一人の少女がなにかにおびえたような顔で、じっとこちらを見ている。彼女の着ている衣服も粗末なものだ。そして、背景には機械の列のようなものが写っている。とりわけ、少女の思い詰めたようなまなざしは、時代を超えてわれわれになにかを強く訴えているように思われる。そこには見る者の姿勢を正させるような厳しさが張りつめている。
彼女は紡績工場で働いていた。その一瞬をとらえた写真である。少女は、なにを語りかけようとしたのか。思い詰めたような顔は、時空を超えて現代のわれわれに迫ってくる。
苛酷な労働と子供たち
アメリカの写真家ルイス・ハイン(Lewis Hine)が、20世紀初めの繊維産業で働く子供たちを記録した写真の一枚である(詳細は2005年2月12日本サイト)。子供たちは、当時ほとんどあらゆる産業で劣悪な労働環境の下で働いていたが、ここに紹介する写真は、ニューイングランドやカリフォルニアの綿紡績産業で働く子供の実態を伝えている。子供たちは、週6日、一日11-12時間という長時間を、どならないと話もできないようなものすごい騒音と綿くずが舞い上がる高い湿度の中で、立ちずくめで働いていたのだ。綿紡績工場で働く子供のうちで、生きて12歳をむかえる数は、通常の半分にも満たなかったといわれている。肺結核、気管支炎、そして工場での事故などが幼い命を奪っていた。
写真家ルイス・ハインが撮影したこの写真はアメリカを変えた。1938年にフランクリン.D.ルーズベルト大統領が署名した労働基準法(Fair Labor Standard Act)には、すべての州に適用される最低賃金と労働時間の上限が定められているとともに、工場や炭坑が16歳未満の子供を雇うことを禁じた児童労働の制限も盛り込まれた。
グローバル化と児童労働
しかし、世界から厳しい環境の下で働かされている子供たちの姿は、消えてはいない。現代のアメリカですら、児童労働は根絶したわけではない。それどころか、グローバル化に伴う企業間競争の激化は、開発途上国を中心に、少しでも低賃金の労働者を求めて、児童労働の増加に拍車をかける要因となりかねない。21世紀半ばに向けて、先進国の人口が増加しない反面、開発途上国を中心に地球上の人口は増加するばかりである。ILO(国際労働機関)によると、世界中で5歳から17歳までの人口の6分の1にあたる約2億4600万人が働かされている。
今日、6月12日は、「児童労働反対世界デー」である。
Source: Lewis Hine Collection