Jacque Stella、The Liberality of Titus
178 x 147.5 cm. Fogg Art Museum, Harvard University, Cambridge, Mass.
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毎度、古いお話で恐縮です。フランス人で1590-1600年頃の生まれで、ローマに憧れ、彼の地に滞在していた画家たちは、カラヴァッジョの影響を深く受けていたようです。しかし、日本ではこの画家が知られるようになったのは、比較的新しく、2001年、東京で「カラヴァッジョ」展が東京都庭園美術館で開催された時は、閉幕近くでも楽に入館できて、カラヴァッジョって誰?といった雰囲気さえありました。隔世の感があります。
しかし、16世紀末から17世紀初めにイタリアへ行ったフランス人画家でも、カラヴァッジョの画風にほとんど影響されなかった画家たちもいました。17世紀当時、イタリアに滞在していたフランス人画家の中に、あのジャック・ステラ Jacques Stella (1596 Lyons-Paris 1657)もいました。当初はフィレンツエの画家の影響を受けていたようですが、次第にプッサンの画風に惹かれるようになります。プッサンをリシュリューやルイ13世に推薦したひとりでしょう。
このステラがリシュリュー枢機卿のシャトーのキャビネットに描いた『ティトウスの寛大さ』 The Liberality of Titus なる作品も、アメリカに流出し、現在、ハーヴァード大学のフォッグ美術館が所蔵しています。ティトゥス(40?-81、ローマ皇帝)の時代には、イエレサレムの寺院破壊、ヴェスピアス噴火、ポンペイの壊滅など、破滅的な出来事があった時代でしたが、ティトウスはそうした中でも寛大さを失わなかったといわれ、その情景を描いたものと言われます。
ステラはリシュリュー枢機卿のごひいきの画家のひとりで、ステラにこの作品の制作を依頼したのは驚くことではありません。リシュリュー卿のシャトーのこの部屋は、ほかにもプッサンの『ネプチューンの勝利』 The Triumph of Neptune, Canvas, 144.5 x 147 cm, Philadelphia Museum of Artも掲げられていたようです。さぞかし、華やかで枢機卿お気に入りの部屋だったのでしょう。
Jacques Stella, 1634
Oil on canvas, 114,5 x 146,6 cm
Philadelphia Museum of Art, Philadelphia
この作品もリシュリュー枢機卿のために描かれたことは疑いありません。恐らく3枚の『バカナルス』 Bacchanls よりも前に制作されたものと思われます。リシュリュー好みの大変華麗な作品ですが、かなりペダンティックな要素が多く、さまざまな解釈がなされているようです。
こうしてみると、17世紀イタリア、フランス美術には、かなりの多様性がみられたことが推察できます。