時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

デカルトの肖像

2009年06月09日 | 絵のある部屋

『ルネ・デカルトの肖像』(フランス・ハルスの原作に基づく)
Portrait de René Descartes(d'après Frans Hals)
vers 1650
Huile sur toile
78x69cm
inv.1317


  国立西洋美術館の『ルーヴル展』も閉幕(6月14日まで)が近づいた。全部で71点の展示作品の中で2点だけ、制作の時代は推定されても画家の特定ができないものが、出展されている。そのひとつは、17世紀フランスで最も著名な思想家のひとりルネ・デカルト(1596-1629)の肖像画である。「近代哲学の父」ともいわれるデカルトは、多くの画家が描きたがった「時代の人」であった。

 デカルトは、母国であるフランスを離れ、ヨーロッパを遍歴し、自由な活動ができる地を求めていた。1629年オランダに亡命し、最終的にアムステルダムに落ち着いたようだ
。最後は旅先のスエーデンで亡くなったが、寛容な空気が充ちたオランダの空気が肌に合ったのだろう。

 今回の『ルーヴル美術展-17世紀ヨーロッパ絵画』は、構成が3つの大きなテーマ、「「黄金の世紀」とその陰の領域」、「旅行と「科学革命」」、「「聖人の世紀」、古代の継承者?」から成り、デカルトの肖像画は「旅行と「科学革命」」の部門に展示されている。
 
 この肖像画(上掲)は、フランツ・ハルス(1581/85頃ー1666)の作品を基に描かれたものと推定されている。ハルスは17世紀オランダの最大のポートレート画家であった。ほとんどポートレートだけを多数描いた。ハルスはハールレムで生涯のほとんどを過ごしたようだが、その画風は枠にとらわれず、自由闊達であった。 

 このデカルトの肖像画の基は、コペンハーゲンの国立美術館が所蔵する小さな作品(下掲)とみられている。もし、これがデカルトを描いた数々の模作の原型であるとみなしうるならば、現存はしないが、より大きなサイズの肖像画が描かれていたと推測しても不思議ではない。画家名は不明だが、これがこの作品が今回も選定された理由のようだ。

 出品されたこの肖像画も原作を基に制作され、希代な思想家の面影を伝える原作に劣らない素晴らしい作品だ。

 ハルスが描いたデカルトは、才気に溢れた容貌である。そのはっきりと見開かれた両眼は、深い思索の持ち主であることを示している。デカルトは書斎に籠もって思索を重ねる哲学者ではなかったようだ。ヨーロッパ諸国を遍歴し、多くの論争を引き起こし、その過程で名声を築き上げていった。ある女性をめぐって、決闘に及んだこともあるらしい。剣士のような武断の人としての一面すら感じられる。一枚の肖像画を通して、人類の歴史に新たな光をもたらした人物の実像に思いをめぐらすことは、『農民の家族』(ル・ナン)とは違った意味で、興味が尽きない。


Frans Hals
René Descartes c. 1649
Oil on panel,
19 x 14 cm
Statens Museum for Kunst, Copenhagen

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする