a-haの歌うテイク・オン・ミーが流れる中、アフガニスタンにある自宅の庭で兄弟と遊ぶ主人公アミンの姿から映画は始まる。
父親が連行されたまま戻らず、兄も強制される徴兵から逃げようとするも、まだ自宅にいることが可能だった日々。しかしそんな日々は長くは続かず、内戦開始とともに観光ビザで唯一入国がすることが出来たロシアに逃げる家族。しかしビザは切れ、資金の目途がつかない家族は行くあてもなく、警察官からは取り締まりという名目の元に金をせびられ、何も出来ずに時間だけが過ぎ去るのだ。家族一緒の密航は失敗。その後先にスウェーデンに居を移した長兄の援助の元、コンテナに押し込まれて命からがら海を渡る姉妹。そして安全の為に姉妹よりも多額のお金をかけて、ロシア人の偽造パスポートで一人デンマークに入国するアミン。
居場所を追われ、新たな居場所を探すために、長い辛い日々を送る事になるアミンと家族。
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居場所を追われて逃げるという体験を誰にも打ち明ける事が出来ず、その事は彼の生活にいつまでも大きな影を落とす。失われた時間を埋めるかのように成功を追い求め、プライベートの幸せよりもキャリアを選ぼうとする彼の選択に不信感を抱く彼のパートナー。そして一歩踏み出すために、友人である映画監督に自分の体験してきたことを少しずつ語るアミン。
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私利私欲のために警官という立場を利用する男たち、密航が失敗し連行されるアミン達に景色でも撮影するかのようにカメラを向ける観光客、荷物を運ぶかのように密航を手配する密入国業者。居場所がある者にとって、居場所を追われ逃げ惑う彼らの姿はあくまでも他人事なのだ。その姿は、ニュース番組で流れる難民キャンプの映像を見て「大変だ・・・」とだけ思う私の姿でもある。
居場所を奪われる事の恐ろしさと、それでも生きようとするその力強さの前に言葉がない。「ドキュメンタリー」「アニメ」だと区別することなど、意味のない事だと思わせる映画だ。