第一章ナチズムとは?から始まり、ヒトラーはいかにして権力を握ったのか?ドイツ人は熱狂的にナチ体制を支持していたのか?経済回復はナチスのおかげ?ナチスは労働者の味方だったのか?手厚い家族支援?先進的な環境保護対策?健康帝国ナチス?というナチスが行いもしかしたら「良い事なのでは?と思われる出来事が、一つずつ「事実」「解釈」「意見」という三つの層を経て説明されている。
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私にとっては、この本の一番大事な部分は、章立てにはいっていない『はじめに』と『おわりに』だった。
『はじめに』では、自分の画期的な意見を述べたいがために、「事実」「解釈」「意見」という三つの層を経るという基本を守らずに事実を見てすぐに意見を述べるという短絡的な考えの陥る罠の危うさに警鐘を鳴らし、『おわりに』では、行き過ぎたポリティカルコレクトネスの弊害から、ナチスを絶対悪としてきた事に反旗を翻したく、ナチスの体制そのものに対する深い考察もなく、自由に物を言いたいという欲望がハマる落とし穴を簡潔にまとめてくれている。
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自由な意見を持つことは必要だが、自分勝手な思い込みは物事を正しく見る邪魔をするという事だろう。
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この本を読みながら以前読んだミステリー「ベルリンに堕ちる闇」を思い出す。ミステリーではあるが、ドイツがナチ党に投票した事でどのような事になっていったのかが手に取るように分かる歴史ミステリーだ。ナチ党は子供たちへの教育現場までも支配し、子どもと親たちの間に分断が生まれる。ヒトラー達を見掛け倒しの道化師と思っていたはずなのに気づいた時はもう取り返しのつかない所に行ってしまった事実。偏見や差別のコントロールによって自分達の生活が疑心暗鬼になりそこから抜け出す道がないさま・・・
この本を読んだ人にお薦めしたいミステリーだ。