音楽を聴いて涙が止まらなくなったことがある
胸をかきむしられる憧憬とか湧き上がってくる興奮のせいではなく
知らず識らず熱いものが流れてくる、そんな体験を今も覚えている
それはベートーヴェンのミサ・ソレムニスの「アニュス・デイ」を聴いた時だ
第九とほぼ同じ頃の作曲で宗教音楽だが、全体の起承転結が明確でないので
とっつきやすい音楽とは言えない(自分がキリスト教徒でないせいもあるかも)
いつものように歌詞は気にせずに音楽だけに耳を傾けた
暗い(?)落ち着いた内省的な音楽が始まる
まずはバスが歌う コーラスが続いた後、次はアルトとテノールの二人
またコーラスが答えた後、今度はソプラノが主体となってアニュス・デイのメロディを歌う
そしてそれは声の組み合わせ(音色としての)と構造としての組み合わせの見事さを
感じさせるもので、歌詞の意味はわからなくても心打たれるものだった
それでも、どんな意味なのか?
と気になってレコードについている解説書を見ると、こんな内容だった
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi:
miserere nobis
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi:
dona nobis pacem.
神の子羊、世の罪を除きたもう主よ
我らをあわれみたまえ。
神の子羊、世の罪を除きたもう主よ、
我らに平安を与えたまえ。
音楽だけを聴いても感動するが、歌詞がわかるとなおさら感動することはあるもので
ベートーヴェンの晩年の心境が痛いほど胸に迫ってくる
それを思うと泣けて泣けて仕方なかった
そして経過句のヴァイオリンのフレーズがダメ出しのように心に直接響く
今この音楽を思い出したのは、祈ることしかできない戦場の人々を思ったからで
人はどんな残酷なことをなし得てしまうのか!という絶望感と
まだ信じられると!いう希望の入り混じった気持ちが戦っているせいだと思われる
音楽は何をなしうるかわからない
でもこの音楽を聴いた人が何かを感じるのは確かだと思う
できることなら、この音楽の求める姿に早くなりますように
ベートーヴェンのミサ・ソレムニスはクレンペラーの指揮したレコードを持っているが
他の演奏よりずっと心打たれる
以下の動画、1時間4分20秒からがアニュス・デイ
ベートーヴェン《ミサ・ソレムニス》全曲 クレンペラー指揮