時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

インフルエンザが失業の原因?

2009年05月01日 | グローバル化の断面

 

 今年の大型連休は、新型インフルエンザの世界的拡大で、出ばなをくじかれた感がある。リスクの高い海外旅行には、
かなりブレーキがかかるだろう。大都市など人口密度の高い地域では、人混みをさける、商店を閉めるなどの動きも見られるようだ。世界的に人の移動が減少することはほとんど確かだ。

 今回のインフルエンザ発生前から、アメリカでは人の移動が停滞していることが指摘されていた。広大な大陸国家であるアメリカでは、仕事のある場所を求めて、人々は活発に移動を繰り返してきた。移動に伴い、住宅の売買も盛んに行われてきた。しかし、近年、持ち家と医療保険の普及が人の移動を減少させるようになってきたようだ。

 サブプライムローン問題が露呈するにつれて、住宅の買い手が少なくなった。住宅には抵当権が設定されていることが多く、円滑な取引を妨げるようになっていた。仕事の機会を求めて移動しようと思っても、住宅が売却できない。結果として移動ができず、雇用機会が失われた地域では、失業問題がさらに深刻化する現象が見られるようになっている。不況は国内移動を減少させたように見える。実際、アメリカでは2007年から2008年にかけて、住居を変えたのは全人口の11.9%だった。これは1940年代に記録がとられてから最低の水準とされている。

 移動はアメリカン・ドリームの一部を象徴していた。ダイナミックで柔軟な労働市場はアメリカの特徴であり、労働移動の研究は重要なトピックだった。スタインベックの「怒りの葡萄」に象徴的に描かれているが、人々はオクラホマの農場を離れて、家族を連れてカリフォルニアなど西を目指した。

 アメリカで移動の減少をもたらしているもうひとつの原因は、健康保険だ。アメリカには、国民の大多数をカヴァーする健康保険制度が存在しないため、労働者は自分が働いている企業をベースに保険に加入していることが多い。そのため、地域的移動に制約が加わり、かつてのように自由な移動ができなくなった。法的には、離職しても18ヶ月は以前に雇用されていた企業のプランを活用できるにもかかわらず、転職は難しくなっている。

 人の移動を減らすための出入国制限、国境閉鎖という究極の対策もすでに発動のタイミングを失したともいわれている。対応がもたついている間に、インフルエンザがパンデミック寸前にまで蔓延・拡大してしまった。多くの国で工場や商店の閉鎖などは、すでに実施されている。グローバル失業の原因のひとつがインフルエンザにあるとは、およそこれまで考えることはなかった。 失業がウイルスに起因するとは、なにか17世紀的ではある。戸口に逆さ箒を立てるか?

 ここまで書いた時、オーストラリアの友人からメールが入った。今年の秋に大きな国際会議を主催することになっている。ところが、グローバル不況で参加者が大幅に減り、加えてこのインフルエンザ禍でさらに減ることになりそうだという知らせだ。その結果は、大幅な参加費の値上げ。まさに踏んだり蹴ったり。政策対応にも、新しい視点が必要になっていることは確かなようだ。

 

Reference
"The road not taken"

The Economist Mar 19th 2009

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする