一般の幹線鉄道が長距離輸送から近郊輸送まで幅広く担っている日本とは違い、中国の鉄道はもともと長距離輸送偏重型で、ふつうの鈍行列車はもとより近郊輸送を行う短距離列車は元々非常に少なかったのですが、ここ10年ほどの間、線路容量を輸送力が逼迫しまくりの長距離急行・特急列車に振り向けようという政策やバス路線網の充実に伴い、ただでさえ少なかった鈍行や近距離通勤列車 (市郊列車) は激減してしまいました。切符を購入するときから列車で目的地に着いて駅を出るまでの全てが激しいバトルと言っても良い特急・急行列車の旅と比べ、鈍行、特に近距離列車のプチ旅は、押し合いへし合いとは無縁で、中国国鉄の魅力を短時間でじっくりと味わうには最適だ……と思っていたのですが、その機会が減って残念。(-_-)
ところが、ここ瀋陽は中国全体で見ても際だって鈍行の数が多いエリア! (時刻表をぱらぱらめくった印象によります) たぶん、戦前から満鉄がたくさん区間列車を走らせていて、その遺産ではないかと思うのですが……とにかくこうなれば、出張時に出来たヒマを使って乗ってみない手はありません (笑)。
そこで、数ある列車の中から選んだのが、瀋陽市街の西のハズレからさらに田園地帯を西に向かって走ったところにある「馬三家」という田舎の駅まで、約20kmの距離を毎日三往復している近距離列車です。特に、朝の1往復目であれば、瀋陽を7:15に出発して9:30に戻ってくることが出来、早起きして時間を有効に使うには最適です (^^)。
まずは片道2.5元 (38円くらい) の切符を発車寸前に (^^;) 購入し、満鉄時代以来の東京駅に良く似た駅舎からホームへ。目指す列車は瀋陽駅の一番西のホームに停車していました。「朝方、瀋陽の中心部から田舎に向かう列車だから、さぞかしガラガラだろう……」と期待していたところ、見てびっくり。何と、すでにほとんどの席は労働者風のオッチャンたちで埋まっていました……。そして、例によって猛烈な煙草の煙とトランプの叫声 (爆)。……う~む、実は沿線にある工場か何かに向かう通勤列車だったようです (汗)。そして……チンタラと走り始めて皇姑屯駅・大成駅でもさらに大量の乗客が! こ、これは一体……。
その真相は、瀋陽の街を完全に抜け出て、市街の外側を大回りする貨物線を跨いだあたりから明らかになりました。何と、途中3カ所のホームも何もない場所で停車し、そのつど客がワラワラと下車して行ったのです! その中でもダントツで下車客が多かったのが、↑のシーン……。ここは瀋陽西貨物ヤード&貨物用機関車基地の真横で、どうやらこの列車は国鉄職員の通勤列車だったのでした! 「利用する客は国鉄職員ともなれば、まあホームがなくっても良いか」という考えも出来ますが、しかしまあこの雰囲気は如何にも何事もテキトーな国・中国らしいひとこまです (^^;)。
そうこうしているうちに車内はすっかりガラ空きになり、超ノロノロ列車は45分のショート・トリップを終えて終点の馬三家に到着しました。ここでは機回しを含めて約50分停車。まずは列車のあれこれを撮ってから一旦改札の外に出て切符を買い直そう……と思いつつ、デジカメであれこれ撮っていたところ、「珍しいヤツがいる」ということで、列車員の皆様に呼び止められました。中国の客車には1両に1人ずつ車掌が乗っており、ドア扱いと車内清掃を行っているのですが、こんな近距離列車ではそうそうやることもなく、折り返し時間中は基本的にヒマなのです (^^;)。
「お前何やってんだ?」「あ、列車の写真を撮るのが好きなもんで……」
「へぇ~変わったヤツだな。そのカメラ、プロか?」「いえいえ、出張ついでにちょっと」
「出張かぁ。お前さんどこから来た?」「日本の東京です……(横浜と言っても知らない人多し)」
「へぇぇ~お前さん日本の華僑かぁ」「いえいえ華僑じゃなくて日本人なんですよ」
「日本人なのに中国語しゃべれるヤツがいるとはねぇ~。大したもんだ」
「いや~どうもどうも。ちょっと一旦外に出て切符を買い直したいんですけど」
「そんな必要ないって。車内で切符を売ってやるから、ちょっと世間話でもどうよ?」
……ということで、列車長のオバサマ以下、日焼けした列車員の皆様との硬座車内ひまつぶしトークが始まってしまいました (汗)。如何にも田舎臭そうな駅前を散歩してみたかったのですが……(^^;)。基本的な話題は、瀋陽の印象やら中国国鉄の印象、それに日本の鉄道事情に関するあれこれなどなどでしたが、話題がいつの間にか歴史問題になってしまうのは、まあ瀋陽といういろいろな意味で日本との結びつきが非常に強い土地柄もあって致し方ないですな。ともあれ、普段は何もしていないように見える列車長のオバサマも、実は年齢のアドバンテージで常ににらみを効かせていたり、一番真面目によく働くのは補充券と現金が入った大きなガマ口を持った40歳くらいの専務車掌だったりということが観察できて、なかなか面白かったです。
そんなこんなで、いつの間にか改札が始まり、今度は瀋陽へ買い物に行く地元の人で車内がいっぱいとなりました。そして9:30、列車は振り出しの瀋陽駅にゴールし、2時間少々の濃すぎるプチ旅は終了しました。
さて、瀋陽近辺では鈍行の数が多い……と書きましたが、瀋陽鉄路局では最近、通勤定期を持って鈍行に乗る客のかなりの割合がニセ定期を所持している事実をつきとめ、(1) 購入手続きの厳格化 (2) むこう2~3年で鈍行列車の数を大幅削減、という方針を打ち出しています。瀋陽駅には常にダークグリーンの客車が出入りし、気軽に鈍行の旅を楽しめる……そんな環境が遠くなってしまいそうなのは寂しいことですが (-_-)、まあこの馬三家行き列車は国鉄職員輸送がメインなので、多分なくなることはないかな?と予想しています。というわけで、かなりおすすめのこの列車ですが、やっぱり乗って撮る場合には↑のような展開もあり得ますので、中国語は出来た方が良いかも知れません (^^;