時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

外国人労働者と日本の将来

2005年06月26日 | 移民政策を追って
不安を抱えての日本滞在
  6月14日 NHKの「クローズアップ現代」は、日本に不法滞在している外国人の子供の問題をとりあげていた。そして6月25日の「人口減少社会」でも外国人労働者といかにかかわるかという問題は、日本の将来を考えるひとつの重要なトピックスであった。

  6月14日に報道されたのは、先ず15年前にフィリピンから父親が観光査証で来日、期限が切れた後もずっと日本で働き、そのまま今日まで帰国することなく働いている例である。この父親ウイルフレッドさんは、主として建設現場で15年働いてきた。バブルが崩壊した後でも、日本人が働かなくなった分野である。父親の来日後、母親ネルダさんも3歳の子供ウォン・ジャイさんを連れて来日している。ウォンさんは、成長して公立学校に入学し、今は高校3年生になり、父親と一緒に暮らしている。しかし、不法滞在であるだけに、正式の在留資格がない。

  ウォンさんは、日本語以外はできず、来年高校卒業後はスポーツ・インストラクターになることを目指している。不法滞在者なので、国民健康保険へは未加入であり、虫歯も治せないという。父親とウォンさんは将来のことを考え、去年3月入国管理局に出頭し、法務大臣の在留特別許可を懇願した。7月に結果が知らされるはずであった。ところが、母親ネルダさんが、3月不法滞在容疑で警察に逮捕され、拘留された。東京都が治安対策を強化した結果であるといわれる。

このケースが示すように、不法滞在者のほとんどは、オーバーステイ(不法滞在)といわれる許可のないままに在留期限を過ぎて滞在している者である。

明暗を分けるものは
  他方、同様な在留特別許可の懇願をしたが認められず、裁判所に訴えているケースが紹介された。アミネ・マリヤムさんは、14年前に来日し、両親と妹と一緒に日本に住んでいるイラン人である。滞在が長期化し、イランへ帰国しても生活できないとの見通しで、在留特別許可を求めて、1999年にグループで東京入国管理局に出頭した。このとき、17家族が出頭したが、10家族は滞在が認められた。しかし、マリヤムさん一家は認められず、強制退去命令が出された。不許可の理由については説明がない。入国管理局は、在留特別許可は懇願の内容がそれぞれ異なるから説明できないと回答している。言い換えると、在留特別許可は法務大臣が与える恩恵的措置であり、説明する理由はないとして判断の基準は示していない。

在留が認められる場合は
  在留特別許可の要件(基準)とは、入管法第50条3項が規定する「法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」である。要するに、法務大臣の手中に判断が任されている場合である。この判断は、現実には先例と判例の集積の上に判断が下されることになる。そして、多くの日本人が知らない間に、現実は進行し、現在では年間1万人近い外国人に在留特別許可が認められている。

  これだけの数の外国人が在留を認められているということは、日本はなし崩し的にアムネスティ(不法滞在者の救済措置)を実施していることになる。外国でアムネスティを実施した国はあるが、いずれも基準を公表して一定時期に実施している。アムネスティを実施すること自体にも、さまざまな問題が含まれている。アムネスティを実施すると、かえってそれを期待する不法滞在者を増やすことになるという考えも強い。最近では、このサイトでも紹介したスペインでも、その懸念が表明されている。

透明度の高い政策へ
  日本の入国管理政策は、80年代以降、実態の変化に応じて追加・修正されてきたが、大きな欠陥は長期的・全体的視点が欠如しており、重要課題を先延ばしにしてきたことである。縦割り行政の弊害も大きい。15年以上も日本に不法滞在している外国人労働者や子供たちが生まれてしまったのも、そのためである。外国人・移民問題は膨大な事実・経験が蓄積されており、時の経過とともにいかなる事態が展開するか、ほぼ明らかになっている。日本はもっと早くその教訓を学び取り、対応すべきであった。

  外国人労働者を受け入れることは、「人間」・「家族」を受け入れることであり、将来の国民を受け入れることにもつながっている。6月25日のTVでも報じられていたが、日本に定住することを選択し、ローンを組んで住宅を購入する日系人家族も増加している。外国人労働者と日本のつながりは、今後強まるばかりである。定住化への対応を含め、将来が見える政策の設定が必要である。なし崩し的な政策の継続は好ましくない。

  国レヴェルでの政策対応が遅れ、受け入れ地域がさまざまな形で負担を強いられている。今や日本で生まれた外国人労働者の子供たちが、働く機会を求める時が来ている。長期的視点に立って基本的問題を整理し、可能な選択肢を明示し、国民的議論を尽くすべき時である(2005年6月26日)。


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