時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

新しい年へ力をもらう

2007年12月30日 | 雑記帳の欄外

  かつては送る方もひと仕事であったが、大きな楽しみでもあったクリスマスカードの数が激減してから10年近く経つだろうか。電子メールの普及が大きな理由だが、そればかりではない。世界中がそうしたことに時間を割く余裕を失ってしまったのだ。季節の賀詞からアドレスまですべて印刷されたカードに、せいぜいサインだけあるカードではダイレクト・メールとあまり変わらない。なんとか特別の感情を伝えようとすれば、一枚に要する時間もかなりのものになる。  

  こうした世の中の変化にもかかわらず、友人によっては、家族の動向などを「クリスマス・レター」などの名の下に知らせてくれることもある。これならば、同じ文章を印刷してカードに同封すればよいので、作業としては比較的楽ではある。最近は写真なども含めて、詳細な近況を知らせてくれる友人もある。手書きの温かみはないにしても、電子メールよりは印象も深く、はるかに親しみが伝わってくる。  

  今年のクリスマス・カードの中に、もう30年以上の付き合いになるカナダの友人からのものがあった。このブログでも記したことがある。この友人夫妻はすでに大学や病院などの職を退いて引退の身なのだが、まったく異なった分野ですばらしい仕事を続けている。夫は腰部に障害があり、すでに3回も大手術を受けて、歩行がほとんど困難だが、自宅そして地域の庭園や街路樹の充実に活躍している。今年は不自由な身体ながら、空路ロンドンへ行き、キューガーデンで1週間を過ごし、その成果を地域の美化のために活用したいと考えたようだ。手始めに町の公園の通りに、20年後に30メートル近くに成長するユリノキ(Liriondendron, tulip tree)の苗木を植樹したという。  

  さらに、驚いたことは、オンタリオの自宅から車で40分くらい離れた草原の中に建てられ、昨年まで祖母が住んでいた1世紀以上経った家屋をなんとか再生し、家族と地域の歴史的遺産として継承しようとの努力をしている。はるか遠くに美しい山並みが見えるだけで、360度、周囲には人家は見えない。どこが隣接地との区切りか分からないとのこと。「大草原の小さな家」である。草原の中の広大な林には、鹿、兎、穴熊、野生の七面鳥などもすんでいるという。この家族は今までこうした難事業をしっかりとこなしてきた。二人の息子と一人の娘は遠く離れた地に住んでいるが、休日などに戻ってきた時に、両親を助けて遠大な仕事を黙々とこなしているようだ。素晴らしいと思うのは、そこにいささかも気負った点がないことだ。さすがに父親は人力の限界を感じ、最近イタリア製のトラクターを購入したという。理想は、林の一部を花々と動物が楽しく共生する場
(フローラとファウナ)にしたいとのこと。

  すっかりひ弱になってしまったわれわれには想像がつかない仕事だ。ちなみにこの父親の祖父は、ロシアからの移民であった。厳しい開拓生活の中に育まれた強靭な精神力が彼らを支えているのだろうか。先が見えなくなったこの国の新年に向けて、少しばかり力を分けてもらった思いがした。 

コメント (4)
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