サウジアラビア人で、アメリカのワシントン・ポスト紙などでサウジ現体制を批判していたジャーナリスト、ジョマル・カショギ氏が、トルコのイスタンブールにあるサウジ総領事館に入館後、10月2日以降行方不明となっている。早くからカショギ氏は殺害されたという疑惑が持ち上がり、国際政治問題化している。
どうやらカショギ氏が身につけていた「アップル・ウォッチ」経由で音声が記録されていたようである。トルコの関係筋によれば、カショギ氏が領事館内で生きたまま切断された、バックには音楽も流れていたというのである。トルコ紙イェニ・シャファクは17日、カショギ氏の拷問と尋問の音声記録とされるものの詳細を伝えている。同紙は、カショギ氏は尋問中に指を切断され、10分以内に死亡した。その後、頭部を含めて遺体は切断されたというのである。
ワシントン・ポスト紙はカショギ氏による最後のコラムを掲載した。同氏が消息を絶った翌日にアシスタントから送られてきたもので、アラブ諸国政府によるジャーナリスト弾圧と国際社会がそれに対応できていないことを非難する内容だった。
更にニューヨークタイムス紙は関係者などの話として、カショギ氏を殺害したとされる容疑者4人がサウジのムハンマド皇太子とつながりがあると報じている。
サウジアラビアについて書いている本ブログの二年前の記事、「サウジアラビアという世界最大の世界最大のイスラム原理主義国家」 に、急にアクセスが増えている。サウジアラビアは王政国家、サウド家の独裁・世襲国家である。民主主主義のためにイラクに攻め入ったアメリカは、内容はともかく選挙で選出されているフセインを殺害させた。アメリカがその非民主国家サウジアラビアと緊密であるのは、石油のためである。日本もそれに追随する。経済のためなら政治理念も人権も関係ない。
トランプは早速、ポンペイル国務長官をサウジに派遣して、「お前たち白だよね」と発信している。トランプは、サウジとの経済的重要性を盛んに訴え、問題の終息を演じている。
サウジアラビアでは、ワッハーブ主義と言われるイスラム原理主義は幼いころから国民に叩き込まれる。オサマ・ビンラディンやIS(イスラム国)を生んだ背景も、このワッハーブ主義にある。まるで世界の近代化や民主化に逆行するようなワッハーブ主義が現デイでも生き残れるのは、石油のおかげである。
カショギ氏の消息も殺害の事実も不明ではあるが、領事館という国家の公的場所で実際に殺害されたとしても不思議ではない。サウジアラビアはそうした国家である。
仏教国ミャンマー北部のベンガル系のイスラム教徒、”ロヒンジャ”が、アウンサンスー・チー率いるミャンマー政府に弾圧されている。住宅などが焼き討ちされ、追われてバングラデッシュに12万人も逃げ込んでいるという報道がある。これに対して、ノーベル平和賞受賞者のアウンサンスー・チーは黙したままで、最年少のノーベル平和賞受賞者のマララ氏は激しく非難している。奇妙な構図であるが、これは西側の報道に過ぎない。日本の多く報道もこれに倣っているかに見える。
古都は極めて複雑である。インドを植民地としていたイギリスに追われたイスラム教徒存在がある。彼らは東西に分かれて、パキスタンという国家を独立させたが、東はバングラデッシュとして新たに独立したが、その過程でミャンマーに流れてきた難民がロヒンジャの主体となっている。圧倒的な仏教国のミャンマーで、少数のイスラム教徒の悲劇は絶え間ない。軍事政権下では略奪や暴行事件は日常的であった。被抑圧者のイスラム教徒はタリバンなどの支持を仰ぐことになる。軍事政権下ではアウンサンスー・チーを支持し、彼女の民主化に期待をかけていた。又軍事政権下では、中東の石油資源を陸路得たい中国が、この地を求め政権はこれに応じている。
