私の映画玉手箱(番外編)なんということは無い日常日記

なんということは無い日常の備忘録とあわせ、好きな映画、韓国ドラマ、そして
ソン・スンホンの事等を暢気に書いていく予定。

シング・フォー・クリスマス

2023-12-25 21:09:13 | 映画鑑賞

ニュージャージーのギフトショップで働きながらも、ブロードウェイで成功することを夢見てオーディションに挑戦し続ける女性。

手ごたえをつかみながらも、「歌も演技もいいが、役柄的には年齢が・・・」「いいんだけれど、もっと小柄な人がいい」と自分ではコントロール出来ない理由で、あと一歩を踏み出せない彼女が偶然出会ったのは、CMソングの作曲家。夢に向かって進む二人の未来がリンクするのかどうか・・・というストーリーがクリスマスの雰囲気と段々と高まっていく中で進んでいく。

彼女の歌と彼の作った曲が町おこしにも一役買い、更に登場人物の誰もが幸せオーラを感じさせるというこの上なくハッピーな設定。

肩も凝らず、軽やかにクリスマスの夜を楽しめる。

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I'm Glad It's Christmas Montage featuring "Snowbells" by Jessica Lowndes


PERFECT DAYS

2023-12-22 22:30:00 | 映画鑑賞

役所広司演じる公衆トイレ清掃員の平山。朝暗いうちに東京の押上の古いアパートを軽自動車で出発し、渋谷界隈の公衆トイレの掃除に向かう。渋谷らしい洒落たトイレの数々を丁寧に掃除し、夕方には銭湯の暖簾をくぐり、脱衣所でゆっくりしながらテレビの相撲中継を見る。押上から渋谷へ、渋谷から押上へ・・・移動の車中に流れるのは彼が長年聞いてきたカセットテープの音楽。

窓を開ける音、畳の上を歩く彼の足音、畳んだ布団の上に置かれるそばがら枕の音、車に乗り込む前に自販機で購入する缶コーヒーが転がり落ちてくる音。アパートの中での日常を彩るのは、平山の生活音の数々。

静かな生活音で彩られる朝晩の様子、カセットテープの音楽で彩られる日中の移動の様子。大きな出来事がなくとも静と動が繰り返される日常から、一人の男性の営みが伝わってくる。

そして判で押したような毎日を淡々と過ごす平山ゆえ、ちょっとしたさざ波が引き起こす彼の感情の動きがより大きな波に感じられる。

若い同僚のだらしない行動にも意見しない平山の懐の深さは、どこから来るのだろう。

ちょっとした感情の動きをみせつつ、それらを飲み込み、いつものように日々を過ごす平山という男の横顔を見ながら、彼の歩いて来た人生を想像してみる。


あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。

2023-12-15 22:19:38 | 映画鑑賞

母と暮らす女子高生の百合は、学校にも今の生活にもはっきりしない不安と不満を感じ、自分でもその不安をコントロール出来ずにいる。そんな初夏のある日、家を飛び出した彼女は、突然昭和20年の6月にタイムスリップ。

状況が分からずに混乱している彼女を助けたのは、特攻隊員として出撃する日を待つ彰。彼女の不安そうな様子を見ると、詳細は尋ねずに彼女を自分たちが世話になっている食堂に案内し、食堂の女主人に彼女を託すのだ。

タイムスリップの理由は深く語られない。彰も彼女の出自は詳しく追及しようとはせず、「出撃しても勝つ可能性はない」という現代の若者らしいその物言いを批判もせずに「妹に似ている」と言い、百合が一面に咲く丘を彼女に見せて「君は素直だ」と頭を撫ぜる。不安の中出撃を待っているその仲間の特攻隊員達も、突然現れた食堂の看板娘として彼女の存在をあっという間に受け入れるのだ。(水上恒司演じる彰同様、松坂慶子演じる食堂の女主人も百合を温かく受け入れる。彼女の存在がタイムスリップというファンタジーを血の通ったストーリーにしてくれている)

特攻隊の隊員同士も会ってすぐに一生の友人だと言い合う。出撃まで残された時間が少ない彼らにとって逡巡したり、若者らしい駆け引きしたりという時間などないのだ。心の奥底の葛藤は薄っすら見えるものの、それについては必要以上に後追いはせず、青春時代の1ページは、驚く程綺麗に描かれえるのだ。

