時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

ついに断念:アメリカ移民法改革

2007年06月30日 | 移民政策を追って

 

  ブッシュ大統領が残る任期中、なんとか実現したいと期待していた包括的移民制度改革は、ついに成立の見通しがなくなった。ABC Newsなどが一斉に伝えている。この問題の帰趨は、これまでこのブログでもグローバル化の「定点観測」の対象のひとつとしてきた。

  6月26日、アメリカ上院本会議はアメリカとメキシコの国境の警備強化と不法移民の就労合法化などを含む包括的移民制度改革法案の採決を今月初めに続き、再び断念した。今回もブッシュ大統領の予想以上に、民主、共和両党ともに反対にまわった議員が多く、大統領の最後の望みも断たれた形となった。

  提出が断念された法案の骨格は、不法移民の流入を抑えるためにアメリカ・メキシコ国境の管理を強化する一方、すでにアメリカ国内にいる1200万人と推定される不法移民について条件付きの合法就労や永住権取得への道を開くなどの内容である。農業、建設分野などへの一時的移民労働者の受け入れについては、すでに年間20万人の枠で抑えることになっている。

  今年に入ってから共和党、民主両党の右派と左派議員による超党派の法案が提出されてきたが、結局実らなかった。移民政策は党派の違いを超えて、議員間の考えの差異も大きく、右派と左派の両端を抑えてもまとめきれなかった。

  今回、土壇場で法案提出を断念した背後には、民主党のみならず与党の共和党員の間でも、すでにアメリカにいる不法滞在者の合法化の道を開くことは恩赦であるとの反対も強く、大統領も最後まで説得にまわったが失敗に終わった。これで、この問題は次期政権が誕生する2009年1月以降まで、先送りとされることがほぼ決定し、残る任期運営で大きな政策の柱として期待していたブッシュ大統領は厳しい打撃を受けることになった。

  今回の挫折にいたるまでの経緯を見ていて感じることは、すでにアメリカ国内にいる不法滞在者の合法化の道がきわめて厳しいことである。アメリカの移民法の歴史で、恩赦(amnesty)の措置がとられたのは、1986年の移民改革規制法 The Immigration Reform and Control Act of 1986 であった。今回の改革案では、合法化への過程は当時よりはるかに厳しくなっているが、それでも恩赦に等しいとして反対する議員が多い。
これには、9.11以降、アメリカ国民の移民に対する保守化ともいうべき変化も感じられる。

  アメリカ国内で急速に増加する合法・不法のヒスパニック系住民への対応も年々困難さを加えており、来るべき大統領選挙選での政策上の難問となることは間違いない。
新政権の政策提示いかんでは、一層の不法移民の流入なども予想され、対応は一段と難しさを増すだろう。しばらく実態面での変化に着目して、ウオッチングを続けたい。

 

コメント (4)
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