足が止まったアメリカ移民政策改革
アメリカでは移民政策は、基本的に連邦法の管轄である。また、合法滞在者も不法滞在者も、公正に法の手続きを受けることが、合衆国憲法により保障されている。 さて、昨年の今頃大統領選で、あの熱狂的な支持を受けたオバマ大統領の「神通力」も、効き目が大分低下したようだ。さまざまな分野で、手詰まり、停滞が目立つようになった。
そのひとつが移民政策構想だ。ブッシュ政権時代にはあれだけ議論がなされたにもかかわらず、オバマ政権になってからはほとんどまともな議論がない。移民に関する包括的な政策イメージが著しく後退し、短期的、切り貼り型対応になっている。オバマ大統領は医療改革、アフガニスタン問題など内外の重要課題に追われ、新たな検討はほとんど未着手の状態だ。
移民問題に大きな影響力を持ったテッド・ケネディ上院議員が逝去したこともあって、かつてのような改革エネルギーが生まれていない。パートナーだったマケイン議員もかつての情熱はない。結果として、現状は共和党政権時代の路線を踏襲しているという状況だ。 とりわけ、国土安全保障省 The Department of Homeland Security (DHS) は、移民・国籍法 Immigration and Nationality Act(INA) の287(g)条項をもっと使うように各方面に圧力をかけている。移民管理と犯罪捜査の接点にあたる微妙な条項だ。
Section 287(g)は、『不法移民改革・移民責任法』 Illegal Immigration Reform and Immigrant Responsibility Act (IIRIRA)のひとつの結果として1996年に制定された。Section 287(g) は、国家安全保障省が州やローカルの法執行機関に本来連邦法の管轄である移民法の実施の一部をゆだねることを認めている。とりわけ州およびローカルの関係部局がそれぞれの人員を、現行移民法の厳格な実施とそのための訓練にまわすようにという指示がなされているらしい。確かに、各州、ローカル共に、犯罪者とされる不法移民が自分たちの地域に流入してくることは好まない。国土安全保障省の長官ジャネット・ナポリターノは、287(g)条項はそうした事態の対応として有効な手段だと推奨している。しかし、この条項を拡大強化することは逆作用を引き起こしかねない。
連邦政府筋の最近の報告は、追加投入された州やローカルの要員が、交通違反者など軽い違反者の摘発に力を入れ、麻薬や銃砲取引、テロリストなど真に重大な犯罪者を逃していることを指摘している。オバマ政権は、この条項を廃止すると期待した向きもあったが、政権は受け入れてしまっている。 287(g)条項は恣意的に運用されやすく、刑罰的だとの評価がある。そのためもあってか、犯罪を犯した不法滞在者は、もし逮捕されると強制送還されると考えて目立たないように行動しているようだ。さらにこの条項は、人種差別などに恣意的に使われがちだ。たとえば、ローカルな住民感情などを反映して、ヒスパニック系などは不法移民として捕まる可能性が高くなる。
移民問題は、人種問題が入り込む余地が大きいため政治家は及び腰になる。最近のカーター前大統領の発言は、明らかにフライイングを犯してしまった。
こうした既存条項の拡大適用は、大統領の批判者が指摘するように、移民法の総合的改革とはほど遠い不満足なものだ。連邦法の意図と州やローカル地域の実態との差異が拡大している。オバマ政権は総じて”Yes we can”と 応対は調子がよいが、実態は But.....と歯切れが悪くなってきた。さて、日本の新政権は?
Reference
*“The continuing crackdown” The Economist September 19th 2009
# 10月9日、ノルウエーのノーベル賞委員会は、2009年のノーベル平和賞をアメリカのオバマ大統領に授与することを発表。ぜひ"can"(可能性)を "do"(実行)に移してほしい。