朝日新聞記者で、中南米特派員として勤務し、長年にわたって現地をつぶさに見てこられた伊藤千尋さんの著書である。「コスタリカ」高文研社・1,800円+税である。ネットで著者の伊藤さんにメールして先月署名入りの本書が届いた。ため息ばかりが出る。
今や世界は戦乱の状況が何のおくめもなく、連日報道される時代である。日本と同じように国が軍隊を持たない、中米の国コスタリカである。軍隊を持たないことは、ただ単に戦争をしないというだけではなく、平和の思想が国の容を創るという思いを、本書で再確認した。
コスタリカは軍隊の代わりに、領土を守るために国境警備隊と警察を持っている。国民は戦車も戦闘機も見たことがない。警官は銃さえ持っていない。兵士より教師を、教育費と医療は無料である。
一般国民でも小学生でさえ、国に対して憲法違反を訴えることも出来る。大学生が大統領を憲法違反で訴え勝利したこともある。日本の高学歴の、憲法判断もできない忖度裁判官に聞かせたいものである。
国会議員は任期は1期のみである。現職は立候補できない。国会の議場は地下にあって、国民を下支えする象徴となっている。会議を欠席したり、採決の時いなければ日当は出ない。詐病を語って逃げまくる日本の議員や、出席もせず国外にいても満額支払う日本と大違いである。
隣国のニカラグア軍隊が国境を越えて侵攻してきた時には、オランダにあるハーグの国際司法裁判所に訴え勝利して撤退させている。
国民はコスタリカ国民であることを誇りに思っている。小学生時代から政治論争を積極的に行っている。それらの中から平和憲法を持つ日本の若者に問いたいとある。「兵士になりたいか、いい教育を受けたいか。兵士になって上官に人殺しをやらされるのと、自分のモチベーションで人生を送るのとどちらがいいか」と。
国歌で称えるのは労働と平和である。国家や元首ではない。
平和の原点は人間であるという。人権を尊重してこそ平和であるという。
コスタリカの平和理念は、2016年エネルギーを100%自然エネルギーに変えさせた。75%が水力発電、13%が地熱発電、12%が風力である。太陽光発電は0.01%しかない。水力、地熱発電を支えているのが、日本の技術だというのも何とも皮肉である。2050年までに温室効果ガスをゼロにするという、世界初の気候変動目標を国として持った。
国連で核兵器禁止条約の批准に向け主導したのがコスタリカである。1978年コスタリカは国際平和大学を設け、世界の平和を広めるリーダーの養成を行っている。平和を輸出しようというのである。
産業として体験型の観光に力を注いでいる。エコツーリズム発祥の国と言われている。自然が豊富で、ナマケモや美しい鳥クアトルなどを抱え、赤道下でも高地で温暖であり中米のスイスと言われている。
コスタリカの憲法は、「常設の軍隊を持たない」と規定している。日本の平和憲法は軍隊を持たない交戦権も認めないとなっていて、数段上のはずである。
この国の現状を本書で見ると、日本で進む再軍備化は情けない限りである。ため息ばかりが出る読後感である。