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最近にわかにニュースを賑わせていたインドネシアの高速鉄道建設問題、結局ジョコウィ大統領が計画を凍結すると宣言して当面沙汰止みとなったようです。この問題の詳細につきましては部外者が知る由もありませんが、何かしらの運命に導かれてジャカルタで鉄活動するようになってしまった一介の日本人としては、やはり強烈に関心を寄せずにはいられない問題ではありました。
この問題が迷走した一つの大きな要因は、インドネシアにおける昨年の政権交代そのものであったと言えましょう。ジョコウィ大統領は何のかの言って立志伝的な下克上の人であり、自分の出身階層である膨大な一般庶民の民生を考えなければなりません。また、余りにも巨大で多様な島嶼国家であるインドネシアにおいては、ジャワ偏重と糾弾される状況が生まれないようにしなければなりません (現実には勿論圧倒的にジャワ島の社会経済的存在感が大きいわけですが)。それが、就任早々に打ち出された非ジャワ諸島のインフラ整備促進であったわけで、そのあおりでユドヨノ政権時に決まりかけていた日本新幹線案も流れてしまったという次第。ところがジョコウィ大統領が初の外遊として日本を訪れて以来、すっかり高速鉄道に魅了され、やはり持続的な経済発展(既に高速道路でも深刻化している渋滞は、それ自体が巨大な経済損失)に鑑みれば、経済活動の主軸であるジャワ島における鉄道インフラの整備も急務だと考えるようになったのでしょう。
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そんなインドネシアの内部事情に目をつけたのが、反日・抗日を事実上の国是とするチーナ!じゃなくてティオンコック! (日本に対し、大好き!から打倒!まで多様な印象を持つ一般国民はさておき、少なくとも中共というエリート集団が日本の国益と合致しない存在であることは、最早否定できないでしょう)
中国はリーマンショック後の経済危機を膨大な財政投資で「克服」し、世界中の多くの脳天気なエコノミストから救世主扱いされてますます鼻高々になったのも束の間。1950年代末の「大躍進」よろしく、後先考えずに生産設備ばかり増やしまくった結果、製品需要が一巡して経済が冷え込むにつれ凄まじい設備&在庫過剰を抱え込むに至り、その危機感がさらなる高速鉄道過剰建設やアジア・アフリカでの焼畑農業的なインフラ投資先開拓につながっているわけです。AIIB、あるいは「一帯一路(陸と海のシルクロード)」などという仕掛けやスローガンは、かつての「大躍進」の惨状再来による中国崩壊を恐れた中共の焦りの裏返しでしかありません。そんな中共は、インドネシアで再び高まる高速鉄道待望論に着目し、何とか日本ではなく自国が受注しようと猛烈な売り込みを図ったものと想像されます。
しかし結局ジョコウィ政権がどちらの案も凍結したのは、拙ブログの愚見によると、大まかに言ってこんな理由によるのでしょう。
(1) 中国経済の破滅的減速による世界的な資源価格下落の中、資源大国でもあるインドネシア経済にも相当響いている。
(2) しかもインドネシア自身、ここ数年の猛烈な経済発展により需要が一段落し、経済がやや低調になったところに、ルピア安が直撃。
(3) 日本技術に出来れば越したことはない。しかし日本政府が求めている政府保証は、経済面・経営面で不安が拭えない中、どうにもこうにも気が重い。
(4) それでも何とか安く確実に高速鉄道を整備するべく、日本と中国を競わせてはみたものの、余り安くしすぎるとロクなものが出来ないという懸念。(インドネシアは中国の如き、「党の指示」で住民を立ち退かせることが出来る国ではなく、一定程度用地買収にカネはかかる。また、バンドゥン周辺は火山もある急峻な山岳地帯につき、中国が宣伝するような「安くて速く建設できる高速鉄道」はイマイチ信用しがたい)
(5) 中国は日本よりもやや高く(この時点で既に中国の輸出競争力が大幅に減退していることを意味)、日本より高利であるものの、工期が短く政治的効用が高い。また、政府保証を求めてくる日本とは異なり、恐らくAIIBを使って中国が手厚く&気前よく金融バックアップをしてくれる見込みあり。しかし、工期は不測の事態がありうるうえ、中国自身の急激な経済破綻により、中国自身にインドネシア高速鉄道をサポートする十分な体力があるのか疑問視せざるを得ない状況に。
(6) というわけで、結局は現在既に確保してあるジャカルタ~ブカシ間の複々線も活用するかたちで、在来線にもっと速い列車を走らせれば良いのではないか。現在は客レで3時間を要するジャカルタ~バンドゥン間140kmも、急勾配対応の振子式車両の類いにすれば1時間半~2時間以内にすることが出来る。したがって、中国がジャカルタ郊外に造ろうとしている高速鉄道駅に向かうまでの時間(渋滞により時間を読むことが出来ず)と高速鉄道乗車時間の和よりも、ガンビールやマンガライ(将来の総合駅?)とバンドゥン間の在来線所要時間の方が短くなる可能性も大。
(7) バンドゥンから先、スマランやスラバヤまでの延長も踏まえた高速鉄道計画は、インドネシア経済と世界経済の今後を慎重に占ってからでも良い。
……というわけで、今般の決定を前に、わざわざジャカルタの高級ショッピングセンターでパクリ新幹線展、もとい中国高速鉄道展を開催し、インドネシアの中産層に向けて相当気合いが入っていたと思われる中国の目論見は、当面完全なる空回りとなったのでした。この、いろいろな車種の模型やら紹介パネルやらを「これでもか!」と並べた展示会を、落花生。様のご案内で見物……とゆーか敵情視察したのですが (詳しくはこちらをご覧下さい)、なるべく日本の新幹線とイメージが重ならない次世代車両を並べ、日本と似たイメージにならないよう計算しているな~、という感じでありました。
それにしても、今回は結局日中両国の案のいずれも流れ、ある意味でサバサバと今回の記事をアップしているわけですが、今後中国は自国経済救済のためにも、このような展示会を世界各国(経済がそこそこ発展し、スピーディーな移動への関心が高まりつつある国)で開催するものと思われます。新幹線を売りたい日本としてもゆめゆめ油断できないといったところでしょう。とりあえず、振子式車両の導入による1067mmの高速化という点では、日本の方がはるかに実績があるわけですが……。
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