しばらく後回しになってしまいました秋の韓国シリーズ、通勤電車編として再開しようと思ったのですが、ここに来て軍事分界線を超えた定期貨物列車の運行が合意されたというニュースが飛び込んで来ましたので、急遽予定を変更しまして、北緯38度線へのふたつの旅をご紹介することにしたいと思います。
まずは、このたび貨物列車が正式に走ることになった京義線(ソウル〜北朝鮮の中朝国境・新義州[シニジュ]) の韓国側最北端・都羅山[ドラサン]への旅です。かつてはいわゆる日満支連絡ルートの要として機能していた京義線も、朝鮮戦争の激戦で長らく完全に寸断されておりましたが、韓国側は2001年に民間人統制線の手前・臨津江 [イムジンガン]まで、その翌年には破壊されていた臨津江の鉄橋を修復して非武装地帯の手前・都羅山まで開通させました。その後、事実上韓国が資金を提供して都羅山と北朝鮮側最初の都市・開城[ケソン]との間の線路を敷設し、早ければ2〜3年前に試運転が行われていたはずだったところ、北朝鮮側の事情で先延ばしとなり、ようやく去る5月に試運転が行われたのは記憶に新しいところです。
そこで今回のソウル訪問にあたっては、果たして今後本当に列車が走るのか半信半疑ながらも、いずれは鉄道趣味面でも必ずや注目が集まるであろう都羅山駅を訪れてみようと思ったのでした (04年に韓国を訪れた際には板門店の休戦会議場に行ってしまいましたので、今回は鉄モード全開です ^^;)。
今回のソウル滞在は地下鉄2号線沿線に宿をとっておりましたので、まずは京義線列車の起終点であるソウル駅ではなく、一つ西隣の新村[シンチョン]駅へ。新村一帯は、名門・延世大学や梨花女子大が集まり、渋谷や原宿のような雰囲気のエリアですが、地下鉄駅から国鉄駅まで10分ほど歩いて行きますと、新しい駅ビルも手持ちぶさたでガラーン状態 (^^;)。現在京義線は、臨津江の手前のムンサン (日本語フォントにない漢字なのでハングル読みで失礼 ^^;) まで電化・首都圏電鉄化工事が進行中で、その完成までは宝の持ち腐れでしょうか。
それはさておき、民間人統制線を越えて都羅山へ向かう場合には、臨津江駅で手続きのうえ1日3本のみの列車に乗らなければなりませんので、臨津江駅では最低限20〜30分の時間的余裕が必要です。そこで、半年前に神保町で買った時刻表を見ながら、臨津江で2時間の余裕をつくり民統線手前のいろいろなモニュメントを再訪しようか……と思いつつ、都羅山までの通勤列車(転クロDC) の切符を買おうとしたところ……出札口氏曰く「セマウルもありますよ。というか、セマウル利用が一番便利ですよ〜」と言いつつ、問答無用で都羅山までのセマウルの切符が出てきました (爆)。
そこで一瞬「ええ?? 時刻表に載ってるセマウルは臨津江止まりじゃん!」と思ったのですが、そこのところは韓国国鉄のダイヤが朝令暮改であることを十分わきまえていない私の浅はかさ (^^;)。都羅山への列車は、安保観光と南北共存の未来にふさわしい列車であるべき……という判断のためかどうかは分かりませんが、全て通勤列車DCからPPセマウルに変更となっておりまして、時刻及び臨津江での接続も大幅に変更されていました(本記事の末尾に時刻を掲載。これまで都羅山まで直通していた通勤列車は全て臨津江止まりとなっております)。
それはさておき、新村で9時前の通勤列車に乗るつもりが、9時半過ぎのセマウルとなってしまいましたので、その間は水色車両基地から続々と出庫して来る列車を撮影! (^^) しばらくしていると、監視モニタで私のことを「こやつ怪しい」と思った駅長氏がやって来たのですが (汗)、「今度のセマウルで都羅山に行くんですよぉ」の一言で無罪放免となったのでした (笑)。
さて、いよいよセマウル号が入線! 6両編成と言うことで他の路線の列車よりも短く、侘び寂び感が漂います。しかも、今や38度線を越えて北朝鮮側の金剛山へも観光旅行できるご時世だからでしょうか、都羅山への安保観光に行こうという韓国人は平日ということもあって非常に少なく、全ての客が3号車に集められ、しかも超ガラガラ (爆)。さっそくセマウルの椅子を思い切り倒しまして、「ふぅ〜、こんな列車で京義線を北上できるとは優雅よのぅ。いずれは平壌までの直通を目指す韓国政府のメンツに賭けて、ガラ空きなのにわざわざセマウルを走らせるのだろうか……」と思っているうちに、列車はとてもセマウルとは思えない鈍足で臨津江へと近づいて行きます。ムンサンまでは、最早北朝鮮との戦争はあり得ないという空想めいた前提でもあるのでしょうか、マンション建設ラッシュ状態。その一方、ムンサンに建設中の電車車両基地には、いざとなったら爆破して線路を塞ぐための巨大なコンクリート製ゲート(銃眼もあり)が姿を現していました (汗)。ムンサンを過ぎると、いよいよ線路の両側には駐屯地や爆破用ゲートの類が増え、緊張感が高まります。
