グッゲンハイム美術館内部
届いたばかりの『芸術新潮』(2007年9月)が、ニューヨークの美術館の特集をしていた。数ある美術館の中から15の美術館が取り上げられている。そのうちのいくつかは関心の違いもあって、訪れたことがないが、ほとんどはよく知っている場所で大変懐かしい。
なかでも強い印象が残っているのは、グッゲンハイム美術館である。メトロポリタンよりも先に、ニューヨークで最初に訪れた美術館であったこともあるが、なににもましてそのユニークな外観と内部の構造に衝撃を受けた。
今でこそ世界にはさまざまな斬新な美術館が生まれているので多少のことには驚かないが、60年代当時は展示室が同じ階に並列的に並んでいて、次の階の展示へ行くには階段を上り下りするという構造が見慣れた美術館のイメージであっただけに、この時受けた印象は大変強かった。
外観はなんと形容したらよいだろう。巨大な植木鉢のような、今ならば宇宙ステーションのようなといったらよいだろうか。周辺の建物を圧してきわめて斬新である。内部へ入るとまた驚かされた。中央に巨大な吹き抜けが天井部まであり、館内が大変明るい。柱がなく、建物を支える壁面部分に沿って緩やかなスロープが上方へ向かってらせん状に続いている。
観客はこのスロープの壁面に展示された作品をゆっくりと移動しながら鑑賞する仕組みである。つなぎ目のない展示であり、伝統的な美術館とは大きな違いである。
アメリカに行ったばかり、当時の日本ではなかなか接する機会がなかったカンディンスキー、シャガール、モディリアーニなどの作品が目の前にあり大変感動した。最初訪れた時、館内にはバックグラウンドでムソルグスキーの「展覧会の絵」がかなり大きく響いていた。もしかすると生のピアノ演奏だったかもしれない。そのこともあって、今でもこの曲を聴くと、グッゲンハイムのイメージが反射的に思い浮かぶほどだ。フランク・ロイド・ライトの名作ということも知って、かなり頻繁に訪れたお気に入りの場所となった。ニューヨークで書店巡りなどをする折に、度々立ち寄った。
グッゲンハイムの開館は1959年10月とのこと。施主のグッゲンハイムも、設計者のフランク・ロイド・ライトも完成を見ることができなかったようだ。今は老朽化が進み、外壁は大改装工事が行われているが、来年には再びあのユニークな外観を楽しむことができるようだ。
この時の印象は深く脳裏に刻まれており、後年開館したばかりの上海博物館(人民広場)を見たとき、すぐにこれはグッゲンハイムの影響を受けていると思ったほどだ。ちなみにこの博物館は外観は中国の祭器とされる鼎の形状を模しているが、内部はまったくグッゲンハイム型である。吹き抜けの部分にエスカレーターがあるが、内部の雰囲気はグッゲンハイムとほとんど同じイメージである。博物館の開館数日後に訪れたが、カンディンスキー特別展を開催していた。不思議な経験だった。
Solomon R. Guggenheim Museum 107 15th Avenue at 89 Street, New York, NY