時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

分かる人は分かる:L.S. ラウリーの作品世界(7)

2014年08月11日 | L.S. ラウリーの作品とその時代



Old Church and Steps (1960)
『古い教会と階段』

 この画家のことを書き出すと、やはり1年が終わってしまいそうだ。ラ・トゥールについてもそうだが、どこかで小休止をしなければと思う。ラ・トゥールもラウリーもフランスやイギリスでは知らない人はいないくらい著名な画家なのだが、日本では知っている人はきわめて少ない。
 
 ところで、この作品、児童画のような楽しい雰囲気ですね。ラウリーの作品はブラック(黒色)が多く使われた暗い作品が多いのですが、この作品は明るいですね。画家が地元の新聞 Middleton Guardian に依頼されて制作した作品です。しかし、よく見ると、あれ!と思うことはありませんか。

 ラウリーが画業は趣味としながら、ポル・モル不動産会社に勤めていたころの話である。友人の仕立屋デニスがマンチェスター市内のある店のウインドウにラウリーのこの作品のプリントが展示してあるのを見つけた。一目瞭然だが、例のごとく教会や階段、多数の人々や犬などが描かれている。この画家の作品には、変わった人たち、奇妙な身なりの人、そして犬もよく登場する。デニスは5本足の犬が描かれているのを見つけてしまった。

 といっても、デニスは画家の友人で、時々コミカルな絵を描いたりすることを知っていたので、画家がまた誰かをからかっているなと思ったらしい。 丁度折良く、ラウリーが昼食のため事務所から出てくるのに出会ったので、これ幸いと彼の作品が展示されている店へ連れて行った。ラウリーは長い間、自分の絵を見つめていた。

 そして、「外に出す前には最大限の注意を払って渡したよ。だから、今言えることは、そこに5本足の犬を描いたはずだがということだけだよ。君も知っているように、私は自分で見たものしか描かないからね。」と真顔で言った。

 そして友人同士の二人は大いに笑った。ラウリーはこの時の話を、その作品を知っている他の人に話す時にこうも言ったものだった。「お分かりのように、君が足一本とるわけにもゆかないじゃないか。」

 ある夕べ、ニューキャッスル・アポン・タインで、この作品のプリントを沢山売ってくれたサイモン・マーシャルという若い画商との話の折、画商が「どうして自分は気がつかなかったのだろう」と口にした。

 すると、この画家は、「君は気がつかなかったかい。 なぜって、私はうまくバランスをとったのだよ。4本足だと絵全体のバランスが悪いのさ。とにかく、5本足の犬がいてはまずいのかね。」

台風一過、酷暑が戻った昼下がり。 

 


余計なお話
 この作品は、The Primitive Methodist Church in Morton Street, Middleton,Manchester を描いたものです。実は教会と階段は別の時に作られました。24段の階段は1851年に、教会自体はその後約30年後に造営されました。両者は共にほぼ1960年当時の面影を伝える形で残っています。

 実はラウリーは同じ構図で少し前に油彩画 (61.0 x 51.0cm)を制作しています。その作品にもほぼ同じ場所に犬が描かれていますが、4本足なのです。でも、5本足の方が有名なのです。


Reference 
'D is for The Dog With Five Legs'

Shelley Rohde, 2000 

Judith Sandling and Mike Leber
LOWRY'S CITY, 2000 



コメント
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