私の映画玉手箱(番外編)なんということは無い日常日記

なんということは無い日常の備忘録とあわせ、好きな映画、韓国ドラマ、そして
ソン・スンホンの事等を暢気に書いていく予定。

ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男

2024-02-25 17:54:44 | 映画鑑賞

1963年8月28日、20万人以上が参加するも一人の逮捕者も出さず、マーティン・ルーサー・キングが「I Have a Dream」という演説を行い、アメリカにおける公民権運動の象徴となったワシントン大行進の実現に尽力したバイヤード・ラスティン。

アフリカ系市民を中心に人種差別の撤廃を求め、「自由と仕事を」というシンプルなテーマを掲げ平和的なアピールを目指す。黒人の各種団体も求めるものは一緒でも、そこに至るまでの理念や手法が必ずしも一致するわけではない。準備期間が少ないなかでトラブルを最小限に抑え10万人という参加者を集める事で最大限のアピールを目指す。寄付集めから移動手段、宿泊手段の調整。銃を使用せずに平和的な警備を目指す為の訓練。調整する事は山ほどある。出されたアイデアを精査し、実行に移し、トラブルがあればそれを潰して前に進む。

乗り越えなければならない差別が一つではない事が映画の中で描かれる。登壇者に女性が居ない事への疑問と不満。そして同性愛者であることを隠していなかったバイヤードに対する「イベントを推進する資格があるのか?」という心無い誹謗中傷。差別そのものに解消すべき優先順位のような物が生まれているのだ。

バイヤード達も自らの事をニグロと称していた時代から60年が過ぎた今、この映画を観て、差別についてどのように行動すればいいのか考える。差別に対する認識は大きく変わってきているとは思うが、差別そのものが細分化し複雑化しているようにも思えるのだ。


ニモーナ

2024-02-24 20:27:45 | 映画鑑賞

いつか王国にやって来るであろうモンスターに対抗するために、苦しい訓練を克服したのちに王国を守る騎士になる若者達。選ばれし騎士たちは出自もキチンをした者達なのだが、そんな中で持たざる者でありながらも資質を見込まれ、騎士になる事を許されたバリスター。しかし、国王より剣を授けられる式典で起きた事件によりバリスターは一瞬にしてすべてを失い、お尋ね者になってしまうのだ。

そんなお尋ね者のバリスターにシンパシーを感じ、自分と一緒に行動を共にしよう!と明るく誘ってきたのは破天荒でどんな姿にも変身することが可能なニモーナという少女。バリスターを助け出す為にありとあらゆる姿に形を変えて、何でも破壊しまくる。姿形が変わる事を隠しもせず、悪びれた所は一つもない。濡れ衣を晴らしたいバリスターの意に反した事しかしない彼女を見て、彼女こそ自分が戦わねばならないモンスターなのでは・・・・と悩む彼だが、彼女と行動を共にするうちに自分が信じて来たものを改めて見つめなおすようになるのだ。

中世と近未来が合体したような王国。王国の騎士と城は中世の雰囲気たっぷりだが、その戦い方はどこかSFチック。そして登場人物たちの動きは軽やかで絵柄は温かく愛らしいので、シンプルに少女と青年の冒険物と楽しむ事も出来る。

ただ、バリスターが信じて来た物の裏側を見つめるようになり、更にニモーナが破天荒な破壊屋になってしまった心の動きが少しずつ語られるストーリーは、見える物が全てではないことを教えてくれる。

「自分と違う者に剣を向けるものが英雄になるんだ」というニモーナの言葉。破壊屋の彼女が口にする言葉にはハッとするような重みがある。

 


ミス・アメリカーナ

2024-02-23 20:27:56 | 映画鑑賞

テイラー・スウィフトが13歳の頃の日記を手にしながら「良い人と思われる為に頑張って来た」という話から始まるNetflixによる彼女のドキュメンタリー映画。

私はカントリー歌手だった彼女がいつの間にかカントリーという枠を飛び越えて行った事、シンプルだけれども、一度聴いたら耳に残るメロディが多い彼女の歌は、私でも口ずさめるので有難い位の印象しかもっていなかった。

