ITや映像技術の進歩もあって、思考にかかわる時間が圧縮されるのだろうか。時々白昼夢のようなことを考えてしまう。
1月13日、台湾立法院の選挙結果を見る。予想以上の国民党の大勝である。前日、選挙前夜の熱狂ぶりをTVが伝えていた。この国の選挙時の盛り上がりはすごい。かつて、その現場に居合わせたことがあったが、台湾全土が燃えているような感じがした。一見、過熱しているのではないかと思わせる光景の裏側で、この国の人々の脳裏を常に離れることのない関心事は、なんといっても中国との関係のあり方だ。人々は日々の営みの中で、ふと我に返る時があれば、いつか来るかもしれない、その日のことを考えている。ある友人は台北の空が真っ赤になった夢を見るという。そして子供たちを勉学の機会にと海外へ送り出し、もう何年も遠く離れて住んでいる。
龍の国が抱える問題
台湾は大国中国に呑み込まれてしまうのか、それとも政治経済上の独立性を維持できるのだろうか。中、台両国に知人・友人がいることもあって、 他人事には思えなかった。最近会った中国人の友人は、台湾はもはや中国にとって大きな政治経済上の問題ではなくなったという。そういえば、中国側のメディアへの台湾問題の登場度は低いようだ。とりわけ、政治家は行き着く先がみえてきたと考えているらしい。台湾から本土への産業移転が進んで、経済面でも一体化が進み、脅威ではなくなったとの見方なのだろう。柿が熟するのを待つのだろうか。他方、中国には台湾問題をはるかに超える大問題が頭上に覆いかぶさっているという。そうかもしれない。
しかし、台湾の人々にとっては、今回の立法院選挙、そして3月に行われる総統選挙は、今後の台湾のあり方を大きく定める。しばらく目を離せない。とにかく、台湾海峡が平和な海であるよう祈るばかり。
他方、本土側へ目を移すと、今年8月の北京オリンピックを目前にして、中国は活力に溢れている。だが、沸騰する圧力を十分に制御できないようだ。北京空港と市内を結ぶ高速道路が完成した当時は、その改善ぶりに目を見張ったが、日ならずして渋滞の道路になってしまった。大気汚染はひどく、呼吸器の弱い私などは敬遠気味である。オリンピックという国家的行事が、分裂しそうな民心をかろうじて支えているようなところもある。しかし、その後を考えるとかなり怖い。一層の発展への踊り場となるか、反転下降への峠となるか。
すさまじい環境汚染、格差の拡大、安全性の低い輸出品など、憂慮すべき問題が山積している。上海にいる知人は、北京オリンピックのことはあまり伝わってこないし、大きな関心事ではないという。オリンピックは北京の事業だと考えているようだ。13億という人口の生み出すエネルギーはすさまじい。
走り出した象の国
そして、アジアではもうひとつ人口大国インドの発展が急速に注目を集めている。最近、30万円(10万ルピー)を切る超低廉、小型自動車「ナノ」を同国の財閥タタ社が発売することを発表し、大きな話題となった。先進国企業は価格が安すぎるというが、この価格で国民が満足できる車ができるのならば、文句のつけようがない。文字通り国民車となる。環境対策でもユーロIII基準を満たし、努力すればユーロIVも不可能ではないというが、アジアの開発途上国の10億人が、この車に乗っている光景は想像するに恐ろしい。
中国、インドの人口は併せると24億人、地球の全人口の3分に達する。最近、中印両国の近接が目立つが、そのエネルギーはすさまじい。「ひよわな花」といわれた戦後日本の発展の比ではない。したたかな力を最初から保持している。すでに、日本以外のアジアの富裕層(資産1億円以上)は120万人ともいわれ、日本の百貨店なども重要な顧客とみなし始めた。日本人が買えなくなった高価な商品をこともなげに買ってゆく人々。百貨店や秋葉原で、現金払いで一人100万円の買い物をするなど珍しくないらしい。いつか、どこかで見たような風景でもある。
文化の香りのする国
龍にたとえられる中国、象のインド、その二つの大勢力を前に、なんといっても気になるのは急速に矮小化してゆくこの国、日本の姿である。「年金崩壊」、「医療崩壊」、「教育崩壊」、「家庭崩壊」・・・、など惨憺たる文字がメディアを覆っている。絆創膏を貼るような対応ばかりで、前途に光が見えない。
人口の規模も国力そのものではないが、国力を構成する柱のひとつである。少子化対策もさしたる効果は見られない。一時はアジアの東で燦然と輝いたこともあったが、今その光は急速に薄れている。内政、外政、目を覆うばかりの迷走で、国力の低下は避けがたい。このままではアジア大陸の縁辺に張り付いたような存在感のない国になって行きそうだ。せめて中規模国になっても、文化の香りのする、誇り高い存在感のある国であってほしい。自分が確実に存在しない先のことなのに、その行方が気になるのはなぜだろう。