政府から抑圧されて、ロヒンジャにイスラム過激主義に走り武力抵抗をするものが出現し、これに軍事政権は激しく弾圧したのである。現在の紛争も、過激派が同じロヒンジャの家々を焼き払って、政権側を挑発しているというのである。
真実は解らない。が、言えることは大国が支配してきたことによる、小国・途上国の傷が年を追って次第に拡大してきたという事である。そしてこのことに、暴力的に抵抗しようとする人たちとそれを支援する過激派の集団と、暴力的に抑え込もうとする権力者側の構図は変わらないのである。過激派・暴力的抵抗を唱える集団に共感する人たちを醸成するのも、アメリカなどによる暴力的な支配、経済的な詐取が止まない限り、ロヒンジャのような悲劇は絶えることがない。
男は犯行現場に立って大声で、「シリアを忘れるな。アレッポを忘れるな。同胞が安全でない限りお前たちも安全でない。」と叫んでいた。男はトルコではギュレン派に属し、エルドアン大統領と対峙する団体を支持しているようである。ロシアのシリア介入に異議を唱えていた。
トルコはシリアを空爆するロシアの爆撃機を、2015年11月に撃墜している。誤爆とか言って誤ったふりをして、両国は何となく和解をしているかに見える関係にある。そして今、アレッポはロシア空軍の徹底攻撃で壊滅状態である。シリアの北部に位置しトルコに近い美しい古都アレッポは、反アサドのシリア自由軍の拠点である。プーチンが安倍との首脳会談に遅れたのは、シリア作戦の打ち合わせのためではないかと言われている。また日本国内で飛行機を代えたのも、テロへの不安を抱くプーチンの意向ともいわれている。
プーチン大統領はテレビ演説で、大使殺害はシリアの和平とトルコとの関係正常化を追求する動きを台無しにすることを狙った「あからさまな挑発」だと非難し、これを受けてトルコのエルドアン大統領は事件を共同で捜査すると表明した。ロシアとトルコは今回の大使銃撃事件をシリア内戦で対立する国々の間の新たな火種としたくない考えを示したのである。
プーチンはアレッポ制圧をほぼ終えた今、騒ぐのは得策でないと判断したのである。国内でチェチェン人を20万人とわれる弾圧を強行し、40万人以上を国外に追いやった。チェチェンについては徹底的に強行作戦を貫いたことで、今を築いた大統領である。ISの中には祖国を追われたり、家族を殺害されたチェチェン人たちが数多く含まれている。プーチンにとってそれらも火種になりかねない。アレッポの制圧後は騒ぐ時でないと判断したのであろう。プーチンが自国の現役大使が公衆の中でテロで殺害されて、黙っているには相当の理由があるに違いない。
日本での安倍との首脳会談では、全く笑顔を見せなかった、”うるらじーみる”君であるが彼の出自と存立基盤を考えるときに、安直に領土問題は将来に明るい基盤を作ったなどとうい、ノーテンキな首相もおめでたいものである。クリミアという、ロシアが侵略して得た土地を武力で併合させたことで、プーチンは80%以上の支持率を保っている。この男が領土を手放すわけがない。
血に汚れたプーチンの存立基盤を考えるときに、今回の大使刺殺事件の態度は次を見据え、エルドアンに貸を与えたといえるのである。次の一手が彼の目的なのである。
ムハンマド副皇太子に託されたのは脱石油である。国際的な石油価格の暴落で一気に財政事情が悪化している。副皇太子はこの国は石油中毒になっているとし、産業を興すことで国の立て直しを図るというものである。そのための技術大国日本への接近である。
サウジアラビアとは、サウド家の世界という意味である。そのサウド家の国王一族の資産は900兆円を超えるものとみられている。イギリスやアメリカの絶大な信頼の元、世界に存在を示している。アメリカはイラク侵攻の理由に民主化を掲げていた。選挙で選ばれたフセインの独裁国家を非難していたが、ほぼ無条件で石油を売ってくれるサウジアラビアは、サウド家の王国で民主国家とは程遠い存在である。アメリカのダブルスタンダードである。日本の報道もこれに従順に倣ってこの王制を批判しない。
