時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

「移民漂流」を見る

2006年01月30日 | 移民の情景

  NHKのスペシャル番組「移民漂流」を見た。インターネット技術が開発した成果を駆使して、地球上の3点をほぼ同時的にカヴァーしての組み立てである。イスラエルからドイツ、ベルリンへ移住を企図するユダヤ人青年、ユダヤ人の血筋を継承し、エチオピアからイスラエルへの移住を希望する一家、ベルリンに住むトルコ人の苦悩、東欧からの移民に追われ、他国へ流出するドイツ人などの姿が映し出される。それぞれの背景にある苦渋な選択の状況が紹介される。

  その背景にあって、こうした人の流れをつくり出している動因は、先進国の少子高齢化であるとする。テレビ番組という制約もあって、企画の意図は分かるが、見ていて大変せわしない。「移民漂流」というタイトルと裏腹に、プログラム自体があわただしく「漂流」してしまっている。多くの視聴者には、状況を理解するのに追われ、本質的なことを考える余裕がないままに終わってしまう。ご自慢の映像技術に溺れすぎた感がある。

  変化が激しい時代だけに、上滑りでなく見る人が落ち着いて問題の本質を考えられる導入・設定をすべきだろう。 「移民」と「少子化」はもちろん関連があるが、短絡的にすぎる。「少子化の特効薬か劇薬か」というテーマ設定にいたっては、万策尽きて「移民」なのかと考えてしまう。。移民を生み出してきた要因は、「少子化」に限ったことではない。視聴者をミスリーディングする恐れもある。

  舞台となっているEU自体も、決して一枚岩ではないことを示すべきでもあろう。ドイツが2005年に導入した優秀な移民を受け入れる「新移民法」が紹介される。しかし、こうした政策が、他国が多大な時間をかけて教育投資をした成果を労せずして奪い去ってしまう側面もあることに注意したい。

  このブログでも取り上げたことのあるフィリピン人看護師の流出はそのひとつの例である。 見ようによっては、先進国のエゴが作りだした現象とさえいえないことはない。

  ひるがえって、日本についての言及がなされる。すでに日本でも知られている国連人口部報告が提示した「代替(補充)移民」replacemnet migration の考えがあわただしく紹介される。国連報告では、少子高齢化に伴う人口減を補うために、毎年イタリアは372千人、フランスは109千人、日本は647千人の移民受け入れが必要であるとされた。この報告の評価・検討自体、大きな問題を含んでいる。移民は単なる数合わせではないからだ。

  先進国の中では、実は日本が最も深刻な問題を抱えているのだが、「移民受け入れ問題」はタブーなのか、ほとんどまともな議論がされたことがない。移民(受け入れ)政策は、実は国家大計の問題なのだ。NHK番組は、この議論への国民の関心をおそまきながら喚起しようという心づもりがあるのだろうか。

Reference
NHKスペシャル 同時3点ドキュメント「移民漂流」、2006年1月29日放映

コメント
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