渋民、好摩、岩手川口と、北上川のそこそこ広い谷間を走ってジリジリと標高を上げてきたIGRの電車は、やがて両側から山が迫り谷も深くなるボトルネックに差しかかります。この一帯は、落葉樹に包まれた山肌に見事な松が混ざる非常に風光明媚なところで「奥の嵐山」と呼ばれており、実際に私も紅葉の季節に歩いてみると、天候不順ゆえ目の覚めるような紅葉とまでは行かなかったのは残念でしたが、まあ風流なひとときでした。ここを過ぎると沼宮内の盆地となり、徒歩1km少々でいわて沼宮内駅に着きますが、その直前に目の前の踏切が鳴り、晩秋色に包まれたS字カーブを行く沼宮内止まりの幕車と金太郎をゲット!
その後の奥州街道は、新幹線とIGRとの立体交差を過ぎると沼宮内の宿場に入り(駅からかなり離れていますので岩手県北バスが便利で、駅と営業所の間を走る短距離線があるほどです)、しばらく線路から離れますが、再び東北新幹線をくぐる前に線路と合流し、やがて北緯40度の看板を過ぎて御堂駅に着きます。この駅は無人かと思いきや、他のIGRのそこそこ乗降がある駅と同じく、朝7時台から12時台まで嘱託の駅員が配置され、盛岡に出る客の便宜を図っています(午後〜夜は盛岡方面から戻って来る地元客ばかりですので、運転士が先頭のドアで切符を集めれば全く問題がなく無人となります)。
そんな御堂駅、かつては奥中山越えの勾配がきつくなる手前にあり、待避用の中線を備える立派な駅ですが、今や停まる列車は2連のみ。晩秋の森に囲まれた駅に停まる新造車100番台を撮ったのち盛岡に戻り、翌朝の旧中山峠越えに備えたのでした。
翌朝は、まず御堂駅で硬券入場券をゲットしたのち、しばらくIGRに沿って国道4号線を進むのですが、旧道との追分にさしかかる手前で、線路の勾配がいきなり(目視でも露骨に分かるほど)キツくなる地点が現れます。嗚呼……ここが、古来奥中山越えのSL機関士・機関助手を最も泣かせた魔の地点! 十分にスピードが出ず、やたらと負荷が重く、補機との呼吸が合っていなければ、ここでたちまち失速して空転の嵐となり、御堂まで逆戻り、または大幅な遅延で奥中山を越えることがしばしばであったとか……。そんな激闘の記録をどこかで読んだのを思い出しつつ、旧中山峠の高原を越えたのでした。
奥の嵐山界隈をゆく金太郎。
御堂〜奥中山高原間の、突然勾配がきつくなる魔のスポット。
線路から離れ、北海道のような高原の中を進む。
奥州街道最高地点(約490m)から望む岩手山。
旧中山峠界隈の風景。
谷底の十三本木峠からは時折、金太郎の絶叫が聞こえます。
熊がいつ現れてもおかしくない森が広がります。
小繋駅の南東にある谷あいの廃村を行く。
IGRの線路に出て来ました。列車はしばらく来ないものと思い、これだけ撮って先を急ぎました。まさか、カシオペア貸切が20分後に来るとも知らずに……。