再選されたバマ大統領は精力的に活動を開始している。 これまで頓挫していた政策を再生させようとの動きが見え始めた。11月27日にはメキシコのペニャ・ニエト次期大統領と会見し、両国懸案の課題解決に着手し始めたようだ。PBSの対談に出演したS.オニール(外交問題評議会)、M.シフター(インターアメリカン・ダイアローグ)の両氏は、共にアメリカにとって経済問題に次ぐ課題は、移民問題への対応という点で意見が一致していた。
移民制度改革については、オバマ大統領、前半の4年間は、共和党の反対が強く、ほとんどさしたることができなかった領域である。移民制度の改革案は、すでにジョージ・ブッシュ大統領の時に概略は提示されながらも、多くの共和党員が反対し、実現を阻止されてきた。とりわけ賛否が分かれた問題は、およそ1200万人ともいわれる不法滞在移民への対応だった。
大統領選を左右したヒスパニック系
このたびの大統領選挙戦を通して、民主、共和両党に、この問題についての共通基盤が生まれつつある。いくつかの理由があるが、最大の変化は不法移民の大半を占めるヒスパニック系、とりわけメキシコ系移民についての認識が変化したことだ。ヒスパニック系への対応が、大統領選などの成否を決めることが、やっと認識されるようになった。特に共和党内には、これまでヒスパニック系選挙民に冷淡であったことについて、反省が生まれている。
今回の大統領選で、ヒスパニック系は、アメリカ全土の選挙有権者の10%を占めた。2008年当時は9%であった。わずかな変化にみえるかもしれないが、数は着実に増え、キャスティング・ボートを握った。ロムニー候補が不法滞在者は「自分で強制的に帰国せよ」 self-deportという発言をしたこともあって、ロムニーは、ヒスパニック系投票者の27%の得票しか得られなかった。
他方、オバマ大統領は一定の条件をクリアした若い不法滞在者に労働許可を与える方針を示し、彼らの抱える問題に理解を示したこともあって、71%を獲得した。これほど明瞭な差異が生まれると、共和党もヒスパニック系選挙民の重要性を認めざるをえない。依然、不法移民に市民権を与えることはアムネスティであるとして、反対する勢力も強いが、状況は明らかに変化しつつある。共和党員の間にも大統領案に同調する者も増え始めた。
変わる移民の現実
変化をもたらしている要因は他にもある。アメリカ・メキシコ国境は約2000マイル(3200km)近くになるが、およそ1日1人の率で越境を試みる者が死亡している。不法越境は状況が急速に厳しくなっている。
結果としてみると、メキシコの人口のおよそ10人に1人に相当する1200万人が不法移民である。アメリカで生まれたメキシコ系は約330万人である。ロサンジェルスは、いまやメキシコの首都メキシコ・シティに次いで、メキシコ系人口が多い。
1995-2000年の間に約300万人のメキシコ人がアメリカへ入国した。他方、メキシコへ戻ったのは70万人くらいだ。2005-10年には、新規入国は140万人くらいだったが、戻った数も同じ140万人程度だった。今は帰国者の方が多くなってきた。
ボーダーパトロールによると、2000年にはおよそ160万人が越境しようとして拘束された。昨年2011年は286,000人、過去40年間で最低の水準だった。
移民の波は、増えたり減ったりしている。かつてはカナダ、イタリア、ドイツからの入国者の方が、メキシコよりも多かった。メキシコ系の入国は1970年代から増え始め、80年代から急速に拡大した。アメリカの移民システムの対応は緩やかだった。入国ゲートは比較的開いていたといえる。ピークは2000年で、75万人以上が入国した。
Source: The Economist 24th November 2012
減少した移民の仕事
2000年はアメリカの失業率は約4%だったが、今では8%台である。これは最近のメキシコの2倍の水準である。アメリカの建築業はひどく不振であり、庭園業も需要が減少している。強制送還は厳しくなり、年間30万人近くになっている。
メキシコのティフアナとサンディエゴを結ぶ経路は、これまでボーダーコントロールが間に合わないくらい多数の越境者が通過したが、今は閑散としている。
最近では国境を不法越境する人たちの”人気の地点”は、アリゾナ砂漠に移っている。ここは最短でも越境に徒歩72時間を要する難路である。日中は酷熱の砂漠、毒蛇やコヨーテなどが出没し、夜は急速に気温が下がり酷寒の地となる。多くの人が途中で命を落とす。しかし、最近はメキシコの麻薬ギャングの暴力の方が怖い。メキシコの人権委員会によると、毎年およそ2万人がメキシコ国境まで北上の途上で誘拐されたり、死亡するという。カルデロン大統領の6年間には,麻薬カルテルに関連しておよそ6万人が死亡したという。
メキシコ人の間でも、豊かな人たちはメキシコ側ではアタモロス、モンテレーなど、アメリカ側ではサンディエゴ付近に移住するようになった。コロニーが生まれている。
北からメキシコへ戻る人たちは、女性が多い。アメリカで子供を産み、育てて、しばらくすると帰国を考える。ある40歳代の女性はプラスティック・リサイクル工場で週給250ドルで働いていた。メキシコに戻ると、$4.20の日給水準となる。アメリカに戻るために再入国することは難しくなっている。
今日、アメリカにいるメキシコ人から本国への外貨送金は、228億ドル、観光業収入を上回る。しかし、2007年の260億ドルを下回るようになった。
総じて、アメリカに住むメキシコ人はまずまずの暮らしをしている人たちが多くなったが、メキシコにいる人たちは、家族を含めて苦しい生活を送っている。オバマ大統領が改革に着手し、不法滞在移民が合法化されれば、彼らの地位は向上し、労働条件も改善されよう。メキシコの家族への送金も増加し、良い結果につながるだろう。
新年早々にオバマ大統領は、移民制度改革の具体化に着手すると思われる。共和党の対応も変わる。先が見えなかった道の前方にようやく光が見えてきた。
Reference
PBS November 27 2012
'This time, its different' The Economist 24th November 2012