とんでもない内容のノンフィクションを読んだ。「カーブボール」ボブ・ローギン著、田村源二訳、:産経新聞出版刊、という題の本であるが、野球の本ではない。少々値が張る冗長な本をようやく読み終えた。
イラクからドイツに亡命した元イラクの技師のコードネームが、「カーブボール」である。単身亡命したカーブボールは、イラクの家族を国外に出したい。金がない。
彼は、情報を売ることで自らの評価を高めようとした。イラク国内で、生物兵器が生産される様子を、でっち上げ売り込んだ。
なんとイラク国内は、偵察衛星で詳細が突き止められているが、彼は移動するトレーラーで生物兵器を生産していると言ったのである。大型トレーラー3台で、各地を動きながら生産していると告げたのである。
技術屋の告発は詳細であったが、ドイツ国内では疑問視する向きもなくはなかった。細かいところで矛盾があったのである。
このカーブボールの「内部告発」に乗ったのがアメリカである。アメリカはイラク攻撃の、もっとも も信憑性のある情報として、大量破壊兵器の根拠にしたのである。
アメリカは、もともとイラク攻撃を決めていた。単に、攻撃の理由を探していただけなのである。イラク攻撃の、論理的理由などもともと存在しなくてよかったのである。大量破壊兵器は、侵攻する中で、その片鱗でも見つけられればいいと思っていたのであろう。
亡命者たちは、さまざまな情報を亡命国に売りつける。生活の糧を得るためである。なるべくばれないか、ばれるまで時間のかかる情報を垂れ流す。カーブボールの情報も、このたぐいのものであった。
本書はアメリカがまんまと乗っかったような表現であるが、どうやらアメリカは攻撃の理由にさえなれば根拠や信憑性など不要だったのである。開戦後事実が判明しても、何らアメリカは変わることなく攻撃と続ける。
「戦争大統領」ジェームス・ライゼン著、毎日新聞社刊ともども、アメリカの怖さを知る本である。