前半はそんなキャッチーなメロディの数々(ME!の印象的なメロディ等・・・)がどんな風に生まれたのか、それをアルバムのプロデューサーがどんな風に称賛しているのかが見られたりして楽しかったのだが、後半は一転、彼女が自らの思いを様々に表そうとしている姿が多くみられる。

常に新しく、常に前作よりもクオリティの高い作品を作る事が望まれ、その壁を破る為にたゆまぬ努力を重ね成功を収めたしても、女性歌手が年齢を重ねれば表舞台から立ち去る運命にある事はまだ現実である事。証人もあり証拠もあるセクハラ裁判でも厳しい追及が女性に向けられる事。弱い立場の者を守るべき法案が通らず、正しい権利が認められない場面が多々ある事。

それらの事を一つずつ自分の言葉で語り、彼女をサポートするチームメンバーがコンサートの動員数が減る事を危惧する中でも、自分の信じる正しい事をするべきだと、政治的発言をする事を決意する姿。

私は彼女が政治的立場を表明した事で選挙登録人数が増えたという事を簡単にニュースで見聞きしただけだったので、その裏での葛藤の数々とその真剣さに正直驚いた。「アメリカはキチンと歌手も自分の信念を口にするんですね~」などと言うコメンテーターの軽めのコメント等簡単に信じてはいけないのだ。

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映画は2020年に配信が開始されたものだが、先日東京ドームで行われたThe Eras Tour終了後プライベートジェットで向かったスーパーボウルの場でも、「何か政治的は発言をするのでは?」とニュースになっていた。彼女への関心と共に彼女の歩みも現在進行形である事が判る。


ナイアド ~その決意は海を越える~

2024-02-22 20:53:04 | 映画鑑賞

60歳を超え、人生の終わりが遠くに見えてくるも、「まだ出来る事はある。やり残した事をやる気力があるうちにやり遂げたい事がある」と、成し遂げる事が出来なかったキューバ~フロリダ間の164キロを泳ぎ切る事を目標に掲げるダイアナ・ナイアド。

スポーツ選手ではあったものの、水泳の知識のない友人のボニーをコーチとして迎え、無理と思われる挑戦に果敢に立ち向かうダイアナ。

自分にはそれを達成するだけの力があり、それを証明したいと、自分の信念だけで周りを回りを巻き込む凄いパワー。

やり遂げたい事を見つけた彼女の人生は幸せでもあり、でも辛いものでもあると思う。
出来ないのではなくやらないだけと思うその精神は眩しいものがあるが、周りがそれを受け入れられない事を理解出来ない事、自分自身が壊れる事も厭わず挑戦する事を諦める事が出来ない事は、ある意味辛く苦しい人生でもある。

諦めない精神は称えられるものではあるが、出来ない事を認められずに常に何かを渇望するその思いは、達成できなかった時の喪失感の事を考えると、乗り越えられない程大きいはずだからだ。

しかし、そんな周りを見ない彼女の不遜な行動も丁寧に見つめ、サポートメンバーがいてこその挑戦という様子をきっちり描く。
金銭的な報酬はなく、ただ達成したいという思いから挑戦し続ける姿はスポーツの真骨頂ともいえるものなのだろう。ダイアナの思いと周りにいるサポートメンバーのプロらしい姿に、人生の大切な物はなんなのかを考える。

ダイアナの挑戦を横でサポートするボニーを演じるのはジョディ・フォスター。
ダイアナ・ナイアドの挑戦を描いた映画でもあるが、それを横で支えるボニーの人生を描いた映画でもある。ボニーの姿がダイアナと同じように眩しい。