特攻隊メンバーのムードメーカー役を演じる伊藤健太郎も、笑顔を絶やす事がないのだが、その笑顔の下に隠した苦しさも静かに伝わってくる。綺麗に描かれた青春の1ページにどんな辛い思いがあったのかは、観ている側が考えなければならないんだろう・・・

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金曜の午後に鑑賞。劇場内は学校帰りと思われる制服姿の女子高生が8割程度。彼女たちは劇場内が明るくなってもすぐに席を立とうとはせずに「誰が一番泣いていた」などと映画の余韻に浸っている風だった。私は原作がSNSで話題だったことも帰宅後に知ったので、劇場内の様子にちょっと驚く。

 

 


ウォンカとチョコレート工場のはじまり

2023-12-10 19:43:01 | 映画鑑賞

「世界一のチョコレートの店をつくる」という亡き母との約束を守る為に、12枚の硬貨を持ってチョコレートの町にやって来たウォンカ。

夢見る青年がどんな風にして旅立ったか、硬貨があっという間に無くなっても夢いっぱいの青年が、夢見る事を禁じられたチョコレートの町でどんな風に夢を実現しようとするのか。華やかな踊りと軽やかなリズムで、彼がどんな風に夢に近づき、困難を乗り越えようとするのかが、一曲毎にテンポ良く描かれる。諦めないポジティブさと明るさが画面からストレートに伝わってくる。その綺麗な色使いに心躍り、明るい気持ちで満たされる。

ホテルの女支配人に騙されても、チョコレート作りを独占する三人組になんとかして対抗しようとする姿も、憎しみや苦悩に彩られたものではなく、若さゆえの悩みのように思えてしまうのは、ウォンカを演じるティモシー・シャラメの初々しい感じが画面から溢れているせいだろう。

とにかく、歌も踊りもその初々しさがまぶしいのだ。その初々しさが映画全体を明るく温かいものにしている。シニカルな部分はウォンカを恨み彼にちょっとしたいたずら(嫌がらせか・・・)をするヒュー・グラント演じるウンパルンパに任せて、彼は自分の夢だけを追い続ける心優しい青年に徹しているのだ。

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私はジョニー・デップのチョコレート工場の秘密は未見。予告編のジョニー・デップのやや毒気のある雰囲気に気圧されてしまったからなのだが、それ故、今回は新鮮な気持ちでウォンカを演じるティモシー・シャラメの姿を楽しむ。

追記

昨日はシャラメの初々しさと書いたが、それだけではちょっと言葉が足らなかったと思う。彼から感じられるエイジレス、ジェンダーレスな自由な雰囲気が、画面に自由な想像力の風を吹かしている。

 


バッド・デイ・ドライブ

2023-12-02 20:35:00 | 映画鑑賞

ベルリンで、富裕層の顧客から多額の資金を預かり運用を手掛けるマット。ジムでの早朝トレーニングの間でもビジネスの打ち合わせを欠かさず、流ちょうなセールストークで顧客が資金を引き揚げようとするのを阻止する。妻や子ども達との間はうまくいっているとは思えないが、彼にとってはビジネスが好調であることが一番の重要事項なのだ。

そんな彼の一日は、「車に爆弾を仕掛けた」という1本の電話で、最悪の1日に様変わりする。

フライト・ゲームでは飛行機に乗った保安官、トレイン・ミッションでは電車の中で謎のミッションを持ち掛けられる元警察官。密室の中で謎を解きつつ闘う男を演じてきたリーアム・ニーソンに与えられた新しい密室は所有している新しい高級車の中だ。

裕福なビジネスマンと言っても、特別なスキルなど持ち合わせていない男が、息子と娘を乗せた車を走らせるしかない状況に追い込まれる。手がかりは犯人が掛けてくる電話だけだ。目の前で簡単に爆破され燃え上る車に、シートから離れれば爆発するという犯人からの通話はただの脅しではない事を悟るも、手がかりも逃げ出す術もない。

子ども達に疎まれる存在だった父親が子ども達を守る為に電話を駆使して情報を得ようとし、爆破を避ける為にアクセルを踏み続ける。逡巡する余裕はなく、犯人の指示の元、ベルリンの街を駆け抜ける間に自分が爆破に関係する容疑者になっている事を知っても、車から降りることもかなわない。

これらすべてが91分という時間の中にギュッと盛り込まれているのだ。緊張感が途切れる事はない。

 

 


