Bartolomeo Manfredi (attributed)(1582-1622)
Saint Jean-Baptiste
Debut du XVIIe siècle
Huile sur toile 148 x 114 cm inv.174
国立西洋美術館で開催中の『ルーブル展』に出展されている作品の中に、いくつか特別に興味を惹かれた作品があった(ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの「大工ヨセフ」そしてロレーヌ出身の画家クロード・ロランについては、すでに記した)。
気になる作品の中に、イタリアの画家バルメトロ・マンフレディの作品ではないかと推定されている『仔羊と洗礼者ヨハネ』(上掲)もあった。見るからにたくましく、健康的な若者と仔羊が対面する情景が描かれている。自然主義的な画調で、色彩も鮮やかだ。ヨハネとされる若者も、普通の人のように描かれ、特別の扱いをされているわけではない。このテーマと描き方は、17世紀カトリック宗教改革の流れの中で、教皇側が好んで推奨したものであった。
主題の源流は色々考えられるが、この作品の雰囲気から、ローマのカピトリーノ教会に伝わる同じ題材のカラヴァッジョ作品にたどり着くと見られてきた。そして、議論の余地はあるが、カラヴァッジョの手法を継承し優れた画家の一人に挙げられるバルトロメオ・マンフレディの手になるものとされてきた。
画面を圧する若者の姿は、はつらつとして真摯に描かれている。羊を見つめる容貌にも、純粋な雰囲気が充ちている。真剣なまなざしで羊と対する姿は率直で感動的だ。
他方、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの『砂漠の洗礼者ヨハネ』は、同じ主題を描きながら、その与える印象はきわめて異なっている。ヨハネは若者として描かれているが、マンフレディの作品と比較して、対照的ともいえるイメージだ。
ラ・トゥールのヨハネは、長い旅路に疲れ切った若者として描かれている。わずかに一本の杖にすがりながら、目の前にいる仔羊に草を与えている。若者は目を閉じ、なにかを想っているのだろうか。マンフレディの作品と比較すると、対照的ともいえる印象だ。使われている色彩も赤褐色系で最小限であり、不必要なものはなにも描かれていない。シンプルそのものだ。そこにはマンフレディのような明るいイタリアの太陽の光は射していない。一見すると、マンフレディの作品の方が率直に元気を与えてくれるようだ。
しかし、ラ・トゥールの描いた疲れきった若者を目を凝らして眺めていると、印象は次第に変わってくる。画面には、いいようのない不思議な光が射して、若者の半身を照らしている。画面全体を覆う赤褐色の色調も実はかなり異様だが、その光源も確定できない。周囲の状況から自然光とは思えない神秘的な光だ。
そして、この一見陰鬱ともいえる画面を見ていると、柔らかな安らぎを与えてくれる、力のようなものが伝わってくる。ジョルジュ・ド・ラ・トゥールという画家の計り知れない力量を改めて感じる。
ある日、ヴィック・シュル・セイユの小さな美術館で、誰もまわりにいない静かな空間に一人座り、この小さな絵を見ていた。パリや東京のような都会の美術館の人混みの中では十分に伝わってこないものが、そこにあった。次々と押し寄せる不安の種に疲れた現代の若い世代の人たちにぜひ見てほしい、簡素だが珠玉のような作品だ。
couverture
Georges de La Tour, Saint Jean-Baptiste dans le désert, Edition Serpenoise, Départment de la Moselle, 1995.
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『ルーヴル美術館展 ―― 17世紀ヨーロッパ絵画』
2009年2月28日―6月14日
国立西洋美術館