北朝鮮の金王朝など比でない、サウジアラビアは絶対王政の独裁国家である。この国は石油産国家であると同時に、イスラムの聖地メッカを抱える、スンニー派のイスラム宗教国家でもある。
サウジアラビアの教育は、王族にとっては保険のようなものである。ワッハーブ主義と言われるイスラム原理主義は幼いころから国民に叩き込まれる。キリスト教徒は一人残らず殺せ、シーア派は殲滅せよと言った具合である。イスラム法の実施は最も厳密で、公開処刑や斬首は日常的に行われている。首のない遺体を公衆に晒したり刑務所の非人道的なリンチや、惨殺も絶えることがない。
観光客などの入国はいまだ禁じられていて、実態は闇の中である。今年1月に南部のシーア派の活動家を47人処刑し、イランと国交断絶となった。
IS(イスラム国)の主張とワッハーブ主義に異なるものはない。ビンラディンを生んだ、ワッハーブ主義は極めてイ過激なスラム原理教義である。女性への差別は厳しく、外出時には全身を黒の布で覆わねばならず、投票権はなく車の運転は許可されていない、銀行に口座を持つことも許されていない。男性は理由なく女性に暴力がふるえるし、殺害も可能である。ISの主張と何ら変わるものはない。
ISが100台もの大量のランドクルーザー上で、銃を持った黒い覆面の戦士が行進する画像がネットに流れたことがある。実際は車はサーフであったが、全く同じ新車の機種であり同時輸入と思われ、これほど大量に車を上陸させる港は、サウジアラビアにしかない。ISがいくら攻撃されようとも、戦力が失われないのは、サウド家の支援があるからである。
石油を背景にした国家運営は転機に立っている。それは同時に王制の崩壊をも意味しないのは、英米と日本などの支援があるからである。
NHKなどの偏向報道は正確ではない。サウジは24人の政治犯を処刑した。サウジの処刑は衆目の中で断首するのであるが、24名のほとんどがスンニー派の過激グループのアルカイダ系である。イランの反応はローハニを出し抜いた外務省の先走りである。民衆はサウジの大使館に火炎瓶を投げた。処刑されたシーア派はニムル師を含めて、3名でしかない。
専制君主国で世界最大の産油国のサウジでは、この2年の原油価格の暴落で経済的に行き詰っている。公共料金や電気水道代も無料であったが、それも検討している現状である。アブドラ国王が亡くなった後の新体制の手探り外交が生んだ失態であろう。
報道のようにシーア派とスンニー派との対立は簡単ではない。イランとサウジアラビアが、それぞれを国教に明記している。しかしスンニー派のサウジの南東には、国内20%といわれるシーア派の地域があり、最大の産油地域でもある。報道はサウジはシリアの反政府勢力を支援しているとしているが、初期の段階では明らかにISIS(イスラム国)を支援していた。反政府勢力との区別がつかなかったのか意図的なのかは詳細は解らない。
サウジの最大の支援国、友好国のアメリカがイランに接近したことも彼らを動かしたものと思われる。生涯に一度は巡礼するイスラム聖地メッカは、サウジの真ん中にある。サウジはスンニー派の巡礼は断ってはいない。
血統を重んじたスンニー派と教義を重んじたシーア派は、全く同一の経典を用いているし、同じ寺院で祈ることも少なからずある。何よりも彼らの共通の敵になるイスラエルがある。アメリカに石油を買ってもらっている手前、サウジはイスラエルのに悪い顔してはいないだけである。イスラム内の宗派対立はそもそも深刻なものではなかった。
今回のイランとサウジの対立を一番喜んでいるのは、ISISである。敵の敵は味方にもなるし味方の敵も味方になることもある。膠着状態のほうが収まりがいい時もある。その例外が、きょう核実験をどうやら初めて成功したらしい、世界情勢を読めない北朝鮮である。
