時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

不況が解決策?不法滞在移民

2008年12月12日 | 移民の情景

  アメリカ発の金融危機はいまや金融市場にとどまらず、各国の実体経済(生産物・労働市場など)の次元に急速に浸透しつつある。その速度は驚くばかりで、対応が間に合わないほどだ。アメリカ、ヨーロッパ、そして日本で雇用不安が急速に拡大し、深刻な打撃を与えている。

 派遣労働者、期間限定労働者、そして内定取り消しなどの問題にとりまぎれ、メディアの注目を集めるまでにいたっていないのが、外国人労働者だ。日本でも大田、大泉、浜松あるいは豊田市周辺などの外国人の集住地域では、仕事を失う外国人労働者が急速に増えているようだ
。彼(女)たちの多くは、これまでも日本人労働者のように正規労働者としての地位を得ることは難しく、派遣労働者などの不安定な形態で仕事に就くことが多かった。そのため、今回の世界的不況では最初に打撃を受けた最大の被害者だ。

 外国人労働者は、不況に大変弱い存在だ。景気が後退すると、国内労働者よりも真っ先に採用中止、解雇など雇用調整の対象にされてしまう。それだけではない。ひとたび失職すると、景気が反転上昇に向かっても、仕事の機会になかなかありつけない。国内労働者が十分雇用された後、それでも労働力が不足する場合になることが多い。失職している間、家族などの生活を支えるセフティ・ネットがきわめて不十分にしか存在しない。   

 すでにアメリカでは問題が顕在化し、これまであまり見られなかった注目すべき変化が現れている。今年10月、全国平均の失業率は6.5%だが、移民の多いヒスパニック系に限ると、8.8%の高率である。 アメリカへの移民労働者の主要な送り出し側であるメキシコ政府の推計では、外国で働こうとする国民の数は2006年と比較して、今年は40%以上の減少だという。最大の出稼ぎ先のアメリカなどで労働需要が大幅に減少しているからだ。アメリカの国境パトロールが拘束した不法越境者の数は、昨年度(9月に終わる会計年度)は、前年度と比較して18%減とされている。

 21世紀に入って、アメリカにおける不法越境・滞在者の数は年々増加を続け、2007年には1200万人を越えたと推定されていた。しかし、その数を減らしたいというブッシュ政権下の政策対応は、議会の反対もあって実現せず、国境障壁の強化以外はほとんどなにもされることなく、放置されてきた。オバマ新政権の前に放り出された感じだ。  

 こうした状況で、アメリカで働く外国人労働者からメキシコなどの母国への送金も激減している。2007年で、すでに2000年以降の最低水準となった。メキシコへの外貨送金は2006年に前年比17%増加して、237億ドルを記録した。しかし、2007年は1%しか増えなかった。今年は7-8%減となると、メキシコ中央銀行は予想している。

 ヒスパニック系労働者は、農業、建設業、サービス業などで多数働いているが、一部にはアメリカで働くことをあきらめ、メキシコなどへ帰国する者が増えている。以前はアメリカを出国し、自国へ戻る人々についてはほとんどノーチェックという時代もあったが、テロや麻薬密輸への対応もあって、出国者についての管理も厳しくなっている。

 これまで不法滞在者の多くは、できるだけ長くアメリカ国内に留まり、アムネスティなど市民権獲得の機会を待ちたいと考えていた。そのため、不況に直面しても帰国することをせず、じっと耐え忍んでいた。しかし、今回はかなり様相が異なっている。不況はかつてなく深刻度を増し、仕事ばかりでなく、アメリカで生活すること自体が難しくなってきている。彼らはついに残された最後の選択肢、帰国の道を選び始めた。
アメリカ国内の不法滞在者取り締まりも、一斉に強化されたようだ。この機会に不法滞在者の数を減らそうという意図があるらしい。

 不法滞在者の数は、初めて減少の兆しを見せ始めた。Pew Heispanic Center の推定では、2008年3月現在の不法滞在者は1190万人と、前年2007年の1240万人から初めて減少を示した。2000年の840万人から一貫して上昇してきた

 これまでアメリカは国境管理の強化などで、不法越境者を拘束し、強制送還するなどの手段で、不法滞在者の増加に対応してきた。それにもかかわらず、不法滞在者の数は減少することなく、増加の一途をたどってきた。今回の大不況は、初めてその増勢に歯止めをかけ、滞在者数が反転減少を見せ始めた。

 しかし、母国へ帰っても、そこでも不況は彼らを待ちかまえている。アメリカで仕事がなくなったからといって、簡単には帰れない事情がある。国境隣接州などでは帰国者も増えるだろうが、ひとたび生活の基盤を築いてしまった労働者や家族は帰ることもできない。日本で働く日系ブラジル人などの間でも、日本で働くことに見切りをつけて帰国する人も増えているようだが、ブラジルも不況の直撃で仕事がない。世界同時不況の厳しさだ。移民労働者にとって、今年の冬はいつになく寒さが身にしむものになる。

 



 

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