時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

フェルメール貸し出しは米蘭割り勘?

2009年09月21日 | 回想のアメリカ


  日本はフェルメールのファンが多い国だと思う。もしかすると、同じ17世紀オランダの世界的画家、レンブラントよりも知名度が高いかもしれない。しかし、両者の作品は、この国には一枚もない。それでも、フェルメールの作品の持つ集客力は大きく、この画家の作品が展示品に一点しか含まれていなくても、フェルメール展を掲げた企画展もあったほどだ。多分、フェルメールが今日生きていたら、仰天するほど多額な借り出し料が美術館などの作品保有者に支払われてきたことだろう。

 今から遡ること400年前、Halve Maen (Half Moon) という船名の一隻の小さな帆船が、現在のニューヨークの中心部であるマンハッタン島に着いた。大西洋の航海で、帆柱始め船体の損傷はひどく、見る影もなかったようだ。記録によると、時は1609年9月2日頃だったらしい。

 船長はヘンリー・ハドソン Henry Hudson というイギリス人だった。この男はかなりしたたかで、オランダ東インド会社から前金で仕事を請負っての冒険だった。アジアへ通じる航路を探る一攫千金の企てだった。オランダ側にもさまざまな思惑や利権が渦巻いていた。1609年の4月頃にオランダを出航し、新大陸へと向かった。船員は18人くらいで、イギリス人とオランダ人から成り、お互い言葉もよく通じなかったこともあって、きわめて荒んだ船内事情だったらしい。そして、船員たちは船長を大変嫌っていた。

 ヘンリー・ハドソンの前にも、ハドソン河口に到着したヨーロッパ人はいたが、航海の詳細経過を記録していたのはヘンリー・ハドソンだった。そして、今日、ニューヨーク、そしてアメリカを象徴する大河川の発見・探検者として、その名を残すことになった。
ヘンリー・ハドソンのハドソン川探検の概略については、このブログに少しだけ記したこともある。


Halve Maen (Half Moon) のレプリカ


 それから半世紀くらい後、オランダ、デルフトの無名の画家は、決して大きくはないアトリエで、主として室内の光景を細々と描いていた(ちなみにラ・トゥールはロレーヌの大画家としての晩年を過ごしていた時期だ)。フェルメールは作品は数少ないが、買ってくれる愛好家はいたようだ。しかし、画家の晩年は決して豊かなものではなかった。文字通り糊口をしのぐ日々であった。画家の死後も長い間、フェルメールの名も作品もほとんど忘れられていた。

 今月9月10日から11月29日まで、ハドソンの航海を記念して、ニューヨークのメトロポリタン美術館で、フェルメールの特別展が開催されている。オランダからも『牛乳を注ぐ女』(1660年頃)を始め、画家の名品が貸し出されている。

 『牛乳を注ぐ作品』にしても、少し前まで日本の企画展が借りだしていた。まさに東奔西走の人気作品だ。オランダの美術館にしてみれば貴重な外貨の稼ぎ手としてフェルメール様々だろう。今回はメトロポリタンとアムステルダム国立美術館の関係に留まらず、両国の歴史の関係からも、企画に力が入り、フェルメールを含むオランダ画家の作品36点近くが展示されている**

 このブログでもたびたび記してきたように、ニューヨークの美術館にはオランダの美術品が多数所蔵されている。なにしろ、ニューヨークは、ニュー・アムステルダムと呼ばれた時代からの縁で、「オランダ人が発見(建設)し、ユダヤ人が支配し、アメリカ人が住む」とのジョークがあるほど、オランダとのつながりは深い。今回もアムステルダム国立美術館 Rijksmuseum がメトロポリタンに最大限の協力をしている。オランダ皇太子夫妻が開幕式に出席したほどであり、米蘭両国の歴史的緊密さを確認する場ともなった。Dutch treat (割り勘)という言葉があるが、両国ともにそれぞれ元を取ったのでは? 貧乏画家に終わったフェルメールは、天国でいったいどんな思いでいるのだろうか。

 さて、管理人は、フェルメールよりは、ハドソン川の方にはるかに関心があるのだが、それについて書く時間が残されているかどうか。


Vermeer's Masterpiece The Milkmaid
The Metropolitan Museum of Art, New York, N.Y.
September 10, 2009–November 29, 2009

**
実はメトロポリタンでは、フェルメール展と平行して、9月20日まで、もうひとつの注目すべき企画展が開催されていた。本ブログをお読みくださっている慧眼の諸兄姉は、すぐにその意味もお分かりかもしれない(答は次回に)。

Reference
“A Dutch treat” The Economist September 19th 2009

コメント
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