時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

日本の苺は誰が摘むのか

2008年01月30日 | 移民の情景

  日本へ来たアメリカ人の友人が、スーパーやデパートの店頭に並んだ果実、なかでも、苺の粒の大きなこと、サクランボの宝石箱のような美しさ、そして恐ろしく高価なことに驚いたようだ。近くには輸入品のアメリカン・チェリーが箱に入れられることもなく、無造作に置かれていた。野菜の売り場でも、かつては見かけたホワイト・アスパラガスも高級スーパーなどへ行かないとないようだ。主流は採取も容易なグリーン・アスパラガスに代わっている。

  消費者の嗜好・要望に応えようと、日本の生産者が大変な努力をしてきた結果としての光景である。いまや曲がった胡瓜や土のついたままの野菜などを見る機会も減ってきた。あの土の匂いが、農家と消費者の家庭をつないでいた絆のような気がするのだが。 

  苺やサクランボなどの繊細な果実は、人間の手で採取しなければならない。農業ロボットに頼ることは、少なくも現状では難しいだろう。しかし、高齢化の時代、人手不足が厳しい。生産を維持しようとすれば、外国人労働者が選択肢とならざるをえない。

  この主題での記事を書いたばかりだが、1月29日付の「毎日新聞」が「イチゴ農家:中国人実習生と雇用めぐりトラブル」と題して、中国人実習生との未払い賃金問題をとりあげていた。栃木県の農園側が「不作」を理由に契約期間前に解雇し、強制帰国を図り、残業代についても同県の最低賃金を下回る時給500円しか払っていなかったことが、紛争の種となったようだ。

  また、外国人研修・技能実習生制度にかかわる問題である。法務省は昨年12月に「研修生及び技能実習生の入国・在留管理に関する指針(平成19年改訂)」を公表したが、徹底されていない。他方で、外国人に依存しなければならない状況を反映して、2006年の在留資格「研修」の新規入国者数は92,846人、技能実習への移行者は41,000人にまで増加している。制度を実施、管理する体制も、この増加に対応できていない

  このブログでも再三指摘してきたように制度上に根本的欠陥があり、こうした指針も徹底せず、ほころびを繕いきれないのが現実だ。制度が複雑過ぎて、当事者でも「研修」と「技能実習」の違いを十分理解できていない。あるいは理解した上で、悪用される可能性を随所に残している。一時はやっと抜本的制度改正かと思わせたが、その後すっかり後退してしまった。

  これまで日本の農業が長年にわたり努力してきた成果も、働き手が確保できなければ継承されることなく、失われてしまう。外国人も日本人と同等の労働条件で雇用されるような透明性のある新たなシステムづくり以外に、もはや選択の道は残されていない。日本の苺は誰が摘むのだろう。

コメント
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