時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

戦争が生み出す移民・難民: なにが分かってくるか

2013年09月13日 | 移民の情景

17世紀30年戦争当時の甲冑。
なんとなく化学兵器戦争や福島原発作業を連想してしまう。 
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ようやく気づいた国民
 
シリア問題について、オバマ大統領の思惑が外れたことで、アメリカの威信は大きく揺らいだ。盟友イギリスまでもが、国民の過半は新たな戦争に関わることはごめんだと早々と引いてしまった。イギリス国民としても、今回はきわめて冷静な判断をしたといえよう。

 酷暑しのぎに、目が疲れる分厚い書籍を読まずに、トニー・ブレヤー(第73代イギリス首相、第18代労働党党首)
の回顧録 A Jouney を聞いていた。著者自身の朗読だが、なんと13枚のディスクで計16時間かかった。ブレヤーは演説のうまいことでも知られた人物である。それだけに現代史の難しい時期に関わり、内容は濃く、興味深いのだが、聞くのも楽ではない。日本ではほとんど報道されなかった話も多い。それはともかく、イギリス国民も指導者の誤った判断で、犠牲を強いられる他国への派兵、犠牲の大きさにようやく気づいたのだ。さらに、外国での戦争はテロリズムの輸入という形をとって、結局自国まで拡大してしまうことになった。ブレヤーが首相在任中、北アイルランド和平への協議(1998年ベルファスト合意締結)、アメリカのブッシュ政権が主導した対テロ戦争(アフガニスタン紛争、イラク戦争)への参加などの経験が、いかにその後の国民の意思に反映したかが伝わってきて、聞き始めると、案外時間は早く経過してしまう。    

 このブレアの回顧録は、ひとりの政治家の目から見たイギリス現代史の一齣だが、総じて大変興味深い内容である。現在進行中のシリア内戦がいかなる帰結を生むか、まだ分からないが、現在の段階で、米ロなど大国間の覇権争いの方向はほぼ見えている。これまでの数々の難局で、関係する国々の政治家たち、そして国民がなにを考え、いかなる意志決定にいたったかという問題を考える上で、イギリスの経験は多くのことを教えている。今回、孤立してしまったオバマ大統領としては、イギリスに準じた手法をとるしかなくなった。



Tony Blair, A Journey: My Political Life
Read by the Author, New York: Random House
13 compact discs, 2010

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効力を失った「米国例外論」
 オバマ大統領にノーベル平和賞を授与したことは、明らかに早すぎたのだ。ロシアのプーチン大統領がオバマ大統領の「米国例外論」を逆手にとって批判し、窮地に追い詰めたところで、シリアの化学兵器の国際的管理なるカードを持ち出し、疲労困憊の色濃いオバマ大統領はかろうじて一本の枝にすがりつけることになった。

 もっとも、このカードがジョーカーとして解決の切り札になるかは予断を許さない。シリアに平和が戻るのは、大変長引きそうな予感がする。しかし、今の段階ではロシアは大国復活の一歩を誇示し、シリア、アサド政権に恩を売り、アメリカはかろうじて面子を維持している形だ。アメリカが現代世界における「正義の味方」という超法規的国家であるというイメージはとうに消えている。

 カーニー米大統領補佐官は、9月12日の記者会見で、米国は世界中の民主的価値観や人権のために立ち上がる「例外的な国」でロシアとは異なると述べ、プーチン大統領に反論したが、もはや迫力はなくなっている。他方、ロシアは安保理の対シリア決議案に拒否権を行使してきており、米ロ双方が大きな責任を国際的には負っていることを自覚すべきことはいうまでもない。問題はそのことを当事者が自覚しないことにある。化学兵器の使用をめぐって、内戦下の議論は泥沼化する可能性が大だ。他方、これも大国となった中国はロシア側に寄りながらも静観のかまえだ。というよりも、国内に深刻な問題山積、それどころではなく、今は国際紛争に介入できる時ではないと思っているのだろう。しかし、隣国日本には執拗な示威を繰り返している。

 ようやく猛暑が収まりつつある今、こうした世界の動きを見ていると、このブログに度々記してきた17世紀と、どれだけ違うのだろうかと度々思う。危機の時代」といわれた17世紀からは多くの点で学ぶことが多い。

犠牲はいつも難民 
 
気の毒なのは大国の駆け引きと武力介入で、右往左往させられる当事国の無力な国民だ。シリアでもすでに200万人を越える多数の難民が生まれた。内戦によって住む場所を失った難民が、少しでも安心できる地へ逃げのびたいと思うのは当然だ。しかし、その状況は映像上でも見るに痛ましい。シリアはヨーロッパに近く、イタリアなどへはアドリア海を船で越える難民が増加している。

 難民あるいは移民を受け入れ側は、以前にもまして冷たい対応だ。世界全般で移民や難民への対応が冷淡になっている。EUの受け入れ国、イギリス、フランス、オランダなど、いずれも国境管理を強化し、閉鎖的対応を強めている。他方、EUの中で唯一抜きんでた存在のドイツは、かなり積極的に難民受け入れに動いた。

 シリア問題にふりまわされているアメリカでは、懸案の移民法改革もどこかへ棚上げされてしまったようだ。移民法改革で超党派グループの共和党の有力マケイン議員も、軍事力行使の立場をとったが、住民集会などで、まったく支持されず、答えに詰まり腕を組んで立ち往生だった。「米国例外論」の終わりを象徴するようだった。シリア問題でブログに記した通り、「鯖の鮮度」は落ちてしまった。

 イギリスの例を見る。非常に評判が悪いのは内務省のとっている政策だ。たとえば、ロンドン市内に「帰国しなさい、さもないと逮捕されるかもしれません」"Go Home or Face Arrest" という看板をつけた広報車をはしらせているからだ。その対象は不法(滞在)移民だ。しかし、イギリス生まれの人種的には少数の市民、そして連立政権の閣僚の何人かを反発させている。

 他方、新任のイギリスの中央銀行総裁マーク・カーニー氏は、カナダ人の英語アクセントと独特の表現で、今のところイギリス特有のうるさい議論を抑えこんでいる。これまでの管理人の人生で、イギリス人とのつきあいもかなり長くなったが、自国に適任者が見当たらないとなれば、時に政治的判断を含めて、有名大学の学長や中央銀行総裁まで、外国人を登用するというカードを使うイギリスという国はやはり興味深い。日本で日銀総裁や東大総長に、中国人、アメリカ人など外国人が就任する日は考えられるだろうか。

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