バッドランド・ハンターズ

2024-02-01 21:48:42 | 映画鑑賞

未曾有の災害が起こり、辛うじて残ったマンションに生き延びた人達が水を求めて集まるも、逆にその環境が生き地獄のような様相を呈する。

残った人々は治安のよい場所に点在し、なんとか残った食材で生き残りを図るものの、そこに「お子さんがいらっしゃる家族はいい環境の場所にお連れします」と突然現れるNPO団体的な人々。
祖母と暮らす少女は、家族のように過ごす二人の男性も一緒に移住することを望むも、その団体のメンバーは家族で移住することに、更には若い子どもがいる事にこだわるのだ。

災害が起こり、イ・ビョンホン演じる男性を中心にコミュニティーを作って生き残るも、その中のヒエラルキーが少しずつ崩壊していくコンクリート・ユートピアとあまりにも似た設定で驚く。

コンクリート・ユートピアは、住民たちがなんの力も持っていなかったはずの男性をリーダーとして崇める事で少しずつ恐ろしい帝国が出来ていく様を描いていたが、この映画も同じような道を進んでいく。人は集団で生きる為にこの方法を自然に選ぶんだろうか。

それだけに飽き足らず、不死身の力を得るために、医学の力を使って帝国を作り出す医師が崇められる様は、やや展開に突っ込みどころがあるものの、この映画のポイントは、それに対抗するのがマ・ドンソク演じるハンターであることだ。

プロットはコンクリート・ユートピアよりもやや弱い感じだが、マ・ドンソクの見た目の説得力がすごい。怖くて乱暴だが、絶対に信じられる。そんな雰囲気が立っているだけで感じられる。この映画の一番大切なポイントだ。


第96回アカデミー賞ノミネート「君たちはどう生きるか」「PERFECT DAYS」

2024-01-25 21:59:25 | 映画鑑賞

第96回アカデミー賞最多ノミネートは「オッペンハイマー」

日本でハリウッド映画をよく見る年代は50代以上との事。私ももちろんその中の一人なので、ノミネート作品には興味がある。

今回は、長編アニメーション賞に「君たちはどう生きるか」、視覚効果賞に「ゴジラ-1.0」、国際長編映画賞に「PERFECT DAYS」がノミネート。

「君たちはどう生きるか」は「君たちはどう生きるか」というタイトルを「あなたはどんな風にこの映画を楽しみますか?」という風に頭の中で変換して楽しんだ映画。ネット上ではもう少し辛辣な意味合いを含めてタイトル変換をしている人の意見も多数あったようだが、私は「好きに見ていいんだ!」と自由に判断し、逆にとても楽しかった。

君たちはどう生きるかを見た時の感想 

一度で飽き足らずもう一度書いた君たちはどう生きるかの感想

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窓を開けても寒くもなく、暑くもなく、トイレ掃除の水も冷たくなく、一番いい季節に穏やかに生活する平山の姿を静かに追う映画PERFECT DAYSは、主人公平山の生きて来た人生を見ながら考えるのが楽しかった。

同じようにロケ地の選択の決め手を色々考えながら見るのも楽しかった。どのシーンにも、そこを選んだ意味があるんだと納得できるものばかりだったからだ。

PERFECT DAYSを見た時の感想

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ニュース的に一番の話題は、視覚効果賞に「ゴジラ-1.0」がノミネートされていることなのだが、残念な事に私は未見。モノクロ版『ゴジラ-1.0/C』の上映が開始されたそうなので、もし時間が合えば見てみたいとは思っている。


20世紀のキミ

2024-01-22 21:36:26 | 映画鑑賞

1999年の韓国。街にはまだビデオショップがあり、高校生はポケベルを使って友達と連絡を取り合っていた時代だ。そんな時代に女子高生のボラは、病気の治療の為に海外へ向かう友人ヨンドゥの為に、彼女が好きな同級生の動向をメールで逐一報告することになるのだ。何から何まで報告しているうちにヨンドゥ憧れのヒョンジンやヒョンジンの友人のウノと仲良くなるボラ。

ヨンドゥも無事治療が終わり、4人の楽しいドキドキな高校生活が待っているはずだったのだが、ちょっとした行き違いから、それぞれの好きと言う思いが4人を切なくさせていくのだ。

