時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

戻ってきたアフガンの至宝

2009年10月10日 | 絵のある部屋


 ブログという奇妙なメディアにかかわってから、予想しなかった不思議な経験をしてきた。今回もそのひとつだ。アフガン文明の至宝の命運、盛衰にかかわる記事を書いた直後、BBC、Times、New York Timesなどのメディアが10月7-10日にかけて、一斉にある出来事を伝えていた。日本のメディアでは報じられていないようだ。

 アフガン戦争の過程で、国立カーブル美術館から持ち出され、行方不明となっていた所蔵品が、本来の所有者であるカーブル美術館へ返還され、その一部が公開されることになったというニュースだ。あまりのタイミングの一致に目を疑った。

 カーブル美術館は1920年代に設立され、1979年のソ連軍の侵攻までに10万点近い所蔵品を持つまでになった。ところが、その後のアフガン戦争の過程で、同美術館はアフガン戦士の防衛拠点ともなり、破壊と荒廃が進んだ。とりわけタリバンが支配した1992-95年の間に美術品の7割近くが彼らによって破壊されたり、国外流出などで失われてしまった。その後、館員の努力でわずかに救い出された逸品が、パリのギメ、ニューヨークのメトロポリタン美術館などの企画展として公開されてきた。

 今回、カーブルで展示された品々は、ロンドンのヒースロー空港で密輸品として摘発されたものが本年2月に返還されたものだ。同空港の入国管理当局による11日間の集中摘発で1500点近い密輸美術品が見つかり、押収された。その多くは、不法な発掘や窃盗行為でアフガニスタン国外へ持ち出されたものだ。一時は戦火によって消滅してしまったと考えられていた品物だった。こうした形で戻ってきたのは、幸運としかいいようがない。

 カーブル美術館に返還された旧所蔵品は、2001年にタリバンが崩壊した後、ノルウエーからもおよそ13,000点が、そしてデンマーク、アメリカなどからも返還されたようだ。日本へも持ち込まれていることは、ほぼ疑いない。もし、税関などで不法な持ち込みであることが確定できれば、同様な返還が行われることを切に期待したい。

 アフガンの戦火は未だ絶えないが、その合間にも学術的努力として考古学者による発掘なども進められているようだ。管理人の友人も参加している。他方、依然として不法な盗掘も絶えることなく続いている。アフガニスタンの文化省は、不法盗掘などを摘発するパトロールを実施しているようだが、追いつけないようだ。盗掘者たちは手榴弾、火器などで武装しているらしい。

 戦争による殺戮に加えて、人類の貴重な文化遺産までが失われることには言葉がない。今回、返還された品も、失われた全体からみるとわずかなものだ。しかし、こうした活動を通して、人類共通のかけがえのない財産として、次の世代へ継承することの重要さが少しでも共有されることを期待したい。



References

“Looted treasures return to Afghanistan” By Sarah Rainsford BBC News, Kabul
“Afghan story of recovery: Museum regains stolen artifacts” by Sabrina Tavernise, The International Herald Tribune, October 8, 2009
”Returned Artifacts Displayed in Kabul” The New York Times, Degital Edition, October 6, 2009


# 今回も、cestnormさんの貴重な情報、コメントが大変参考になった。感謝申し上げたい。

#2  折から日本の岡田外務大臣がカーブル訪問中である。たとえ不十分でも現実を見ることはきわめて大切なことだ。

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