立春が過ぎてから日本列島は寒波に見舞われ、各地でかなりの雪が降った。文字通り「春の雪」だ。今年は日本に限らず、世界の各地で異常気象のために大雪が降り、交通機関が麻痺するという状況が生まれた。ニューヨーク州の田舎に住む友人からのメールにも、年末からの大雪で道路が閉鎖され、退職後、町の消防団長でもある彼は雪に埋もれた消火栓の確保などの仕事に追われ、クリスマスカードもとりに行けなかったほどだったと記されていた。ニューヨーク市も国連本部が臨時休日になるなど、かなり大変らしい。
イギリスでは融雪剤として使う砂塩が不足して、除雪ができないという事態が生まれたという。そういえば、かつてアメリカ生活を送っていた頃、豪雪地帯では一冬が終わると、自動車の品質が劣化するという話があった。除雪用に道路に撒かれた塩が車体に付着してしまい、そのつど良く洗車しておかないと、冬の終わりにパネルの裏などが腐食してボロボロになり蹴飛ばす程度で折れてしまう。事実、中古車などではよく見かけた。
除雪用に使う粗塩は、アメリカやイギリスでは1トンあたり40-50ドルとのこと。化学産業で使われるもう少し精製された塩は150ドルくらい。さらに料理でグルメが好む高級な食塩「塩の華」fleur de selにいたっては1トン7万ドル以上もするらしい。いずれも突き詰めれば塩化ナトリウムなのだが、有害な夾雑物などを取り除くのに大変費用がかかる。今回の大雪で苦労しているワシントンD.C.などでは、雪を処理するため川へ捨てたいのだが、有害な塩分などが混入しているため、処理に困っているようだ。「雪害」過ぎて、「塩害」へということらしい。ちなみに、融雪効果を生むには1平方メートルあたり10-20グラムを散布する必要があるとのこと。
意外なことに塩は、取引の範囲、市場の大きさなどがかなり限定されていて、除雪用塩が足りないといっても、簡単には生産拡大、不足地への輸送などができないという。美しい雪も生活に必要な塩も度を過ぎると、思いがけないことが起きることを知らされた。
Reference
”Salt sellers” The Economist January 16th 2010/01/24