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高校生時代の淡いやり取り、そして携帯ではなく、少し時間のタイムラグがあるポケベルやメールでやり取りする様子。若い頃を懐かしく思う気持ちと、1999年という時代を懐かしく思う気持ちで一杯になる。

高校生4人の若者らしい友達を思う気持ち、駆け引き等は一つもなく、自分が誰かを好きになるという気持ちが友人を傷つけてしまうのではと悩む様子。20年という時間が経っても、そのすべてがキラキラとしていて眩しい。

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映画の中で重要な役割を果たす@情事のビデオ。私はイ・ジョンジェファンの為、情事のDVDを持っているのだが「高校生にはあの内容は衝撃だろう」とそちらもなんだか感慨深い。

 


ゴールデンカムイ

2024-01-21 19:21:54 | 映画鑑賞

日露戦争で『不死身の杉元』と呼ばれるものの、上長との折り合いは悪く、終戦後は冬の北海道で砂金採掘で一攫千金を狙う杉元。そんな中、アイヌ民族の埋蔵金を横取りして隠し持つ輩の存在を聞いた杉元は、埋蔵金の在り処を明かす囚人の刺青を手に入れるべく、アイヌの女性と手を組み捜索をは始めるのだ。

埋蔵金を横取りした輩を父の敵と付け狙うアシㇼパと埋蔵金を手に入れる事を望む杉元。北海道の地で生き抜く術を知り抜いた彼女と、生き抜く事を疑わない杉元の執念。お互いに足りないところを補いつつ、2人で何倍もの力を生み出して北海道の雪原を疾走するも、日露戦争で負傷した頭部の傷を物ともせずに陸軍第7部隊を率いて戦争時代の恨みを晴らそうとする鶴見中尉、既に過去の人扱いされている土方歳三も埋蔵金探しに参戦してくる。

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私は漫画もアニメも未見だが、三者三様の事情を上手く交通整理し、彼らが埋蔵金を狙う目的を手際よく見せていく。それぞれ一癖も二癖もあるキャラクターを一目で分かるようにしているので混乱する事もないのだが、血で血を洗うような場面でも血の生臭さは案外感じられず、獣と対峙する場面でも獣臭さは最小限だ。おどろおどろしいようでありながら、案外そのあたりはクリーン。

それでも、怒りを抑えられずに常に狂気を見せる鶴見を嬉々として演じている玉木宏や、アイヌ民族の誇りを感じさせながら自然の中で生き抜く姿を見せるアシㇼパを演じる山田杏奈など熱量を感じる所もある。そして何より雪原の場面が綺麗なのだ。

ただ、2時間の映画でも、ストーリーはまだまだ序盤。単行本31巻のストーリーが最後まで映画で見られるかは、この映画、そして準備されているであろう次の映画のヒットにかかっているのだろう。

覚えたアイヌ語はオソマ。子どもだけでなく大人でも知らない言語は汚い言葉から覚えるのだ。

映画『ゴールデンカムイ』キャラPV〈鶴見篇〉【1月19日(金)公開ッ‼】

 


カラオケ行こ!

2024-01-14 18:47:58 | 映画鑑賞

年一度の組のカラオケ大会で負ける事が一番怖い若頭補佐@成田狂児が、難局打開に選んだのは、中学3年生の合唱部部長@岡聡実にカラオケボックスで個人授業を受ける事。

こんな解決方法を選ぶ事だけ見ても、「真面目なのか?ふざけているのか?」と疑いたくなるが、若頭補佐的には、大真面目も大真面目。そして相手が例え中学三年生であっても『歌の技術は俺より上』と、教えを乞う者としての礼儀を尽くすのだ。

組の中での上下関係はきっちり守り、師と仰いだ者には礼儀を尽くし、でも中学三年生の師ががカラオケで肘を付きながら食事をすることは許さない。ちょっと方向性が間違ってしまったきらいはあるものの、名前とは違って案外常識人でちゃんとしているのだ。

