時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

グローバル化に取り残された子供たち

2005年11月22日 | グローバル化の断面

  フランスの「郊外」暴動はようやく沈静化したようだ。フランス政府も事の重大さに気づき、いくつかの対策を打ち出した。しかし、これらの対応がなんらかの目に見えた効果を生むまでには相当な時間がかかるだろう。他方、極東の国日本ではマスコミなどの受け取り方も、文字通り「対岸の火事」としか見ていないようだ。日本の若者や地域荒廃の問題と、決して無関係とは思えないのだが、メディアはほとんど通り一遍の言及しかしていない。

映画の伝える若者像
  NHKの「クローズアップ現代」(2005年10月21日)は、この点に応えようとしたのか、今年のカンヌ映画祭で(1999年の「ロゼッタ」Rosetta に続き)作品「ある子供」 L'Enfantで、二回目の「黄金の樹」賞 European Palme d'Or を受賞したベルギー人映画監督ジャン・ピエール、リュック・ダルデンヌ兄弟 Jean-Pierre and Luc Dardenne とキャスターの国谷裕子さんのインタビューを構成していた。

    フランスの暴動の根底にあるものは、若者の仕事の機会がないことにあるという視角である。短い時間に編集したのだから、そうした理解についてあえて異論はとなえない。番組では、この兄弟監督の二つの映画から、社会から排除された若者、将来に希望が見出せない若者の姿を映し出す。ひとつは教育や資格のない者は雇用しないというグローバル・資本主義的競争にさらされ、見捨てられたように、ほとんどなすすべのない若者の姿である。監督が生まれ育ったベルギー南部、鉄工業
の町、スランを舞台としている。

社会の底辺に生きる若者
    スランの失業率は26%という高率である。仕事にありつけない若者は、アルコールや麻薬に依存して過ごす。映画はこうした社会の底辺に生きる若者の姿を映し出す。ベルギー・ワッフルの下ごしらえという仕事をしながら、他人を裏切っても仕事をとるという希望のない若者を描く。

    他方、カンヌ映画祭で受賞した「ある子供」では、仕事がなく、20歳の青年が引ったくりを繰り返している姿、カップルだが生活に困り、自分の子供を売りに出す若い夫のイメージが映し出される。 監督は倫理的規範が失われ、荒廃した社会の底辺で漂っている子供たち、かろうじて毎日をしのいでいる子供たちを映像化したいようだ。

迫力に欠ける結論
  住む家さえなく、人間らしい感情さえ失っていた子供が、わずかな希望を見出し、再起する姿には救われるものがあるが、結論としてははなはだ弱い。こうした状況を生み出す問題の根源にもう一段踏み込むべきだった(番組の構成も焦点が定まらず、迫力に欠けた)。

    確かに、友達ができることで、自立できる若者もいるだろうが、それで現代社会が抱えているこの難題を解決できるとはとても思えない。より体系的・組織的取り組みが必要なことは、ほとんど明らかではないか。そこには家庭基盤、教育、地域、社会倫理など、多くの次元が包括されねばならないだろう。

  フランスの暴動を見ても、放火され、炎上した車の数は9千台強に達したが、幸い死傷者の数はこの規模の暴動にしては少なかった。暴動の対象が見えざる「社会の壁」に向けられ、政治家や警察などに直接向けられたものではなかったからだろう。この「社会の壁」の破壊のために、いかなることがなしうるかが、暴動が提起した課題である。

下北沢の若者との対話
    番組では、若者の街といわれる東京、下北沢を訪れた両監督と若者や親たちとの対話などから、孤独な若者に必要なのは出会いであり、人間は価値のある存在であり、ひとりぼっちではないことを説く。そして、今の若者には反逆心が足りない。不満を持っているだけでは駄目、世の中を変えねばならないとする。 別に反対するわけではないが、かなり短絡的な結論と感じないわけには行かない。

  世の中はそれほど簡単に変えられるわけではない。「こんな世の中変えなければ」という熱い思いは必要であるし、若者にかぎらず大人にも必要なものでもある。

  監督が思い浮かべる荒廃したベルギー、スランの若者と下北沢の若者では、かなり異なった次元もあるし、短時間の訪問では見えない部分もあるはずだ。
 
  ひとつの大切な点は、遠回りではあるが、大人たちが次の世代へしっかりと、熟練・技能、そしてモラルや芸術、人間としての行き方を確実に伝承させてゆくことだろう。そのために、家庭、学校、そして映画も大きな役割を果たすことを信じたい。

Reference
映画の背景については次のブログ参照
http://www.cineuropa.org/ffocusarticle.aspx?lang=en&treeID=1060&documentID=54683

http://cinema.translocal.jp/2005-09.html#2005-09-01_1

コメント (2)
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