*スペインの海岸に着いた密航者(AP)
TV映像などがいくらフランスの郊外の惨状を報じたとしても、アフリカなど開発途上国の人々にとっては、ヨーロッパなどの先進国は別世界のように豊かな地に見える。スペイン、ポルトガル、フランスなどのヨーロッパ諸国が不法移民に閉鎖的な政策をとった後でも、密入国を企てる人々の流れは絶えない。
BS101が、2005年11月22日に放映した「決死の密航者たち~アフリカからヨーロッパへ」は、アフリカ、モロッコからスペインへの密航者の実態を生々しく伝えている。 イベリア半島から1800キロ離れた北大西洋に浮かぶスペイン領のカナリア諸島に向かう密航者である。
不明な実態
カナリア諸島の西端フエルテベントゥラ島には、毎日のようにアフリカ北部からの密航者をのせた木造船がたどりつく。 このブログでも度々とりあげているが、実際にどれだけの人が密航に成功したかはまったく不明である。他方、航海中に高波にさらわれり、ボートが沈没したりで目的を果たせず海岸に打ち上げられ、共同墓地などに埋葬される例も多い。
密航を企てた人たちは強制送還を恐れて、身元を確認できないようにしているため、ほとんど出身国などが不明なままである。 密航の途中で沿岸パトロールなどに発見され、送還される場合も多い。
この番組は、フランス公共放送の撮影チームがモロッコからのある密航者の一団に同行し、故郷から砂漠を経て、見知らぬ海岸から小さなボートでカナリア諸島につくまでの一部始終を撮影した貴重な記録である。
ヒューマン・トラフィッカーの暗躍
この映像を見て明らかなことは、密航を商売にする業者Human Trafficker が暗躍し、暴利をむさぼっていることだ。この場合は、アラブ人の密航業者が希望者を集め、トラックに非人間的な状態ですし詰めにし砂漠地帯を海岸まで搬送する。途上の警察を買収し、密航希望者からは1000ユーロ(14万円)を徴収する。その後も、途中で身の回り品を略奪し、砂漠を何日も走った上で、ぼろ舟を与えて放り出し、後は密航者の運にまかせている。
国際的には、こうしたトラフィッカーと呼ぶ人身売買の仲介業者には、厳しい対応をすべきであるとの合意があるが、現実にはとても対応できていない。 密航業者は事情を知っていて密航者に最後まで同行することはない。というのも、国際的に密航業者への罰則が強化されており、彼らも捕まれば10年の服役が課せられるめである。 モロッコ政府は、国外へのこうした流出阻止に最大限努力するとしているが、現実にどれだけのことをしているのかも不明である。概して、移民の送り出し国が出国規制をする例は少ない。
この映像が伝える場合も、最初は36人が同じ船で密航を企てるが、ボートが転覆し、残った者のうち10人は警察へ出頭し、モロッコからの強制退去の道を選んだ。そのため、実際にボートで密航を企てたのは25人であった。 モロッコからカナリア諸島まで、海上の距離で100キロ以上はある。岸から10キロのところで船外モーターが動かなくなり、スペイン沿岸パトロールに発見され、つかまっている。
密航者たちは、出身国が判明すれば強制送還される。密航者は収容キャンプでもアフリカより良い生活を送ることができるため、拘束状態でも極力、滞在を望む。スペインで1年間拘束された後、どこへ送られるのか。彼らの運命がどうなるのか、映像はなにも語っていない。
Reference
2005年 バンフテレビ映像祭 2005 モンテカルロテレビ映像祭 ゴールデンニンフ受賞
[原題] Clandestine Crossing of the Seas
[制作] France2/フランス/2004年
モロッコの状況を伝えるBBCニュース
http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/middle_east/1327945.stm