一時は楽観的な見方も生まれかけていたアメリカの移民規制改革法案だが、最終段階で座礁してしまった。上院は6月7日、法案採決を断念した。外政・内政ともにレームダック化しているブッシュ政権にとっては、包括的な移民制度改革を挽回の旗印としてきただけに大きな打撃となった。民主・共和両党の有力議員による超党派の妥協案で、今度はなんとかまとまるかと思われていただけに、この挫折で今後の道は一段とけわしくなった。
上院が採決を断念した原因のひとつは、すでに1200万人に達している不法滞在者の処遇に対する強い反対である。法案は条件付きだが不法移民に永住権取得に道を開く内容であり、これが共和党保守派から「密入国者への恩赦」に等しいと批判された。
法案は一定の条件下(5000ドルの罰金支払い、犯罪歴の有無など)で不法移民にも合法就労、永住権への道を開く内容となっている。現在の厳しい制約の下では、かなり良く詰められた案になっているが、共和党保守派にはこれでも「恩赦」(特別救済) amnesty と見えるようだ。
アメリカ移民法改革で、これまでにアムネスティが大きな政治的論点となったのは、1986年の「移民改革規制法」 The Immigration Reform and Control Act of 1986 の時であった。当時アムネスティで合衆国に滞在と労働の権利を与えられた外国人はおよそ225万人と言われたが、同時にその資格要件を充足しえず、不法なままに合衆国に滞在した外国人も270-290万人と推定された。その当時と比較すると、不法滞在者の数は現在では1200万人といわれ、問題の難しさも格段に増加している。
最大の論争点は、当時も今も不法滞在者が総合的に見て、果たしてアメリカのためになっているか否かという所にある。1980年代以降の移民政策論争で繰り返し議論されてきた問題である。不法滞在者は、彼らが支払う税金以上に、教育f、ヘルスケアなどを多く消費するかもしれない。そのプラス・マイナスは正確には確定できない。多分、連邦政府が得をし、学校教育や緊急医療などを担う州などの地域は持ち出しかもしれない。地域は不法滞在者の子供の教育費用も負担しなければならない。しかし、将来は得をするかもしれない。第一世代の子供は両親よりも所得が多いことが経験的に分かっている。不法移民は、アメリカ生まれの国民にGDPの0.07%程度の負担を課すという試算もある。こうした試算はいくつか行われてきたが、総合した結果はプラス・マイナス双方、いずれも微妙な範囲に留まっており、十分な説得力を持っていない。結局、政治家の判断に委ねられることになる。
不法滞在者の数は、政策対応が遅れている間に増加し続け、年間数十万人の規模で加算されている。時間が経過するほど対応も難しくなっている。移民国家アメリカの土台はかつてなく揺らいでいる。流れてしまった法案は、現状ではかなり良く考えられた内容であっただけに、事態打開への道は多難である。今後いかなる収拾がなされるか。サミット・欧州歴訪から戻るブッシュ大統領には一段と厳しい試練が待ち構えている。
Reference
CBS News June 7, 2007