このすごい存在感のある顔、残暑の厳しい折には少し暑苦しいかもしれませんね。いうまでもなく、ラ・トゥールの「昼の作品」シリーズの傑作「いかさま師」の主人公のアップである。(ちなみに、クラブのエースとダイヤのエースの2つの構図がある。この表紙は、キンベルのクラブの方である。)
西洋絵画史の上でも一度見たら忘れられない顔のひとつといわれる。確かに、これだけクローズアップしてみると、モナリザとはまったく異なるが、重量級の存在感がある。 この女性を題材に小説が書けそうな気がするほどだ。
それはさておき、今回はこの顔を表紙にとりあげたラ・トゥールの作品カタログをご紹介しよう。ボッシュ、ブリューゲル、カラヴァッジョ、ゴヤなどを含む Mâitres de l'Art シリーズの1冊で、著名なガリマール書店が発行元である。
ラ・トゥールの作品カタログに相当するものは、他にもここで紹介したPaulette Choné、Dominique Bréme その他があるが、exhibition catalogue や専門研究書以外では、これがお勧めの1冊である。フェルメールやレンブラントなどと比較して、日本語の紹介が少ないラ・トゥールであるが、日本語版も、2005年の東京、国立西洋美術館での特別展に合わせて刊行された。幸い、17世紀フランス美術史家として著名な大野芳材氏が翻訳の労をとられており、十分信頼しうる文献である。ちなみに特別展カタログのラ・トゥール解題「ロレーヌのラ・トゥールー画家を育んだ世界」も同氏が書かれている。
この作品カタログ、表紙はフランス語版と日本語版は異なる。冒頭に掲げたのはフランス語版である。しかし、それ以外の内容は同じである。「まえがき」をラ・トゥール研究の大御所ピエール・ローゼンベールが書き、解説を「ブルーノ・フェルテが担当している。いずれも、ジョルジュ・ド・ラ・トゥール研究では、知らない人はいない著名な専門家である。
カタログの作品解題は、比較的簡潔な叙述ではあるが、要点は十分尽くされており、ラ・トゥール愛好者にはお勧めである。 ガリマール版と日本語版を比較すると、作品の印刷品質はガリマール版に一日の長があるような印象を受けるが、手元において楽しい内容であることに変わりはない。作品の全体図と併せて随所にクローズアップが挿入されていて、鑑賞の手引きとしてふさわしい。
この女性のイアリングの石はなにだろうか、ネックレスはなにか、衣裳のデザインは、などと考えているだけでも暑さしのぎ?になるかもしれない。
Sommaire
9 PREFECE
Pierre Rosenberg
11 POUR UNE PRESENTATION GEORGES DE LA TOUR
Bruno Ferté
117 CATALOGUE DES CEUVRES
131 BIOGRAPHIE
132 BIBLIOGRAAPHIE SOMMAIRE
134 EXPOSITIONS
Pierre Rosenberg et Bruno Ferté GEORGES DE LA TOUR. PARIS: GALLIMARD, 1990, pp.135.
Pierre Rosenberg et Bruno Ferté (ピエール ローザンベール監修, ブルーノ フェルテ解説, 翻訳大野 芳材 ),『夜の画家 ジョルジュ・ド・ラ・トゥール 』(二玄社、2005年)