大名倒産

2023-11-30 21:30:57 | 映画鑑賞

「父親の作る鮭が一番美味しい」と鮭役人の父を尊敬し、ごくごく普通の青年が、突然、大名の跡継ぎだったと出生の秘密を明かされ、あっという間に小さい藩のお殿様になるものの、小さな藩は、借金にあえぐ今にも難破しそうな沈没船だったのだ。

主人公はらんまんの神木隆之介、その主人公の幼馴染はおちょやんの杉咲花、そして主人公の母親はあさが来たの宮崎あおい。さわやかなNHKの朝の香りがするメンバーによる大名家復活物語だ。

このメンバーが揃っているのだ。何か悪だくみがあっても、そこまで悲惨にならない事はよくわかる。悪役はいても、性根の腐った奴ではなく、お金と自分の事しか考えていないスケールの小さい悪人だ。

借金返済策と倹約策はいつの時代にも通じる方法で、割と地道で実直な方法。映画のどこを切り取っても可愛らしい笑顔が出てきそうな、健全で明るい借金返済物語だ。

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香港から日本に帰る機内で鑑賞。

 

【追記】2023.12.3

最近、フィルムコミッションという言葉を耳にするようになった。各地で映画やテレビドラマのロケ誘致が行われており、撮影地の手配に協力する公的組織がフィルムコミッションとの事。ファンがゆかりの地を訪ねる「聖地巡礼」や「ロケツーリズム」が地元を潤すからで、この作品のロケ地は村上市。

 


1秒先の彼

2023-11-28 21:12:33 | 映画鑑賞

映画の舞台は京都。

郵便局の窓口係として働くハジメは、いつでもちょっとだけ人より前のめりで、窓口係になったのも配達していた際にスピードを出し過ぎていたからだ。

ちょっとした勘違いも微妙なフライングによる前のめりのせいなのだが、その勘違いも周りを困惑させるほどでもなく、愛すべき前のめり。ただ、自分ではそれを分かっておらず、どこかフラストレーションをためているのだ。

そんな彼に起きたのは、1日がどこかに行ってしまうという不思議な出来事。その1日が1秒先を行く彼の目線と、毎日郵便局に切手を買いに来る女性レイカの目線で語られる。

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見終わった後、静かな京都に行きたくなり、静かな1日を過ごしたくなる。ハジメを演じる岡田将生の空回り気味の前のめり感が何とも絶妙だ。

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香港に行く飛行機の中で鑑賞

 

 


クレイジークルーズ

2023-11-27 21:20:50 | 映画鑑賞

エーゲ海に向かう豪華客船の中で起こる殺人事件に、仕事に忠実なバトラーとあれやこれやあって船に乗り込む事になった女性がタッグを組んで謎に立ち向かうという、一種の密室ミステリー。

かつてのトレンディドラマに通じる軽めで明るめのトーンが全体に流れ、舞台になっている船と同じ位にとんでもなく豪華な出演陣が、非常に軽めなトーンで入れ代わり立ち代わり出て来て、小さめなトラブルや諍いを起こす。

そもそもバトラーと女性も、本当の探偵ではないため、一生懸命さはあるものの、ミステリー度合いはそれなり。バトラー役の吉沢亮は、国宝級イケメンなのにそれを全面に押し出す圧も少なく、どこかフワッとした雰囲気もあり、自宅でゆっくり見るのにピッタリの内容を華やかなものにしている。

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長谷川初範と安田顕のキャスティングがなんとも絶妙。

 

 


サタデー・フィクション

2023-11-11 20:57:09 | 映画鑑賞

元恋人だった演出家の舞台に出演するために上海にやってくる女優。警察に拘留されている元夫救済の為のカモフラージュなのかそれとも別の目的があるのかも定かではない。慌ただしく「蘭心大劇場」で行われる練習に顔を出し、宿泊先の「キャセイ・ホテル」に滞在する彼女。

太平洋戦争開戦前、女優が出演する舞台の準備を中心に、1941年12月の上海の1週間の様子がモノクロ映像で描かれる。

よりを戻したい演出家、舞台に出ていても、時々どこか心ここにあらずの様子を見せる女優、その女優に突然取り入ろうとするファンの女性、そして彼女を歓待しながらも、何故か彼女の通話をすべて盗聴するホテルの支配人。