中東の国々は英仏によって割譲され、民族以下のレベルで収まっていた豪族たちが分断されてしまった。そこに石油というとてつもなく金になる資源が沸いて出たのである。フセインやカダフィが支配していた時代は良くも悪くも平和であった。シリアでアサドがめげない理由もそこにある。ISISを空爆で絶滅できると思うのは妄想に近い。仮に組織がなくなっても、新たな過激派が生まれることになるだけである。
これまで収まっていたスンニー派とシーア派の対立こそ、アメリカが火をつけた。国境を引いた英仏、強引なイスラエルの建国を承認した国連も同罪といえる。クリスマスプレゼントを贈ったり、赤十字でイスラム圏を支援する愚行は無知である。民族や宗教を特定の方角からだけ評価し、経済的指標だけで支援し友好関係を装ってきた過程こそ、ISの台頭を許してきたのである。
後藤氏の奥さんは、昨年から何度もメールの交換をやっている。政府は今頃になって、昨年二人がそれぞれ拘束された時期から、情報収集などを継続していたと発言するようになった。この間にも、後藤夫人は金額の請求を受けている。それなのに日本は全く交渉していないというのか?
これらのことを総合的に考えると、政府は、人命尊重という表の言葉とは裏腹に、交渉を拒否するか金額を値切っていたように思われる。多分前者であろうが、米英に追従した形である。
何よりも、ここで問題が大きくなれば、海外の武力行使への道が開く口実が出来る。かなり強引な理屈であるが、憲法を勝手に解釈する男ならこのくらいのことは何ということない。
安倍首相の、テロリストには償いをさせるとか、法の裁きを受けさせるとか、およそ一国の首相の言葉とは思えない低レベルの発言である。この言葉の裏には、報復してやるという、幼い感情的な意思だけしか見えてこない。イラクに攻め入ったブッシュのようである。
償いなら誰がどのようにやるのか、法の裁きならどこの国の法で誰がやっるのかもない。そのブッシュがイラクに侵攻して、拘束した反米人間たちの中に、イスラム国の”建国宣言”をしたしたバクダディがいた。彼は二度も拘束されたが、その度にイスラムの純化をし、刑務所内に同志を増やしていった。
当初アルカイダの分派であった集団は、イラク第二の都市モスールを、わずか数百人で制圧しその戦闘能力の高さと、残忍性が周辺諸国を圧倒していくことになる。
バグダディは自らをカリフと称し、昨年6月イスラム国の建国を宣言した。僅か8か月前のことである。
フセイン政権下では、負の相互関係がバランスを保って何も起きなかったが、ブッシュがそれらを根底から破壊してしまった。因みに、パパブッシュはクエートからイラクに侵攻することをためらったのは、こうしたことを見て取ったからである。
結果として、イラクをはじめとする中東の歴史的な力のバランスを、アメリカは破壊して今日の混乱を産んでしまったのである。イスラム国もそうした経過で生まれた、極度の暴力恐怖集団である。
アメリカは、イスラム国を壊滅させることを宣言している。無理である。暴力的に壊滅させても、世界中にテロが拡散するだけである。人や殺し武器を取り上げても、世界中に散らばるだけである。テロの本質は、彼らの頭の中にあるからである。
「テロにはくっしない」という言葉も、アメリカの行為そのものがテロ行為である以上、彼らを暴力的に対抗するという意味しか持つことはない。後藤さんのお母さんも奥さんも、彼を支えた多くの友人やジャーナリストたちも、今回のことが暴力の連鎖に繋がらないように訴えている。それは、安倍政権に向けられた言葉でもあるが、日本の軍事化を目指す安倍首相には見えてはいない。
