
トランプの民間企業感覚の”赤字”解消政策は、発足早々破たんすることが誰の目にも明らかとなってきた。トランプの目論見は国内産業の成長と、膨大な税収による国民への減税政策である。
関税を一律にかけることによって、ものによっては例えば自動車のように部品の調達さえ関税がかけられることになり、輸入品に掛けたはずの関税が、自国生産製品にのしかかって来る。何より国内産業が醸成する前に、例えば農産物などそっくりかけられた関税が、店頭の商品価格に上乗せさせられる。つまり、インフレが相当幅広く起きることになる。
国内産業の育成は、こうした枠組みを設けさえすれば育つものではない。相応の生産技術と販売網と市場がなければならない。それは瞬時にできるものではない。関税のように。
トランプは(側近も含め)1970年代の日米貿易摩擦の教訓を生かし切れていない、と言うより多分無知なのである。日米貿易摩擦はアメリカが赤字になるので、日本に制裁を加えるというものであった。不公正な貿易障壁などがある外国の制裁を加える「スーパー301条」をちらつかせながら、日本製品に対して関税率を一方的に引き上げたのである。
更には輸入割当制(クオータ制)によって、輸入数量の上限を設けたのである。日本の自動車業界はそれに従い、対米輸出を1981~1983年度は168万台、1984年度は185万台、1985~1991年度は230万台、1992~1993年度は165万台の「自主規制」を実施した。
その結果、アメリカの象徴ですらあった自動車産業は興隆するどころか、衰退の一途を辿っている。
トランプは、企業経営と国家の貿易収支を混同しているかに見える。赤字は製品の輸出入の結果であって、収支ではない。国内の業者の輸入品もあだろうし、トランプが国外に追い出した労働者の穴埋めすらできない企業が成長などできるはずもない。国家間で相互依存する技術や労働力の交換さえ拒否し、その関係を壊すことになる。半導体がいい例で、世界最高水準の場を失うことに繋がるであろう。
中国などの報復関税も深刻になるだろう。中国からアメリカに輸出される製品の約半分、アメリカから中国に輸出される製品の約70%に関税がかけられることとなる。関税を収入に勘定しているようであるが、量と金額が予測がつかないどころか、 大量に減衰する可能性すらある。
トランプは過去多くの為政者がしたように、この男は失政を認めず、脅威を煽り軍事的挑発や行動に出てしまう可能性すらあるというものである。