若頭補佐の申し出に怖気づいていたものの、一緒に過ごす時間が増えるにつれてその一生懸命さにほだされて、そっけない毒舌さの中に彼を助けようとする気持ちがちょいちょいみられるようになる中学三年生の心の動き。

力の入れ具合がちょっと間違っているものの優しい所がある若頭補佐と、年頃らしく色々と悩み多き中学三年生が、一緒にちょっと変わった青春を過ごしている感じがなんとも微笑ましいのだ。車の中のやり取りは恋人同士にも思えるし、年の離れた兄弟のようにも見え、美しいファンタジーだ。

見終わった後、「紅」が頭から離れない。

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ちょっとした小ネタがツボに入り、私は何度も声を出して笑いたかったのだが、周りが静かだったので我慢する。

狂児が運転する車のナンバープレートが、実際には存在しない「ん」なのは、何か意味があったんだろうか?ファンタジーだという事の証なのか・・・

映画『カラオケ行こ!』本予告(90秒)【2024年1月12日(金)公開】


カレとカノジョの確率

2024-01-13 20:19:40 | 映画鑑賞

父親の結婚パーティに出席するためにロンドンに向かうハドリーは、飛行機に乗り遅れた事で、偶然同じ便に乗る男性オリバーと知り合い、7時間弱のフライトを楽しく過ごす。

父の再婚に胸を痛め、父から貰った本の中の『失う事と、手に入らないのはどちらがいい?』という一文の意味を考えるハドリーと、数字と確率をキーワードに自己紹介をし、数字で人生を理解しようとるするオリバー。

文系女子と理系男子の出会いに沢山の偶然が少しずつ二人を後押しし、短い時間の中での決断が更に彼らの偶然の出会いを後押しするという、少女漫画的展開。ただ、少女漫画ならライバルの一人や二人出現するものだが、恋の始まりに長い時間は必要ないという勢いのある展開の為、恋敵が登場するチャンスもない。

当然悪い人が出てくる隙間もない。父は、飛行機の中で出会った男性を想い追いかけるという娘の行動を「勇気ある行動だ」と称え、ちょっとした感情の行き違いで彼女を傷つけたと思い悩むオリバーを彼の家族は温かく後押しするのだ。

最初から結末は分かっているという映画なのに、ハートウォーミングさがあるのは、台詞の一つ一つが自然だからだろう。

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流れる音楽も恋する女性向きだ。

ホイットニーヒューストンのI Wanna Dance With Somebody (Who Loves Me)が劇中とエンディングロールで、まったく違うアレンジで使われている。

劇中ではスローに・・・

I Wanna Dance With Somebody (Who Loves Me)

エンディングロールは明るい感じで

I Wanna Dance With Somebody (Who Loves Me)

 


コンクリート・ユートピア

2024-01-07 19:12:45 | 映画鑑賞

災害に襲われ、林立する高層マンションは次々に崩れ去り、以前とは全く違った姿を露呈する韓国の首都ソウル。

そんな中、奇跡的に倒れなかった皇宮マンションには近隣の住民が逃げ込み統制が取れない状況になる。緊急事態に対応すべく住民が集まった場で、看護師の妻ミョンファと住む公務員ミンソンの「緊急事態には指揮命令をキチンとすべき」という一言から、マンションの9階に住むという男性ヨンタクが住民代表に選ばれるのだ。

突然の火災を身を挺して鎮火させた事で一目置かれる存在となった彼は、多数決で決められないトラブルは自ら行動し、住民たちに食料や水を分け与える事で少しずつマンションの中で主導権を握りだすのだ。

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当初はどこか自信なさげだったヨンタクが、住民たちの感謝の言葉を聞き、あっという間にそのまなざしと表情が一変する所からストーリーが劇的に変化していく。ヨンタクの行動をさりげなくしかし確実に後押しする住民女性(演:キム・ソニョン)の存在も見逃せない。彼女のちょっとした声掛けや行動がヨンタクに自信を持たせ、その自信が「マンションの住民を守るべく行動する」という彼の行動すべてを肯定する流れになっていくのだ。平時なら違法行為とされることも、安全の為という免罪符の為、すべて容認されるようになるのだ。歯止めが無くなり次第に恐怖政治的な様相を帯びてくるヨンタクの行動。