何度も繰り返される舞台練習の様子を流れるようにカメラが追いかける。舞台上から舞台裏へ場面転換する場所からまた別の場面にカメラは止まる事なくその様子を映し続ける。何度も見ているうちに舞台の様子を撮影するドキュメンタリー映画を観ているような気分にもなり、また舞台で上映される劇そのものが映画のストーリーであるような錯覚にもとらわれる。(劇中で気の主人公の設定は横光利一の小説「上海」に登場する女性闘士との事)

魔都と呼ばれ欧米中日各国の諜報部員が暗躍する上海の英仏租界は、誰もが何かを演じているようでもある。皆それぞれがそれぞれのミッションに従って行動するものの、お互いはそれぞれのミッションを知らないため、偶然が邪魔をし、段取りが変わり、一つの偶然が又別のトラブルを生み出すのだ。多くの必然と多くの偶然が何重にも絡まり、大きな流れは止まる事なく、止められる事なく、1941年12月7日に繋がっていく様子が描かれている。

誰もが何かのミッションの為に覚悟を持って行動している、大人な映画だ。

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新宿武蔵野館で鑑賞。

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監督のロウ・イエは友人であるホン・インの小説から女スパイの物語を脚色して映画を作ったとの事。

天安門事件の時代を題材にした映画で映画製作禁止を命じられたロウ・イエだが、2012年以降の映画は中国国内で好悪会されているとの事。


ドミノ

2023-11-04 20:21:58 | 映画鑑賞

ベン・アフレック演じる刑事は、白昼の公園で娘が誘拐されたショックから抜け出せないでいるものの、タレコミがあった銀行強盗の現場に同僚と向かう。同僚が止めるのも聞かずに現場に向かった彼は、貸金庫に姿を消した娘の写真が預けられているのを見つけるのだ。

その現場に突然現れたスーツを着た男。その男と言葉を交わした女性は道の真ん中に飛び出し、彼に銃を向けた警官たちは突然その銃口を自分たちに向ける。短い言葉を交わしただけで相手を操るその怪しい男は突然ビルの屋上から姿を消す。

刑事は、その男の正体を知るという怪しい謎の占い師の女性と行動を共にすることで、更なるカオスな世界に突入していくことになるのだ。

ウィリアム・フィクナー演じる短い言葉で相手を操る男の怪しさが、先の読めないストーリー展開をグイグイ引っ張る。ベン・アフレック演じる刑事は、娘を誘拐されたショックから抜けきれない中で、目の前の出来事が現実なのかコントロールされている仮想現実なのか分からないカオスに突き落とされる。

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私は謎解きを早々に諦めて、ベン・アフレック演じる刑事が騙されるのと一緒に自分も騙される事を選択。無理に謎を推測したりすると、真実が見えて来た時の驚きが減り、楽しさが半減してしまう。上映時間は94分。緊張感が途切れない時間の中で、一緒に騙された方が何倍も楽しめる。

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原題はHypnotic。観終わった後にはHypnotic(催眠)というタイトルに納得はするものの、動きのあるドミノというタイトルを付けた配給会社意図もなんとなく分かる。

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ジャッキー・アール・ヘイリーが出演している事を知らなかったので、私にとってはそれが嬉しいサプライズでもあった。


極限境界線 救出までの18日間

2023-10-28 21:04:25 | 映画鑑賞

アフガニスタンの砂漠、バスで移動中の韓国人23名がタリバンに拉致される。タリバンの要求は韓国軍の撤退と刑務所に収監されている同数の同胞の釈放。23人はタリバンの交渉の駒として拉致されたのだ。

交渉の為アフガンに派遣される外交官のチョンは早速収監されているタリバン釈放の同意をアフガン政府から取り付けるものの、公式発表されたのは同意内容とはかけ離れたもの。結果的に韓国側はタリバンとの交渉が未来永劫続くアフガン政府にいいようにあしらわれたのだ。

国家情報院の現地メンバーであるパクも韓国人23名の釈放に尽力すべく動きだす。交渉は相手が何を考えているか、相手の懐に入り、相手のメリットデメリットを見極めるべきだと、いわゆる現場主義を信条にしているパク。

外交の基本に則り、23名が無事に釈放される事を第一に考える外交官のチョンは、時に国民よりも国家を優先する方針に、更には後先を考えずに行動するパウにも翻弄される。

関係者全員にとって人質の全員救出が至上命題になるべきなのだが、それぞれの立場の違いから交渉は一筋縄ではいかない。人質の釈放がゴールではなく、その後の駆け引きも見据えた交渉が必要になる為に現場も混乱し、指揮命令権も混乱する。

