東大全共闘の闘志は健在でいい仕事をしている。本書では彼の得意分野の物理、理系の知識と洞察力が、社会体制の中でいかんなく発揮されリニアの矛盾の本質を指摘している。
社会的な不条理はこの新幹線の必要性である。少なくとも80%がトンネルの中で、外が見えない。観光資源にはならない。東京(品川)名古屋を最速40分と驚異的であるが、ビジネスマンしか使うことがないだろう。利用者いるのか。因みに、2037年完成見込みの東京大阪間は最速67分を予定している。
現在の新幹線のように繋がりがない。駅舎が独立していたり、関係機関との独立して存在するためである。他機関とのつながりでは、飛行機に劣る。
驚きは使用電力量である。最も少ない電量は現行新幹線の4倍程度とされるが、最も大きな試算では30倍にもなる。それぞれが根拠を持っているが、要するに走ってみなければ解らないということである。仮に6倍程度としても、原発一基分の電気量が必要になる。計画は東北大震災、福島原発事故の前で、明らかに原発の新規建設を前提にしていた。
最も驚かされたのは、これほどの電力を消費しながらも、浮遊しているため電力の補給がなく、リニアー新幹線は車両内で灯油を焚いて発電しながら走ることになるのである。
建設にかかり資金の改修はほぼ困難である。少なくとも利用者が負担できる金額ではない。
現在訴訟問題を起こしている南アルプスは24キロのトンネルである。避難口がないのであるが、運転手がいないこの新幹線は乗員が歩いて誘導することになる。最大10キロ上になるが、青函トンネルの乗員が5キロ歩かされた事件の教訓はない。トンネル掘削の残土の問題も水の問題も全く解決されていない。
そもそも、大地溝帯の最も活動的な南アルプスにトンネルの掘削など、必ず破壊されるに決まっている。
ヘリュウムの問題であるが、マイナス269度で固体にしておかなければならない技術が確立されているとは言えない。ヘリュウムは限られた地域でしか採掘されないが、アメリカがその流通を握っている。アメリカでは1キロ1ドル程度のものが、日本では5000円にもなる。50倍もの価格を吹っ掛けられても、これを購入することになる。
著者はリニアの原理そのものへの疑念も大きく、不条理な巨大プロジェクトと断じている。
少子化高齢化の時代に高度成長思想を強引に引き出す、メガロポリス間をつなぐだけの幻想でしかないリニアー新幹線事業である。いずれ大きな負の遺産となる。即刻中止するそるのが最も安価となる。