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地震という言葉は出てこないものの、令和6年のお正月という今、地震被害を連想し突然の災害時にどのように行動しなければならないのかという事を考えざるを得ない。

ただソウルを襲った大災害の正体についてははっきりと語られていない為、その後は居場所を守るべく始まった争いについて強く考える事になる。同時に、自分の居場所が有る者が居場所のない人々に対してどのように対峙すべきなのか、居場所があれば起きなかった様々なトラブルの中で人はどのように行動すればいいのか、究極の選択を迫られる事について考える事になる。これは、ロシアの侵攻に苦しくウクライナの状況や、イスラエルとハマスの戦闘で住む場所を追われる人々姿を思い出す事になる。

イ・ビョンホン演じるヨンタクがマンション内の主導権を握っていく様子が恐ろしい程自然で、非常に狂気じみている。ヨンタク自身は、何も持っていないはずなのに、潮目にのって群集心理を操れた事で、どんどんと自信過剰になっていく様が一番恐ろしいとも言える。

 


枯れ葉

2024-01-01 20:18:33 | 映画鑑賞

住み込みの工事現場で仕事をするも、仕事中にも隠し持った酒を時々口にする男性。スーパーで品出しの仕事をする女性は、廃棄される食品を持ち帰ろうとした事をとがめられて職場を首になる。

男性は仕事中の飲酒を咎められ住む所を失っても酒を止めることが事が出来ず、スーパーを首になり電気代も払えない女性は食堂の皿洗いのバイトでその場しのぎをしようとするものの、その食堂は店長の不法行為で営業停止になってしまう。

そんな二人が偶然出会う。お互いの苦境は口にせずともなんとなく分かる。でも何かを感じて次に会う約束をする二人。しかし、不幸な偶然が重なりなかなか会えない。

女性が自宅で聴くラジオからはウクライナ戦争の戦況を伝えるニュースが流れる。ニュースには小さな苛立ちを見せ、酒を口にする事を止められない男性の行動を指摘する際にやや声を荒げるものの、それ以外は特に恨み言をつらつらと語る事もない。男性も一緒だ。酒を口にする事を止められないのは心の寂しさを埋める為なのだ。それを受け止め、多くは語らない。

男性も女性も、声高に苦境を叫ぶ事もなく、誰かを恨む事もない。セリフは最小限でも劇中に流れる音楽は、竹田の子守唄、セレナーデ、マンボ・イタリアーノと驚く程雄弁に、風に吹かれる枯れ葉のように漂う二人の気持ちを語ってくれる。

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次々と辛い事が起こるにも関わらず、画面が暗い感じにならないのは、色の力が大きいのだろう。

女性が一人住む家の壁は淡い水色で塗られ、ひじ掛けが少し破れているものの赤い色のソファーはそれだけで少し部屋を明るく見せる。


シング・フォー・クリスマス

2023-12-25 21:09:13 | 映画鑑賞

ニュージャージーのギフトショップで働きながらも、ブロードウェイで成功することを夢見てオーディションに挑戦し続ける女性。

手ごたえをつかみながらも、「歌も演技もいいが、役柄的には年齢が・・・」「いいんだけれど、もっと小柄な人がいい」と自分ではコントロール出来ない理由で、あと一歩を踏み出せない彼女が偶然出会ったのは、CMソングの作曲家。夢に向かって進む二人の未来がリンクするのかどうか・・・というストーリーがクリスマスの雰囲気と段々と高まっていく中で進んでいく。

彼女の歌と彼の作った曲が町おこしにも一役買い、更に登場人物の誰もが幸せオーラを感じさせるというこの上なくハッピーな設定。

肩も凝らず、軽やかにクリスマスの夜を楽しめる。

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I'm Glad It's Christmas Montage featuring "Snowbells" by Jessica Lowndes


