ユーラシアグループが、恒例のTOP RISKS 2025を発表した。
全リスクとも、トランプリスクと言っても良いほど、トランプ塗れの2025年バージョンだが、
末尾に、各国への影響が収録されていているので、今回は、そのうちの 日本への影響(View implications for Japan )について触れてみたい。
この項を要約すると、ほぼ、次のとおり。
まず、冒頭、現代の日本に とって孤立は選択肢とはならず、国際貿易は日本の経済の生命線だ。米国なしでは日本 の安全保障が危機にさらされる。リスク回避の傾向が強い日本社会ではあるが、地政学上 のリスクを巧みに管理する必要がある。として、
今年は日本の外交 手腕が試される年になるだろう。トランプ次期大統領や中 国の習近平(終身)国家主席のような強引な世界の指導者たちに対応しなければならな い。また、貿易摩擦、インフレ圧力、不安定な円相場の悪影響にも対処し なければならない。と説く。
米国に関連して、二つの重大なリスクがある。トランプ関税は、特に日本から輸入する自 動車が標的となった場合、日本経済に打撃を与える可能性がある。またトランプノミクス が米国のインフレを再燃させれば、日本の消費者物価、金融政策、円相場に混乱を招く可 能性がある。また日本にとって、「米中決裂」も深刻な懸念材料だ。中国と米 国は日本の最大の貿易相手国であり、米国と中国の関係が悪化すれば日本も巻き添えを食 う可能性が高い。と言う。
米国は日本にとって最も重要なパートナーで、これほど緊密な関係にある国は他にな く、その米国への依存こそが、リスクNo. 4「トランプノミクス」を2025年の日本 にとっての最大のリスクとする理由だ。貿易に関してトランプを動かすものは二つ、関税への愛と、貿易赤字への憎悪だが、米国の対日貿易赤字は長年にわたり年700 億ドル前後で推移し、赤字のほとんどは日本からの自動車輸入が原因だ。この対日貿易赤字もトランプの 貿易ターゲットのリストに載る。
しかし、トランプノミクスは日本にとって関税リスク以上のものをもたらす。日本の 消費者物価、金融政策、円相場も影響を受ける可能性がある。トランプの政策が米国 のインフレを再燃させて円安が進み、日本のインフレ率上昇につながる場合、日銀の 金融政策正常化の計画に影響を及ぼすことになる。
リスクNo. 2「トランプの支配」のリスクは米国でビジネスを行う日本企業だけでなく、石破茂首 相にも重くのしかかる。 次期大統 領による恣意的な決定、例えば在日米軍駐留経費負担の大幅な増額要求などから石破 を守るものではないが、石破にはトランプに対していくつかの切り札がある。日本は 米国への海外直接投資額で5年連続トップであり、トランプはこの状態を維持したい と考えている。また、トランプの側近たちは、戦略上の最優先事項である中国への対 応を効果的に行うには日本の支援が必要であることをトランプに思い出させるだ ろう。
米国に次いで、日本に影響力があるのは中国だ。日本経済の健全性は中国経済に大き く依存しているため、リスクNo. 3 「米中決裂」が日本にとっての懸念事項のリ ストの上位となる。トランプが大統領に返り咲けば、中国との関係における脆弱な安 定は崩れるだろう。彼は就任後すぐに中国に対して大幅な関税を課す可能性が高い。 また、日本などの主要な同盟国や貿易相手国が、国家安全保障関連の対中輸出規制の 拡大で米国に同調することを期待しており、それは日本の経済に多大なコストを強い る可能性がある。さらに、米中関係の崩壊はグローバルなサプライチェーンを混乱さ せ、日本企業を含む世界中の企業は貿易の流れを再構築することを余儀なくされてコ ストが増加する。
リスクNo. 10「米国とメキシコの対立」は、移民、麻薬、貿易をめぐる米国とメキシ コの関係における火種に焦点を当てているが、日本との関連も大きい。トラ ンプの最大の不満は、中国が米国への商品販売の裏口としてメキシコを利用している ことだ。日本の自動車メーカーは米国への輸出拠点としてメキシコで製造工場を運営 しており、この問題に巻き込まれるリスクがある。米国におけるメキシコからの輸入 品に対する関税引き上げや原産地規則の厳格化が行われれば、日本の自動車メーカー とサプライヤーに直接的な影響を与えることになる。
トランプをリーダーとする米国は、リスクNo.1「深まるGZERO世界の混迷」で述 べられているように、世界的なリーダーシップを発揮することを望まないだろう。日 本は、米国が長年担ってきた「世界の警察官」や「自由貿易の擁護者」という役割を 放棄することを望んでいない。これらの役割は、米国に何十年にもわたって平和と繁 栄をもたらしてきた。米国は日本が望むようなリーダーシップの行使には抵抗するだ ろう。米国は依然として、敵対者たちよりも強い。中国はここ数十年で最悪の経済危機 に苦しんでおり、ロシアは深刻な衰退に陥り、イランは存亡の機にある。これらはす べて、チームUSAの一員である日本に有利に働く。
島国である日本は天然資源に恵まれず、エネルギーの輸入に依 存しているため常に危険にさらされている。この脆弱性のため、リ スクNo.5「ならず者国家のままのロシア」とNo.6「追い詰められたイラン」が日本 のエネルギー安全保障にとって重要なリスクとなる。日本は世界第2位のLNG輸入 国であり、G7による制裁があるにもかかわらず、依然としてLNGの9%をロシアか ら輸入しているが、政治的な現実によ り、日本はロシアのLNGへの依存を低下せざるを得なくなり、他の潜在的な供給源 (アラスカやカナダ西部など)を検討することになるだろう。
日本は原油も90%を中東から輸入しており、2024年の原油価格の低迷から恩恵を受 けている。米国とイランの対立が拡大し、原油価格が上昇する事態は望んでおらず、特に、イランが報復 として地域のエネルギーインフラを攻撃したり、ホルムズ海峡を封鎖したりした場合 にその懸念は高まる。
民放テレビで、日本としてどのようにトランプに対応すれば良いかと聞かれて、ブレマーは、悪目立ちしないようにして、単独行動を避けて同盟国などと連携して当たること、適当な妥協は必要だが、基本的に大切な事項は妥協すべきではないと答えていた。
確たる思想も哲学もないトランプの行き当たりばったりの政策に、真面に対応しておれば振り回されるだけであるから、目立った対応は避けて、流れに乗って、臨機応変に賢く立ち回れということであろうか。
トランプの2度目の大統領就任は、民主主義を窮地に追い込み、外交政策の混乱を招き国際秩序を破壊する。 そんな心配はないであろうか。
1 期目における絶え間ない衝突と予測不可能性が倍増し、米国の同盟関係に緊張をもたらし て弱体化させ、世界における米国の影響力や地位を低下させ、平和を促進してきた国際機関を弱体化させ、世界的な紛争 の可能性を高めるなど、長期的には、地政学的な不安定性を高め、Gゼ ロの世界を進行させ、世界をより危険な 場所にするだろう。とも予言する。
興味深いのは、 しかし序盤戦では、トランプが得点を重ねる可能性があるので注意すべきだ。という付言である。 行きはよいよい帰りは恐い、ことに大衆は気付かないかもしれない。