結局日本政府は、イスラム国の人質に対する対応は、アメリカとイギリスに準じていたのではないかと思われる。一切の交渉を拒否したいたのであろう。昨年の10月ごろには既に身代金を政府は要求されていたという情報もある。
安倍首相は余りにも不用意に、中東に出向いてまで「イスラム国と戦う国を支援する」と発表し、彼らを刺激した。余りにも不用意な発言と言える。後藤氏の殺害のビデオも、日本政府へのメッセージとなっている。このビデオは、世界中にイスラム国を支持するか共感するグループや個人にも向けられている。日本人は今後もテロの対象になるという言葉は広がりを持ち、世界の日本人に危険を広げたことにもなる。
安倍首相は、「極悪非道のテロは許さないと」と表明したが、これに加えて、「テロリストの代償をとらせる」と言い切った。こうしたことが、武力によって解決できないことが、この10年ほどの中東の歴史が語っている。安倍首相の報復ともとらえる発言には失望した。
今回ヨルダンに交換人質として要求された女性も、家族全員がアメリカに殺害された恨みを根底に持っている。憎悪の広がりは際限なく広がる。
本来であれば日本はこうした場面で、非暴力的な交渉が出来る立場であるはずである。歴史的にも地理的にも宗教的にも、そして憲法上からも日本は他国と明らかの異なる立場が採れたはずであるが、歴代の日本政府はこれを放棄してきた。
後藤氏などもこうした非暴力的、人道的な立場から取材を続けてきた。パキスタンで、長年民間の人道支援を行っているペシャワール会の中村哲氏は、我々の活動が支援されるのは日本には憲法9条があるからと発言している。
私たちはもう一度冷静になって、この後藤氏の悲しい出来事を見直すべきなのである。
白人たち、キリスト教の国々が、世界を侵略し支配したというのである。歴史的事実は、文明の格差あるいは軍事力の格差が、アメリカやアフリカを支配した。そうした事実を根拠に、イスラム系諸国がキリスト教諸国がら反撃を受けているというのである。
今回の邦人二名の人質事件もその流れというのである。NOと言える日本でも彼の主張の根底にあるのはは、民族主義と「報復」である。
石原の主張は、やられたからやり返すのは当然という、報復の論理である。武力が民族や文化を破壊したのであるから、暴力による報復が起きて当然というのである。
これでは新たな武力支配が生じるだけである。こうした報復の思想はまた新たな暴力や報復を産むのである。石原には人権も国家や民族の下に置かれている。暴力が時空を超えて過去の被害を理由に報復するのであれば、人類は何も歴史に学ばないことになり、石原はこれを肯定するのである。
イスラム国には、1万人を超えるヨーロッパから、石原の言うキリスト教国からの戦闘員の若者が少なくない。良くも悪くもグローバルになっている。姑息な一国民族主義を根に持つ、軍国少年の考えなど今さら何の意味もない。
本論の冒頭で、石原はイスラム国を肯定するものではないと断っているが、内容として彼は肯定しているのである。情報が一瞬にして世界を駆ける時代に、いまだに民族主義やナショナリズムの存在を肯定する、極めて愚かな主旨の論文、時代錯誤も甚だしく未来を見つめない主張と言える。平和も未来も考えることのない石原の主張である。
イスラム国は、これまでのテロ集団と全く異なる組織であることを知らねばならない。
いくつかの特徴を以下にまとめてみた。
1、イスラム国の母体になっているのが、オサマ・ビンラディンのアルカイダであるが、アルカイダが地下組織であったのに比べて、イスラム国は可視的国家を目指す集団である。従って行動が具体的である。自爆テロを繰り返す、場当たり的な集団とは根本的に違うのである。
2、かつてのイラクのフセインを支えていた、バース党が主体の組織であり、正規軍は管理能力が高く規律があり、軍事的統率力が高い。更には、イラク軍やシリア軍から武器を奪って効率よく戦っている。要するに、戦闘能力が高く、もうすでに一つの国家としての戦闘を行っている。
