとりあげたように、ラ・トゥールの現存する作品で青色系が使われているのはきわめて少ない。ラ・トゥールは「光と闇」の画家であるとともに、「赤の画家」である。 この点は美術史家などもあまり指摘していない。
16世紀末から17世紀にかけて、コチニールの赤色がかなり普及し、この色を使う画家が増えたと思われる。ティントレット、フェルメール、レンブラント、ルーベンス、ファン・エイク、ヴェラスケス、カナレット、ラ・トゥール、ゲインスバラ、スーレ、ターナーなどの画家がかなり使っている。その中で、ラ・トゥールの赤色、赤褐色系の多用はかなり目立つ。
現代は「青」?
画家がいかなる画材を使ったかという点の分析が進んだのは、比較的近年のことであるといわれる。美術史の論文などにも、画家とその画材をとりあげるものも見られるようになった。最近読んだ 『青の歴史』の著者ミシェル・パストゥローは、実は赤の歴史を書きたかったらしいが、出版社から懇願されて青の歴史を書いたと記している。
「赤」という色から連想するイメージもさまざまである。熱情、華麗、高貴、気品、権力、護符など、時代や状況によってかなり変化してきた。 12世紀には「赤」は高貴な色であり、権力のイメージでもあったようだ。法王、枢機卿などの衣裳などにも長く使われてきた。
その後、「青」も人気を得るようになり、現代の色は「青」ともいわれる。いずれまた取り上げてみたいが、色は時代の動きを敏感に感じ取るバロメーターのようなところもある。
References
ミシェル・パストゥロー(松村恵理・松村剛訳)『青の歴史』筑摩書房、2005年
徳井淑子『色で読む中世ヨーロッパ』 講談社、2006年