将来を嘱望された警察官だったはずなのに、上昇志向の上司の思惑により道を踏み外す事になってしまう刑事。
命令のまま行動していた後輩刑事の暴力シーンを目撃し、それを裁判で証言することで、可愛い後輩の刑務所行きを後押しするような形になってしまった先輩刑事。
運命に翻弄され、犯罪者になってしまった若い刑事達。裏切られた思いに囚われ、出所後、やり直せない道に踏み出し、後戻りする気もない。裏切られた事から振り切れてしまった針は戻らないのだ。その振り切れ方があまりにも潔く美しすぎる。そこまで振り切れるに至った刑務所内での経験を考えると、その振り切れ方が美しければ美しい程、その悲しさと切なさが胸に迫ってくる。
アクション監督も務めるドニー・イェンが演じる真実と正義に生きる先輩刑事のアクションが、どこか綺麗事にさえ見えてくる、ニコラス・ツェー演じる元刑事の振り切れたアクションの数々。一つの躊躇もないそのアクションと復讐の様子に、何ともいえない美しさと寂しさを感じる。復讐の場で見せる、心情溢れるアクションに不思議な達成感が感じられる程だ。
破滅しかないと分かっていても踏み越えた道を後戻りする事なく歩く姿。。。自分を導いてくれた先輩刑事との一騎打ちでも、最後までキレた姿で悲しく美しいアクションを見せてくれる。
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幸せの時 決別の時 白黒つけられない世界 自分を導いてくれた者と対峙する。
エンディングの歌の歌詞がニコラス・ツェーが演じた役柄の心情そのままだ。 作曲もニコラス・ツェー本人というその曲のギターが泣かせる。最後の最後にとんでもないカタルシスだ。
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2020年に亡くなった映画監督ベニー・チャンの遺作。
香港映画と言えば、街中で見せるカーアクションシーンも見物の一つだが、今回の尖沙咀の街中の銃撃シーンはセットを組んで撮影されたとの事。中国でもヒットしたというこの映画。こんな状況になり香港らしいアクション映画を見る事はもう出来ないだろうと思っていたけれど、ベニー・チャンがこんな映画を作ってくれた事が嬉しかった。
元刑事を演じたニコラス・ツェーは、1999年にベニー・チャンが監督したジェネックス・コップ(特警新人類)でも主役を演じている。
1999年秋の「東京ファンタスティック映画祭」オープニングデイの香港ムービーセレクション3本(他の2本はジャッキー・チェンのゴージャス、イーキン・チェン主演の風雲 ストームライダーズ)中の1本として上映され、その際の舞台挨拶を見たのだが・・・・
その当時のメモを見てみると・・・
『ニコラス・ツェー 蕨じこみの日本語を披露してみんなの黄色い歓声をあびていました。』と書いてある。
なんで蕨なのかは書いていないのだが、多分日本で蕨に滞在した事があるという話をしていたのだろう。舞台挨拶には、ジェネックス・コップ(特警新人類)で共演したサム・リーも登壇しており、風雲 ストームライダーズの主演のイーキン・チェンや千葉真一もその場にいたにも関わらず、若者二人は落ち着かない感じでワチャワチャしていた。友人と「イーキン・チェンが落ち着いて大人に見える・・・」などと話して盛り上がった事を思い出した。
あれから20年・・・最後のベニー・チャン作品で美しく切ない姿のニコラス・ツェーを見る事になるとは・・・
【怒火】電影主題曲 謝霆鋒 Nicholas Tse〈對峙 〉(Confrontation) Official MV