3、宗教的な統制も行き届いている。最高指導者のアブバクル・バグダディは、かつてアメリカ軍に拘束され、拷問を受けた経緯があるという。スンニー派でも最も厳格な、サフィー主義者でカリフ(現実の指導者)の言葉には、絶対的服従・忠誠心を持つ集団である。奴隷制を布いたり、女性の販売まで行っているようである。集団処刑の様子をネットで公開し、恐怖政治を行っている。
4、一日3億円以上の潤沢な資金を持つ。スンニー派の支持者ばかりではなく、いくつかの油田も確保している。通貨さえ発行している。経済的封鎖は効果がない。
イスラム国は、この地域では最も強力な軍隊であると言える。欧米からの軍事的支援がなければ、イスラム国を軍事的に制圧できる可能性はない。
イここにきてスラム国の台頭を許したのは、マリキ前政権の容赦ないスンニー派弾圧である。アメリカは、空爆に踏み切る条件に、マリキの退陣を要求している。オバマは地上戦には踏み切らないだろ。しかし、空爆による効果は全く期待できない。アフガンなどに見られるように、民間人の被害者が増えてアメリカに対する抵抗が強くなるだけである。
イラクの半分以上を占拠し、最近はクルド自治区まで勢力を拡大している。イスラム国の主張は、第一次世界大戦まで遡り、欧米列強のかつての支配すら問題にしている。ある部分では支持者も少なくはない。
複雑な中東情勢の中で、相当の期間解決が困難な問題を彼らは突きつけている。
中東ではイラクとシリアにかけての、ISISが建国したとする「イスラム
国」の残虐な行為が際立っている。先週のBS1の海外ドキュメンタリーは、北欧などヨーロッパからイスラム戦士として、中東に行く青年たちを追ったものであった。
ほぼ全員が、イスラム地域からの移民の親と一緒に、ヨーロッパに来たものである。中には改宗してイスラム戦士になる、ヨーロッパ人もいる。
若者たちがイスラムに改宗するのは、「もうこれで見下されることがなくなった」という言葉が心情を語っている。
行動に飢えている20代にとってイスラム教は真摯である。ドラッグに溺れる若者、貧困に喘ぎ不満のやり場がない。堕落した社会体制、布教活動に生きがいを見出す。銃は持たないと言ってはいたが、結局中東へ旅立つ多くの若者たち。アフガニスタン帰還兵たちに抗議する。
さらには、イスラエルによるガザ攻撃の惨劇が、彼らを行動に促している。
イスラム国は、親米のサウジアラビアが支援している。イスラム国は、シリアのアサド政権と戦っている、反アサド兵力と対峙する。シリアでは三つ巴になり、アサド政権の延命につながっている。
そのイスラム国の兵士の2割が、欧米からの若者と言われている。
イスラム国は、第二次世界大戦後に英仏などがオスマントルコから解放された後に、彼らの都合や権益で設定された国境を否定する。シリアもイラクもヨルダンとい国家を認めない。
確かに20世紀は侵略と抵抗、それに社会主義国家の建設と波及のために、多くの戦争が起きた。
21世紀はこれを教訓にするべきである。国家の壁を極力低くして、暴力を否定することが人類の叡智であるはずである。
ところがこれを真っ向から否定したのが、ブッシュ大統領である。彼は9.11の同時多発テロを、暴力的に理解し報復した。戦果を挙げる度に、テロはなくなったとか根絶したと高らかに宣言した。現実は拡散した。テロは一層拡大し暴力的になった。アメリカは、イスラム国を空爆するが、テロが根絶されるわけではない。新たなテロの原因を作っているに過ぎない。
武力は世界紛争の原因になるが、解決手段にはならない。今や欧米で教育された青年たちが、イスラム戦士になる。先進国は、過去の罪過に向き合わねばならない。イスラム国の犯罪行為を認めるわけにはいかないが、彼らに反欧米の根拠を与えるべきではない。