現代の日本人にとって、信じる宗教の違いのために、お互いに融和せず、反発し、憎みあい、果ては戦争状態となるという状況は、なかなか理解しがたい。イスラエル・パレスティナ問題あるいはイラク問題にしても、その根底にある相互不信の原因を正しく理解することはかなり困難だ。多くの場合、説明を聞いても、単に分かったような錯覚を得ただけに終わることが多い。
カトリックとプロテスタントの対立のように、16世紀あるいはそれ以前から続いている問題も少なくない。最近このブログで話題としている17世紀オランダの宗教対立もそのひとつだ。今日のメディアは、インド、ムンバイの同時多発テロ事件を伝えている。
たまたま北アイルランドで対立するプロテスタントとカトリックの人たちがお互いの不信、憎悪の源を話し合うため、あるNPO組織の仲介によって、スコットランドの自然の中にある宿舎で共に数日を過ごすという番組*を見た。「北アイルランド問題」といわれる根深い対立の当事者たちである。参加者のそれぞれが息子や親が相手方の武装組織によって銃殺された、あるいは殺したために収監されていたという複雑な過去を持っている。
憎悪が憎悪を呼び、重なり合ってさらに増幅するという関係が生まれている。旅に参加したものの、お互いに心の底を打ち明けて話し合うという場面は、なかなか生まれない。息子二人を殺されたカトリック信者の父親が、殺したプロテスタント・武装グループの一員であった男と真に理解し合うというのは、およそ難しいことだ。ただ、口をつぐんで座っている時間が過ぎる。
しかし、静かな自然の中で、参加者は少しずつではあるが、心の深部にあることを口にするようになる。最初は単なる憎悪のぶつけ合いに過ぎない。しかし、あるルールの下に興奮を沈め、一人ずつ落ち着いて発言を重ねるうちに、それぞれが抱く深いわだかまりが、少しずつではあるが解けてきたようだ。さまざまな思いが行き場を失って、全員が泣き腫らしたような目をしている。
そして、いよいよ宿舎を去る最後の日、それまで話し合うことすらしなかった二人の間に、かすかな交流の兆しが生まれる。それぞれが、お互いの立場を少しずつ受け入れる場が生まれつつあるようだ。問題氷解というには、あまりに遠い状態ではある。しかし、最初に宿舎に着いた時の相互不信に満ちた目は、いつの間にかなくなっていた。解決には程遠いが、なにかが変わってきた予感がそこにあった。
*「北アイルランド対話の旅」 2008年11月26日 NHKBS21:00