PERFECT DAYS

2023-12-22 22:30:00 | 映画鑑賞

役所広司演じる公衆トイレ清掃員の平山。朝暗いうちに東京の押上の古いアパートを軽自動車で出発し、渋谷界隈の公衆トイレの掃除に向かう。渋谷らしい洒落たトイレの数々を丁寧に掃除し、夕方には銭湯の暖簾をくぐり、脱衣所でゆっくりしながらテレビの相撲中継を見る。押上から渋谷へ、渋谷から押上へ・・・移動の車中に流れるのは彼が長年聞いてきたカセットテープの音楽。

窓を開ける音、畳の上を歩く彼の足音、畳んだ布団の上に置かれるそばがら枕の音、車に乗り込む前に自販機で購入する缶コーヒーが転がり落ちてくる音。アパートの中での日常を彩るのは、平山の生活音の数々。

静かな生活音で彩られる朝晩の様子、カセットテープの音楽で彩られる日中の移動の様子。大きな出来事がなくとも静と動が繰り返される日常から、一人の男性の営みが伝わってくる。

そして判で押したような毎日を淡々と過ごす平山ゆえ、ちょっとしたさざ波が引き起こす彼の感情の動きがより大きな波に感じられる。

若い同僚のだらしない行動にも意見しない平山の懐の深さは、どこから来るのだろう。

ちょっとした感情の動きをみせつつ、それらを飲み込み、いつものように日々を過ごす平山という男の横顔を見ながら、彼の歩いて来た人生を想像してみる。


あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。

2023-12-15 22:19:38 | 映画鑑賞

母と暮らす女子高生の百合は、学校にも今の生活にもはっきりしない不安と不満を感じ、自分でもその不安をコントロール出来ずにいる。そんな初夏のある日、家を飛び出した彼女は、突然昭和20年の6月にタイムスリップ。

状況が分からずに混乱している彼女を助けたのは、特攻隊員として出撃する日を待つ彰。彼女の不安そうな様子を見ると、詳細は尋ねずに彼女を自分たちが世話になっている食堂に案内し、食堂の女主人に彼女を託すのだ。

タイムスリップの理由は深く語られない。彰も彼女の出自は詳しく追及しようとはせず、「出撃しても勝つ可能性はない」という現代の若者らしいその物言いを批判もせずに「妹に似ている」と言い、百合が一面に咲く丘を彼女に見せて「君は素直だ」と頭を撫ぜる。不安の中出撃を待っているその仲間の特攻隊員達も、突然現れた食堂の看板娘として彼女の存在をあっという間に受け入れるのだ。(水上恒司演じる彰同様、松坂慶子演じる食堂の女主人も百合を温かく受け入れる。彼女の存在がタイムスリップというファンタジーを血の通ったストーリーにしてくれている)

特攻隊の隊員同士も会ってすぐに一生の友人だと言い合う。出撃まで残された時間が少ない彼らにとって逡巡したり、若者らしい駆け引きしたりという時間などないのだ。心の奥底の葛藤は薄っすら見えるものの、それについては必要以上に後追いはせず、青春時代の1ページは、驚く程綺麗に描かれえるのだ。

特攻隊メンバーのムードメーカー役を演じる伊藤健太郎も、笑顔を絶やす事がないのだが、その笑顔の下に隠した苦しさも静かに伝わってくる。綺麗に描かれた青春の1ページにどんな辛い思いがあったのかは、観ている側が考えなければならないんだろう・・・

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金曜の午後に鑑賞。劇場内は学校帰りと思われる制服姿の女子高生が8割程度。彼女たちは劇場内が明るくなってもすぐに席を立とうとはせずに「誰が一番泣いていた」などと映画の余韻に浸っている風だった。私は原作がSNSで話題だったことも帰宅後に知ったので、劇場内の様子にちょっと驚く。