オリジナルタイトルは@交渉。

正に交渉にあたる際の駆け引きと何が交渉で一番大事なのか、刻一刻と変わる状況を見極めながら時に覚悟を決めた判断が必要になっていくるのだ。そんなストーリーの中で、ファン・ジョンミン演じる外交官のチョンとヒョンビン演じる国家情報院の現地メンバーであるパクが立場の違いを乗り越えてバディになっていく様子や、現地語を操るカン・ギヨン演じる通訳のどこか飄々とした雰囲気。この3人の様子が人質の釈放というテーマにエンタメ性を注入している。

しかし、観ている側には、国家間レベルで考える対テロリスト対策の難しさ(いわゆるタリバンを相手にしての交渉の際の正解がどこなのか)がちょっと判り辛い。この交渉のリスキーさが更に際立って分かれば、それと合わせてエンタメ性ももっと際立ったのではないかと思う。

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交渉が上手くいきそうに思われたが、韓国内のテレビ番組で情報がリークされた事により交渉が決裂してしまう場面がある。情報管理の難しさと報道の在り方を考えさせられる場面だ。

 


イコライザー THE FINAL

2023-10-09 18:48:00 | 映画鑑賞

元CIAという身分を隠し、修行僧のような生活をしながらも、助けが必要な者のためには自分の力を惜しげ無く遣う男マッコールが、舞台をアメリカからイタリアに移して再び帰って来た。

シチリアのワイン農場で怪我を負った彼は、アマルフィ海岸の小さな街で助けられる。コーヒー文化のイタリアでも紅茶を飲む習慣を崩さない彼を受け入れてくれる街の人々。理不尽な出来事を目にすると、助けが必要な者のために自分の力を惜しげ無く遣う。自分なりの方法で人と関わり、そして自分なりの方法で誰かを助けていた彼が、助けられ、そして街の人に受け入れられる。静かな怒りで一瞬にして悪を抹消するマッコール本人に訪れた穏やかな時間。

しかし、安寧な時間は長く続かず。恐喝及び強要、みかじめ料だけでなく、地上げで利益を上げようとするマフィアの振舞いで海辺の街は不穏な空気に包まれるのだ。

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彼がイタリア・マフィアの情報を流す相手は、かつて自分が所属していたCIAの捜査官。何故彼がその女性捜査官を選んだのか。それにも彼なりの信念があるのだ。信念がある男の生きざまは、それがたとえ不器用であっても、胸を熱くするものあり。

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監督アントン・フークァがイコライザーの最後の舞台に選んだのはイタリアのアマルフィ海岸。キラキラと輝く風光明媚な街として描く事も出来たのに、落ち着いた色調で美しい街で静かに暮らす人々とマッコールとの様子を丹念に描いている。その様子がきっちりと描かれているからこそ、彼の静かな怒りが見ている方にもしっかり伝わってくる。

 

 


ハント

2023-10-08 19:46:03 | 映画鑑賞

1983年の全斗煥軍事政権下、安全企画部(旧KCIA)に所属する海外次長パク(演:イ・ジョンジェ)と国内次長キム(演:チョン・ウソン)。大統領を狙ったテロをきっかけに組織の中に入り込んでいる北のスパイ「トンニム」を探し出す事に注力する安全企画部だが、部内は決して一枚岩ではない。お互いの命令系統の違い、組織内での権力争いなどから部内でも盗聴が日常茶飯事のような中で、スパイを探し出す事は困難を極める。

北をアカと呼ぶ韓国内でも、捜査には圧倒的な制圧を目指す暴力的な体質が暗い影を落とす。力でねじ伏せようとする圧力の元、疑心暗鬼の中で生死をかけて駆け引きが行われる。

ワシントンDCでの大統領退陣を要求する韓国系移民によるデモ、東京の街中での情報提供者を巡る銃撃戦、ソウルの大統領府前での大きな混乱・・・エンタメの要素を感じさせつつ激しい銃撃戦の中でも、イデオロギーの違いから起こる緊迫したやり取りが執拗に続く。

警察官出身の国内次長キムの脳裏に、制圧に関わった光州事件での様子が何度もよぎる姿が描かれる。暴力の元で事実は曲げられ、人の命は非常に軽く扱われる。実態がないはずのイデオロギーが暴力と連携を取ると、とてつもないエネルギーを持ちそれを止める事は簡単には出来ないのだ。