臨津江では一旦下車して、パスポートを提示して安保観光の手続きを行います。都羅山駅オンリーと、展望台&南侵第三トンネル見学コースの2種類があり、後者は11,700ウォン也。その間、列車は一旦側線に引き上げまして、ソウル行の通勤列車の発車後ふたたび入線してきました (1枚目の画像)。そしていよいよ臨津江を渡り民間人統制線の中へ。朝鮮戦争で爆破された橋脚の跡が痛々しい限り……。
臨津江から都羅山までは距離的にはすぐで、貨物通関手続施設の建設現場が見えて来ると都羅山駅に到着です! 私は展望台&南侵トンネル見学ツアーに参加しましたので、駅見物&撮影は後回しとしたのですが、特に南侵第三トンネルは楽しませて (?) もらいました。まずは「統一号」なる、ジェットコースターのような形状のミニ列車に乗って地下深く300mほど下って行くのですが、素掘りの狭いトンネルを通過する数分間は何とも言えないスリルと緊張感があります。乗客は全員ヘルメットをかぶることになっているのですが、背が高い私などは、よくよく注意していないと頭がトンネルの天井に激突してしまいそうになりました (汗)。ミニ列車を下車したあとは、韓国憲兵の案内で南侵トンネルの本体を歩いて行くのですが、北朝鮮がバレた際に「炭鉱を掘っていた」と言い訳するために塗った黒い石炭カスは、北朝鮮という国家の本質を表しているようで何ともトホホな世界 (-_-;)。トンネルは、軍事分界線の手前170mまで進むことが出来、北の侵入を防ぐためのコンクリート壁が二重・三重に設けられている最前線で行き止まりとなっています……。いっぽう、展望台からの眺めは折からの大雨でロクなものではなかったのですが、非武装地帯を貫いて延びる鉄道と、非武装地帯の密林の奥に広がる北朝鮮側の丘陵を辛うじて見下ろすことができましたので、まあ良しとしましょう。
約1時間半の見学を終えて都羅山駅に戻ってきたあとは、土砂降りの中のセマウル撮影タイム! ふだんなら絶対にカメラを取り出したくないほどの雨でしたが、せっかくの機会である以上、レンズの防滴性能を信頼して撮りまくるしかありません (爆)。駅構内であれば、駅舎や車両とは逆の方向を向くのでなければ特に撮影制限はない……はずです (それでも憲兵には一声かけるのがベター。あと、展望台と南侵第三トンネルなど、都羅山周辺はほとんどの場所が撮影禁止ですのでご用心。まだ板門店の方が、撮影出来る場所が多いですが、それも一般韓国人は立入禁止だからだと思われます。日本人は何のかの言って第三国であるがゆえの特権を認められております)。
こんな感じで13:25発のセマウルに乗り、都羅山を後にしたのですが、南北鉄道輸送が軌道に乗り、中国からの直通列車がソウルに到達する日 (そして北朝鮮がまともな国に変わり、日本人も安心して北朝鮮を鉄路で旅行できる日) が来ること心待ちにしたいと思っております……。でも、果たしてそんな日が来るのかどうか、悲観的なのも否めません (汗)。そもそも、「12月11日に運行を開始する」なんていう話も、祝祭のデモンストレーション効果によって韓国大統領選挙に影響を与え、ノ大統領の後釜となる鄭東泳候補を当選させたいというノ&ジョンイルの思惑以外の何者でもないとしか思えませんし (苦笑)。
*京義線・都羅山観光用セマウル時刻表(07年秋)
【下り】
セマウル1071レ ソウル925→臨津江1035 (手続) 1105→都羅山1110
セマウル1073レ (臨津江までの連絡列車なし) 臨津江1140→都羅山1145
セマウル1075レ (ソウル1050発通勤列車利用) 臨津江1240→都羅山1245
【上り】
セマウル1072レ 都羅山1125→臨津江1130
セマウル1074レ 都羅山1225→臨津江1230
(以上、1071・1073レで都羅山駅見物オンリーの客が利用)
セマウル1076レ 都羅山1325→臨津江1330
(以上の列車利用客は臨津江からソウルまで通勤列車利用)
セマウル1078レ 都羅山1620→臨津江1627→ソウル1735
※セマウル1071・1078レは途中、新村・水色・幸信・一山・金村・ムンサンにも停車。都羅山に行かず、停車駅相互間の利用だけでも可(というか、それで辛うじて客を拾っても超ガラガラ ^^;)。
※都羅山訪問にあたっての事情はしばしば変わる可能性が大ですので、この記事で興味を持たれて訪問される方がおられるとしましても、あくまで現地で情報を確認されますようお願いします。当ブログでは事情の変更による損失に対して一切責任を負いません。