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イ・ジョンジェが脚本、監督を務め、盟友であるチョン・ウソンとのダブル主演だ。チョン・ウソンが格好良く撮られているのは勿論、イ・ジョンジェ本人もキチンと格好良くスクリーンに映っている。

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イ・ソンミンとファン・ジョンミンは友情出演。韓国バージョンのチラシには「大統領を除去せよ」と書かれており、チョン・ヘジン、ホ・ソンテ、コ・ユンジョンの姿も入っている。


沈黙の艦隊

2023-10-01 18:42:47 | 映画鑑賞

海江田が艦長を務める海上自衛隊の潜水艦が米国の原潜に衝突し消息を絶つが、それは彼らを秘密裡に建造した高性能原潜のシーバックに乗務させるために政府が計画した作戦だった。しかし、海江田は何故か突然反乱を起こし、独立戦闘国家「やまと」の建国を宣言。政府は事態収束を協議するものの彼の真意を測りかねる。そんな中、海上自衛隊の任務としてシーバックの動きを追うのは深町が艦長を務める海上自衛隊の潜水艦@たつなみ。

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漫画がモーニングに掲載されていた際に話題になった事は覚えていたが、漫画もアニメも未見。キャスト達が映画の宣伝として各種テレビ番組で話していた内容程度の事前情報で映画を鑑賞。

「自らの国をどのように守るか?」というのはいつの時代、どこの国でも至上命題のはず。雑誌掲載時でも、2023年の今でもそれは変わる事はないはず。ただ、日本の場合は、過去の経緯から周りの環境に左右されたり、それを声高に議論することがなかなか難しい物である事は誰もが感じている事だろう。

本編が始まる前のタイトルは、大きくも無く、圧もないとてもひっそりとした字体だった。しかし唐突なエンディングでのタイトルはそれとは全く逆のものだった。これからが本番ですよという意志表示がひしひしと感じられる物だった。

ああ、これは壮大な前振りだったのだな・・・とある意味納得。

私としては、「なんで本題に入らない前にエンディング?」という思いより、「(多分続編もあることとは思うが・・・)これらに付随する問題は、じっくり自分自身で考えてください」という事なんだろうと、前向きに受け取る。

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私は大沢たかお演じる海江田のライバルだと思われる深町を演じる玉木宏を見たくて映画を鑑賞したので、やや軽めの感想だ。


ルー、パリで生まれた猫

2023-09-30 21:01:57 | 映画鑑賞

両親の不仲に心を痛める少女クレムは、屋根裏で見つけた子猫にルーと名前を付け、その子猫と暮らす事で笑顔を取り戻す。小さなルーを可愛がり、家に居る間はひと時もルーから目を離すことなく暮らす彼女。

別荘に行くにもルーを連れていく家族だが、森に迷い込んだルーが戻ってこない事でストーリーは全く別の方向に進んでいく。ただ猫を可愛がるだけの毎日から、動物が人間と一緒に暮らすということ、動物が動物として生きていくということに向き合う映画になっていくのだ。

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階段を一人で上り下りするのもおぼつかないような子猫の姿から、少しずつ意志を持って家族に接し、クレムや家族の中でのびのびと暮らすルーの様子を非常にそばから見つめる前半。その一挙手一投足、その動く姿は猫好きにはたまらない時間だ。

そして雰囲気が変わる後半。私の家は昭和の時代に猫を放し飼いで飼っていたので、後半の葛藤を少しではあるが分かるような気がした。

学校の前に捨てられていた目も開いたばかりの子猫を拾ってきて飼う事になった。自力でミルクも飲めないような小さかった猫が運よく大きくなり、自分でご飯も食べられるようになり、家の中でノンビリ過ごし、飽きると外に出て自宅の周りをパトロールし、余所の猫と縄張り争いし怪我を負い、時にはすずめを殺めてその成果を見せに家に戻って来る。

ただ小さかった頃の可愛らしく動くぬいぐるみのような姿から、大きくなり生物らしい姿を見せるようになる様子をそばで見ていた。その姿は家の中だけで飼っていたなら見る事のない姿だったと思う。

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映画は、子猫が猫になっていく姿を厳しくも温かい目で追いかける。生物と一緒に暮らすにはその生きざまに向き合わなければならないのだ。

『ルー、パリで生まれた猫』メイキング _猫たちの演技について動物トレーナーが語る【9/29(金)全国順次公開】